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 人とまともに話すのは、約五年ぶりのことだった。美砂と話していると、失くしてしまった子どもの頃の記憶が戻って来るような気がして、何だか懐かしい心地がした。が、元来僕は人嫌いなので、美砂の他愛もない話を笑いながら聞いていられるほど寛容ではない。

 家族構成がどうとか、通っている学校が遠いとか、美砂の話を聞きながら、何度も彼女を力ずくで追い出そうか悩んだ。

 結局、僕は悩んだだけで、美砂を追い出すことはしなかった。彼女が普通の女の子だったら、例え叫ばれても追い出していたと思う。でも……。

『私もサツキと同じ、死のうとすることが趣味になっちゃてるんだよね』

 美砂は僕にとって特別な存在なのだと、彼女と話しているうちに、知ってしまったのだ。

 そうなれば、僕に美砂を追い出す理由はなくなる。彼女が僕に興味を抱いているように、今では僕も彼女に興味を抱いている。

 できればずっと傍にいてほしいとさえ思ってしまっている。

 不思議だ。人の考えというのは、短時間で簡単に変わってしまうものなのか。

「自殺を止めたいって思ったことはないんだよね。それってやっぱり、私が死に向かうことを楽しんでいるってことなのかな?サツキはどう思う?」

「美砂……」

 唐突に、僕は自身の中に湧き立つ、未知なる感情に戸惑いながら、僕と同じように死を求めてしまう彼女を抱きしめた。

 これが愛しいというものなのだろうか。腕に力を込めるほど、僕の中は切なさで満たされていく。

「サツキ、まだ話は終わってないんだけど……」

 美砂は僕の不意打ちを平然と受け止め、不平を洩らした。が、僕はすぐに彼女から離れようとは思わなかった。

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