入団
家々が燃え盛り、悲鳴が飛び交う
ただひたすらに壊し殺す
攻撃を受け、虫の息の軍人は思う
「戦争の中では人間の命の扱いなど、ゴミ屑同等なのだろうか」
爆音が轟く中、視線を前へ向ける。
煙幕からうっすらと見える1人の人間・・・
いや、人間というのは明らかに無理があるだろう。
その『化物』の通って来た道には戦車が鉄屑の山と化していた。
化物の姿がこちらへ近づく。
「殺される・・・」
男は確信した、私の命は今此処で尽きる、と。
死の覚悟を決めた男の耳に入ってきたのは
「死とは、なんなのだろうね・・・君には分かる?」
明るく可愛らしい声。
まさかこの子があれを全て・・・
男は幻覚を見ているのだろうか。
悪い夢を・・・
だが身体を覆う激しい痛みはその希望を容易く砕いてしまう。
「あははー・・・変なこと聞いてごめんね」
この戦場に似合わない声が再び聞こえる
「私、ベリンダって名前なの、ベリンダ・フィオレンティーノ。イタリアで生まれたんだけどね・・・」
この状況で自己紹介・・・?
男は少し戸惑っている
「私は、死んでるの」
男は完全に混乱した
死んでいる?
なら何故見える?
ならばこの惨状も全て幽霊の仕業だとでも言うのか?
「あは、こんな状況にそんな冗談聞きたくもないって顔してるね。でも事実だし、ほら」
等と言うと同時に、ベリンダの姿が一瞬にして消えた。
「なんなんだ・・・なんなんだよ!」
男は何も居ない場所へ怒鳴りつける
信じられるはずがない、目の前でいきなり人が消えたのだ
マジックを披露しているのか?
それとも幻覚なのか?
どうしようもない恐怖心に疑問が次々と重なる。
「ごめんごめん、これで信じてもらえるかなーと」
姿を表し笑いながら謝る。
訳のわからない状況の中ベリンダが声色一つ変えずに問いを投げかけた
「でさ、君、死にたくないの?」
突然の問いに混乱する男。
そりゃ死にたくはない
だがこの小娘に何ができると言うのだ
魔法でも使えるとでも言うのか。
「死にたくは・・・無い」
勿論、死にたくはない
私は何か希望的な物に心を惹かれているのか
そんなことを考えていると一言
絶望の一言が聞こえてきた。
「そっか、じゃあ・・・ね」
ベリンダがどこからともなく銃を取り出した
何をするんだ?
助けてくれるのでは無いのか?
「入団おめでとう、同志」
少々嬉しそうな口調で祝福の言葉を紡いだ後、一発の銃弾が男の頭を貫く
おそらく・・・いや、即死だろう。
男は何を思い、何を感じこの世を去ったのだろうか
そんなものは誰一人として知る者は居ないだろう。
救われる者等ひと握りしか居ないのだ
「私は天使でも悪魔でもない、汚れきってるのよ・・・なにが輝かしいのよ・・・」
ベリンダは男を撃った銃を見つめ震えた声で呟き、消えた。