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黎明のウォーバーズ WWI航空戦記シリーズ

死神とのヴァルツェル 〜WWI空戦記録2〜

作者: 流水郎

マッキM.5 戦闘飛行艇

最高速度:209km/h

武装:7.92mmまたは8mm機関銃×2


 イタリア軍が1917年に配備した複葉の戦闘飛行艇。水上機としては傑出した性能であり、当時の陸上戦闘機に匹敵する戦闘能力を発揮できた。

 機体はスマートで流麗なシルエットにまとめられており、推進式のエンジンは上下の翼の間に取り付けらている。配備から1年あまりで240機が生産され、700回出撃した部隊も存在したという。他国から実績のある機体を輸入して使用することが多かったイタリア軍において、特に優れた国産戦闘機と言えるだろう。














 愛するチェチリアへ。


 写真を送ってくれてありがとう。直接ではなくても、君の笑顔を見ることができて嬉しかった。

 君に心配をかけているのは本当に申し訳なく思う。この戦争が誰のせいで始まったのかは分からないし、いつ終わるのかも分からない。地上の戦場はもはや地獄となり、僕らの先祖が守ってきた騎士道の時代は終わりを告げた。

 それでも航空兵となった以上、僕は戦い続けなくてはならない。仮にも騎士の家に産まれた男として、戦うならば最も気高い戦場で戦いたい。それが空だ。

 時代錯誤な考えかもしれないが、そんな僕でも好きだと言ってくれる君にはいくら感謝しても足りない。どうかもう少しだけ、地上から僕を見守っていてほしい。


 追伸

 僕と愛機の写真を同封する。奇麗な飛行艇だろう? 戦争が終わったら、君と二人で平和な空を飛んでみたい。その頃には飛行機も、今より安全な乗り物になっているかもしれない。


   ――エリオ・フォレーネ





「……恋人への手紙にしちゃ、随分シンプルだな」


 油の臭いが漂う格納庫。手紙を書き終わったとき、戦友が後ろから覗いてきた。手早く封筒に納めながら彼の方を振り向く。


「同じイタリア人だからって、誰もが君みたいに甘い言葉を吐けるわけじゃないんだよ。カレル」


 僕の言葉に、カレルは厳つい顔で豪快に笑った。こいつも一応貴族の出身者なのだが、骨張ってかすり傷だらけの顔つきは海賊の親玉のようにしか見えない。そのくせ彼が恋人へ書く手紙は甘ったるい台詞で埋め尽くされており、読んでいるだけで虫歯になりそうな内容だ。


「ま、このくらいの方が純情一筋って感じで、エリオ坊やらしいか」

「坊や言うなよ。君と歳は変わらないし……撃墜数は僕の方が上だ」

「おっと、こいつはやられたな」


 僕は十二機、こいつは九機を撃ち落とした。僕らは二人とも元騎兵だったが、飛行機乗りになたのは僕の方が先だったため戦果は上だ。だが決してカレルの腕が悪い訳じゃないし、きっともうすぐ十機目を墜とすことになる。


 マッチを擦って蝋を炙り、封筒に垂らしていく。手紙に封をする、葉巻に着火するといった細かな作業は結構好きだ。何か気分が静まるのである。赤い蝋がまだ柔らかいうちに素早く印璽を押しつけ、表面に僕の家紋を刻み込んだ。


「チェチリアさん、だったな。元気そうか?」

「ああ。でも手紙には、僕が心配だってことばかり書いてる。……君の方は?」


 そう尋ねると、カレルは苦笑して頬を掻いた。


「アレッシアも、まあ……同じようなもんさ」


 飛行機乗りの恋人というのは、そういうものらしい。恋した男がいつ死ぬかも分からず、空を見上げて帰りを待っている。僕とチェチリアの仲も、彼女の両親はあまりよく思っていない。まあ当然だ、どこで散るかも知れない男に、娘の一生を背負わせる気にはなれないだろう。カレルの方も似たような状況だという。

 それでも僕は、地上では彼女のことばかり考えていた。まるで小麦畑のようなブロンドの、巻き毛が可愛らしいチェチリアのことを。彼女曰く、僕は見た目の割に危なっかしくて、懐古主義で、不器用。でもそれを含めて全て好きだ……彼女はそう言ってくれた。


「この前お前が墜落しかけたことを、チェチリアさんは知ってるのか?」

「まさか。言えるわけないよ」


 数ヶ月前の戦いのとき。被弾してエンジンが火を噴いて、僕は辛くも海上に不時着水したのだ。余計に心配をかけるためチェチリアには話していないが、背中に火傷を負ってしまったのでいつかは知られることになるだろう。そのときはなんと説明すべきか。


「あのとき、チェチリアの顔が頭の中一杯に広がってね。彼女のことしか考えられなくなりそうだった」

「それでどうした?」

「必死で叫んだよ。消えろ死神、お前はチェチリアじゃない……ってね」


 あのとき僕は絶叫しながら、彼女そっくりの死神と戦っていた。気づいたときにはどうにか着水して、炎上する機体から飛び降り必死で泳いでいたのである。

 そして爆発して沈んでいく愛機を顧みたとき、巻き毛の死神はいなくなっていた。


「死神、か……」


 カレルは近くに置かれている、僕らの飛行艇に目をやった。オレンジ色の塗装が施され、地上運搬用の台車に乗せられたマッキM.5飛行艇は、人殺しの道具らしからぬ優雅な姿で鎮座していた。飛行艇に不可欠な両翼フロートには支柱がなく、翼に直接取り付けられている。機銃が剥き出しではなく、機体内部に埋め込まれているのもなかなかお洒落だ。しかし戦いの際には上翼の下にぶら下がったエンジンが雄々しく唸り、アドリア海の空で敵機を狩る。


「あれで飛んでいるときは周り中死神だらけに思える。そんな中でアレッシアの顔をした死神が見えたら……ついて行っちまうかもな」

「無駄に死なないでくれよ、カレル」


 今一度、僕は釘を刺した。彼は勇敢で腕もいいが、時々根詰めて危なっかしい戦い方をする。


「大丈夫さ。俺も死のうと思ったことは一度もない」


 手をコキコキと鳴らし、彼は笑った。


「何が何でも生き延びてやる。何が何でも、な……」






















 … … …

















 操縦席に乗り込んだ僕の頭上で、上翼から吊り下げられたエンジンが回り始める。愛機は波に合わせて上下しながら離水の時を待っていた。アドリア海の晴れ空と澄んだ海の下で、僕らは狩りの準備を進める。澄み切った緑の海面は凪いでおり離陸に支障はない。空は突き抜けるように青いが雲がある程度漂っているため、その形で風向きなどを判断できる。絶好の飛行日和だ。これで道楽で飛べるなら最高なのだけど……。

 操縦桿やペダルを動かし、全ての舵の作動を確認。エンジンの音も問題無い。右手側を見ると、カレルの機体も離水準備に入っている。厳つい顔で整備兵に愛想よく笑っていた。今日は彼と二人での出撃だ。


「エンジン快調! ご武運をお祈りします!」

「ありがとう!」


 顔を油で汚した整備兵が機体から飛び降りる。彼が岸へ上がるのを見届けて周囲の安全を確認、手信号でカレルと合図した。彼も快調なようだ。


「舫を解け! 発進する!」


 作業員たちが繋留用のロープを解き、機体はゆっくりと海上を進みはじめた。徐々にスロットルを開き、エンジンの回転数が上昇していく。

 加速するにつれフロートが水しぶきを上げ、プロペラの回転力で機体が傾く。それを垂直尾翼のラダーで修正しつつさらに加速。オレンジ色のボートが青の海面を疾走する。

 自然と笑みが浮かんできた。風を感じる。潮の香りと油の臭いが入り交じった空気が、後方へ吹き飛ばされていく。アドリアの潮風を切り裂き、僕は鳥人となるのだ。


 速度は十分に上がった。ゆっくりと操縦桿を引き、機首を上げる。支線の張り巡らされた翼が風を掴み、艇体が水面から離れた。このときの快感がたまらない。地上を離れて神の住まう世界へ向かうかのように、マッキM.5は上昇していく。

 否……僕らが向かうのは空の狩り場。殺し合いだ。


 同時に離水したカレルに合図し、僕が先導して飛ぶ。狩猟の始まりだ。二人で鳥を探し、見つけたら即座に仕留めなくてはならない。敵はオーストリア軍だ。

 僕はゴーグルを外して顔面に風を受けながら海を見下ろした。顔に当たる風が多いと途端に恐怖心が増す。海岸の基地も格納庫も、この目線からは物置小屋のように見えてしまう。海面は濃紺と鮮やかな緑の入り交じり、沖にいる味方の哨戒艇から乗組員が手を振っていた。僕も向こうにも見えるよう、機体を傾けながら大きく手を振る。僕らがこうして神の目線を手に入れたときも、地上では人間たちが時間を過ごし……僕らの帰りを待っている。


「……行ってくるよ、チェチリア」


 彼女の笑顔を胸の奥底へしまい込み、僕はゴーグルをかけ直した。






 ……この戦争はそもそも、セルビア人の男がオーストリア皇太子夫妻を暗殺したことが始まりだった。それが敵の敵は味方、味方の敵は敵といった理屈で世界中に拡散し、もはや何のために戦っているのか分からない状況になっている。特にイタリアはそれを象徴したような存在だった。元々はドイツ帝国、そしてオーストリア=ハンガリー二重帝国と同盟関係にあったというのに、今ではフランスやイギリスに加勢してかつての同盟国と戦っているのだ。とはいえイタリアとオーストリアとは領土問題を抱えており、その同盟自体がかりそめの友好だったと言えるだろう。

 だが戦闘機乗りとして操縦桿を握っている以上、僕らにできることは一つしかない。


「……見つけた」


 遠くに黒い点を発見し、一度ゴーグルを外して再確認する。付着した油汚れを敵影と誤認することがあるからだ。

 間違いない、あれは飛行機だ。翼を振ってカレルに合図し、スロットルを開く。接近して敵味方を確かめなくてはならない。体に当たる風で速度を測りつつ目を凝らした。


 僕らの乗る飛行艇とは違う、大型の陸上機。尾翼にはイタリアの三色ペイントが施されており、味方のカプロニCa.3重爆撃機だと分かった。複葉・双胴で三発という異形の機体で、両翼に前向きのエンジンが二基、機体後部には後ろ向きのエンジン一基が搭載されている。

 友軍機と分かっても、胸を撫で下ろすことはなかった。それを追跡する戦闘機がいたのだ。


「フェニックスD.Iか!」


 僕は左右の機銃を装填する。オーストリア軍機によくある魚のヒレ状の垂直尾翼、それに丸い機首が特徴の複葉機だ。安定性と耐久性に優れた相手である。

 そのときカレルが僕の隣に出て、上の方を指差す。そこにも同じフェニックスD.Iの機影が二つ見えた。爆撃機を狙う一機とその後方に二機、合計三機の敵機が相手か。


 カレルは僕とカプロニ重爆を順番に指差す。二機の方は自分が引き付けるから味方機を助けに行けと言っているのだ。一人で二機を相手にさせるのは心配ではあるが、迷っている間に味方が墜とされては元も子もない。


「無理はするなよ、カレル!」


 了解のサインをすると、互いに手を振って舵を切った。僕は左、彼は右へ。

 カレルは得意の正面攻撃で敵機の邪魔をしてくれるだろう。僕は後方にも多少配慮しつつ、カプロニ重爆を狙う敵機を追う。重爆は後ろを取られており、機銃手がやぐら型の銃座にしがみついて応戦しているのが見えた。一方フェニックスD.Iの方も重爆を撃墜するべく射撃しているが、まだ確実に当てられる距離にはほど遠い。緊張から間合いを計り違えているのだとしたらルーキーだろう。後方にいた二機はこいつに経験を積ませるために、敢えて一人で攻撃させたのかもしれない。

 そんな奴を墜とすのは気が引けるが……これが戦争だ。


 僕は機首を上げ、相手よりも高い位置を取る。真後ろからかかってはカプロニ重爆からの流れ弾を喰らってしまうからだ。フェニックスD.Iは安定性を重視した機体なので俊敏ではないが、マッキM5も水上機故に重量が重い。格闘戦にならないよう、高速を活かして一撃で仕留める。

 頭上を取った。奴の翼に描かれた鉄十字が見える。獲物を追うのに夢中で、僕に狙われていることに気づいていないようだ。だが徐々に重爆との距離を縮めており、重爆の機銃手も凄まじい形相で応戦している。憐れみを持つ猶予はない。

 僕は敵の未来位置を予測して照準を合わせた。


「墜ちろ!」


 発射レバーを引き、艇体に内蔵された機銃が唸る。軽快な発射音、漂う硝煙。


 僕がぐっと操縦桿を引いて機首を上げたとき、フェニックスD.Iは錐揉みしながら墜ちていった。煙は噴いておらず、操縦席でパイロットが前のめりに突っ伏している。奴に直接当たったらしい。

 こみ上げてくる罪悪感。まだ飛ぶのを覚えて間もないだろうに、僕に殺されてしまうとは。だが技量に劣る者から死んでいくのは敵も味方も同じだ。その試練を乗り越えて撃墜王アッソとなったからには簡単に負けられない。


 カプロニ重爆の乗員たちが手を振っていた。僕も敬礼を返し、機首を反転させる。カレルは無事だろうか。


 周囲を見回すと、離れたところに三つの機影を見つけた。カレルのマッキM.5と、二機のフェニックスD.Iだ。

 そのうち一機のフェニックスD.Iが煙を噴き出し、黒い尾を引きながら墜落していく。一対二という状況でカレルは一機片付けたのである。舌を巻きつつも援護に向かうべく、機を加速させた。


 だがそのとき、僕は異常に気づいた。敵機が後ろをとろうとしているのに、カレルは回避運動も増速もしないのだ。何をやっているのか。


「……まさか!」


 僕ははっと気づいた。カレル機のプロペラの回転が、二枚の翅がはっきり見える速度になっていたのだ。被弾したのか、故障か。エンジンが止まりかけ、もはや惰性で滑空している状態なのだ。


 無力な存在となったカレルにフェニックスD.Iが迫る。騎士道を重んずるパイロットなら、このような相手を攻撃するのは恥と考えるだろう。しかしカレルに目の前で僚機を撃墜されたのだ。見逃してはくれまい。


「くそっ、間に合え!」


 僕はスロットルを開いた。マッキM.5の高速性を目一杯使い、助けに向かう。

 もう二百キロは出ているはずなのに、その時間が妙に長くもどかしい。聞こえるはずがないと分かっているのに、何度もカレルの名を叫んだ。

 今にもフェニックスD.Iがカレルの機体目がけて射撃しようとしている。僕の射程内まではまだ遠い。


 カレルは後方を振り返りながら操縦桿を握っている。エンジンが完全に止まった機体はただのグライダーだ。僕の射程まであと少し。だがついにフェニックスD.Iが攻撃を始めた。機銃の発射炎が光る。


「カレル!」


 しかしカレルは避けた。相手との距離を測りつつ、最小限の動きで火線をかわしたのだ。

 それだけで十分だった。敵機がカレルを仕留め損なったほんの少しの間で、僕はギリギリ射程内に到達したのだ。

 僕はレバーを引きっぱなしにして撃ちまくった。まだ命中率は低い距離。だが敵に僕の存在を教えてやれば、カレルへの追撃を止めさせることができる。


 敵のパイロットが僕の方を振り向き、続いて左旋回で回避に移った。僕の撃った弾は何発か当たったかもしれないが、フェニックスD.Iは簡単には分解しない。カレルが不時着水すべく降下するのを確認しつつ、僕は敵機を追った。


 今度の相手はそれなりのベテランだ。速度が出ている僕を前に出すべく急旋回してくる。オーバーシュートしないよう敢えて大回りで追撃。

 僕は極力速度を落とさなかった。残っている弾は少なく、頑丈なフェニックスD.Iを墜とすチャンスは一度きりだろう。目一杯接近して撃たなくては。だが敵も必死、なかなか射撃位置につかせてくれない。


 このままでは埒があかない。カレルを守るためにももたついているわけにはいかないのだ。


「……やってみるか」


 僕は覚悟を決めた。

 敵機が急旋回した瞬間、僕はその反対側に舵を切った。敵の進路を見ながら相手と逆方向へ旋回。そのまま風を切って回り、敵機と向かい合う軌道に乗った。


 カレルがよく行う正面攻撃。一瞬でケリをつけるにはこれしかない!


「墜ちろーッ!」


 馬上槍試合さながらの一騎打ち。僕が発射レバーを引くのと同時に相手も撃ってきた。

 機銃弾が空気を切り裂き、周囲を掠めて行くのが分かった。一瞬、チェチリアの顔をした死神が脳裏に現れる。彼女が差し出してくる手を振り払い、僕はそのまま突っ切る。


 至近距離で敵機と交差。エンジン音が波打つ。発射レバーから手を離し、僕は後ろを振り向いた。

 目に入ったのは……濃厚な黒煙に包まれた鉄十字のマーク。エンジンから火を噴き、フェニックスD.Iが海面に吸い込まれていく。


「……死神はお前の手を引いたみたいだな」


 墜ちる敵機に敬礼を送り、短い黙祷を捧げる。


 海上では着水したカレルが手を振っていた。



















 … … …


















「エリオ、一緒に飲まないか?」


 ワインを片手に、アレッシオが夜の格納庫へとやってきた。丁度僕の手元にはグラスもある。


「いいね。もらうよ」


 カレルはグラスに赤い液体を注いでいく。格納庫の油臭さがワインの香りで洗われた。

 僕の機体は数カ所に被弾しており、エンジンも修理が必要だった。だが陸揚げされた愛機は傷ついた体を誇らしげに、格納庫に鎮座している。カレルの機体は回収できそうになかったので、彼を僕の機に移してから破壊した。鹵獲を防ぐためである。沈んでいく愛機に、カレルは「ありがとな」と呟いていた。


「……俺も見たよ。死神って奴を」


 グラスを手に取り、カレルは言った。


「オーストリア人も見たのかな」

「見たかもしれない」


 人間同士の殺し合いである以上、死神は平等に現れるだろう。僕とカレルはそれを追い払う事ができたが、次はどうなるか分からない。

 僕はワインを呷った。豊かな味わいと渋みが口に広がる。血のような赤がランプの明かりに映えていた。


「戦場は死神だらけだな」

「そうだね。だからこそ……」


 ……僕はイタリアのため、同胞のために戦うべく軍人になった。旧ヴェネツィア共和国領などを巡るオーストリアとの領土問題にも業を煮やしていたし、この戦争で憎き敵に一泡噴かせたいという想いもあった。今でも護国の志は変わっていない。

 しかし空の戦場で戦っているうちに、同じ領域に生きる敵国のパイロットたちへの憎しみは消えていった。戦が終われば理解し合えるのではないかという淡い期待も浮かんできた。それでも僕らが戦う以上、死神達は容赦なくその命を刈り取るだろう。時には愛しい女の姿を借りて。


 だからこそ。



「生き残ることが、勝利なんだ」


 机に置いたチェチリアの写真を眺め、僕はワインを飲み干した。




お読み頂き、誠にありがとうございます。

今回は飛行艇が書きたかったのでイタリア軍にスポットを当てました。


マッキM.5は某豚さんが人間だったころの愛機で、その後M.7などの改良型が生まれ、戦後のシュナイダートロフィー・レースにおけるイタリアの快挙に繋がっていきます。

検索すると写真や模型などが出てきますが、とても美しい飛行艇です。


イタリア軍って一次大戦・二次大戦ともにパッとしませんが、勇猛果敢に戦った兵士たちも大勢いたので、今回はかっこよく書かせていただきました。

ご意見・ご感想、お待ちしております。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  それでも航空兵となった以上、僕は戦い続けなくてはならない。仮にも騎士の家に産まれた男として、戦うならば最も気高い戦場で戦いたい。それが空だ。 いつもお世話になっております。彩雲のお話に…
[良い点]  舞台、描写の2つがとても印象に残りました。殺し合いという時間の最中、全体的になんとなく楽天的というか、どんよりとしない雰囲気はイタリアらしさのような物も感じましたし、作中にありました様な…
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