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  作者: 芦静一
≠1
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1-15

 「とりあえず、心照武器のことはわかっとるな?」


 数寄屋は言った。ピンクの外見とミスマッチな、真剣な声。


 「・・・はい」


 「不安じゃの」


 「発症患者を処理するための道具、ですよね」


 「まあ、合格と言ったところじゃろうか」


 うちの生徒としては不十分じゃが、と付け加えられる。

百も承知だ。


 「そもそも、何故専用の武器が必要なのか。それはわかっているか?」


 「何となくなら・・・確か普通の武器では効果がないから、じゃ?」


 数寄屋は眉間に皺を寄せて目を瞑った。少し唸った後、瞳を閉じたまま言う。


 「それなら、なぜ心照武器は発症者に効果があるのか。それはどうじゃ?」


 「・・・」


 黙り込む新友に呆れるように、数寄屋のため息。悲しいことに、授業で習ったことだと思う。だが、思い出せない。


 無知を戒めるように、数寄屋が解説を始める。


 「心照武器、いや、それに限らずすべての心理照射具は、使用者の精神の状態を物理世界に投射・体現させることができる」


 「念力のようなもの、でしたっけ」


 「まあ、そんなものと思ってもらって構わん。


 そして、MeTHsと言う病気は、MiRVウイルスによって汚染された脳そのものが心理照射具となって、全身を恐怖によって変質させる病気なのじゃ」


 「・・・つまり?」


 「つまりとはなんじゃ、つまりとは。


 まあいい、飛躍するが別の言い方をしよう。MiRVとはつまり、家庭用パソコンをトランスフォーマーやターミネーターにしてしまうコンピュータ・ウイルスのようなもんじゃ」


 「そんな訳わかんないことが・・・」


 「起きてしまうから、最恐のウイルスなどと呼ばれるのじゃ。


 いいか、人間の身体は凶暴化して怪物化するようには出来ておらん。だが、あのウイルスは脳味噌というソフトウェア・OSを書き換え、そこからハードの形状すら変えてしまう。精神によって身体が変形することを可能にしてしまうのじゃ」


 「そう、でしたね」


 そうだった、と新友は心の中でつぶやいた。

 ウイルスによって人間が凶暴化する。それが日常化して、その異常性に対して感覚が麻痺している。


 「生憎、身体のどこをどうイジればそんな風になるのかは、現時点では誰もわかっていない。ただ一人、如月を除いてな」


 数寄屋は、いまいましいと目を伏せた。



 如月集。心理科学という学問をこの世に確立した人物。そして、日常を壊したあのテロを起こした張本人である。


 「全く、ただの天才であれば良かったものを」


 「・・・?」


 「唆されたのじゃよ、如月は。もう一人の天才、とやらに」


 数寄屋の言葉の意味を辿る。なんとか内容は把握できた。が、その裏にある意図が読みとれない。


 「先生は、あの如月集と面識があるんですか?」


 「ああ、大学の後輩じゃ」


 大学、というワードにまず驚く。この推定十四歳が、大学まで卒業しているとは。


 「なんじゃ、その目は・・・わしと如月は同い年じゃぞ。わしの方が入学が早かったのじゃ」


 「・・・如月集が浪人したんですか?」


 「阿呆か、飛び級にきまっとるじゃろ。わしは九歳から大学におったからな」


 ああ、そういうことか。


 納得すると、今度は彼女の歳に驚く。


 「ということは、博士は成人してるってことですか」


 「・・・23じゃが?」


 新友は、思わずピンク色のワンピースから目を逸らした。


 「なんじゃ! いい大人がそんな格好して、博士ごっこしてる場合かとか、そんなことが言いたいのか!」


 「いや、ちょっと違いますけど・・・ごっこではないですし」


 「なんじゃ、『ちょっと』って!」

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