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雨が降っていて、肌寒く、じとじとした空気が流れている日は、いつもと違って気分が良い。
普段、引き籠りがちの僕ではあるが、そんな日は、決まって朝早くから外出する。外出すると言っても、自殺願望のある僕がすることと言えば、自分を殺してくれる人を探して、ひたすら歩き周るだけだ。
自殺しようとしても、何故か失敗してしまう僕は、十六歳の時から、殺される為に散歩をしている。目的地はない場合が多い。大抵近場を歩いて歩いて、歩き続けて、殺されることに飽き始めた頃、僕は帰路につく。
そんなことをしても、僕が暴漢に襲われることは滅多にない。見知らぬ男に何度か刃物で腕を切りつけられたことあるが、目的である死の達成は、いつも失敗に終わる。
どんなに努力しても、僕は自分を殺すことができない。
今日も、朝から深夜になるまで、近所の住宅街を歩いて周ったが、僕が自らの意志の下、誰かに殺されることはなかった。
僕が死ねないのはいつも通りと言えばいつも通り。だが、今日はいつもと違うことが、僕の身の周りだけで幾つかあった。
その中でも、はっきりいつもと違うと言い切ることができるのは、僕が部屋を借りて一人で暮らしている、そこかしこで外装が剥がれているボロアパートの目の前の、住居者たちが使用している、共同ゴミ捨て場の横に、身長160㎝前後の小柄な少女が座っていたこと。その少女は、学校の制服に身を包み、右手にピンクの雨傘を持って、段ボール箱の上で、捨て猫のように寂しく一人で、体育座りをしていた。
僕が今日その少女を発見したのは、起床と同時に、外で雨が降っていることに気付き、誰かに殺してもらおうと、朝食もとらずに着替えだけ済ませてアパートを出た、午前五時。少女は、僕が午後十一時半にアパートの前まで戻ってきた時も、ゴミ捨て場の横で、もう雨は止んでいるというのに、相変わらず傘を持って体育座りをしていた。
初め、僕は少女が人形なのだと思っていた。何せ雨の日に、ゴミ捨て場の横に朝早くからずっと座っているのだから、誰も好き好んで汚物の傍でじっとしている子どもなんていないと、合理的に判断したのだ。しかし、帰り際、何となくその少女の手に触れてみると、意外なことに、彼女の体からは温もりが感じられた。
何だ。人形じゃなかったのか。
僕は一人得心すると、体育座りをしている、無表情で虚ろな双眸の少女を抱きかかえ、借りているアパートの一室に、彼女を連れ込んだ。
どうしてかは解らないけれど、少女を見ていると、無性に彼女を犯したくなった。
膨よかな少女の胸に、空ろな双眸を向け、僕は昨日洗ったばかりの敷布団の上に彼女を載せ、裸になろうとした。が、なろうとしただけで、服は脱がなかった。
僕の体は『自らの肉体の死』以外に興味を持てないらしい。少女を犯そうと思ったのは―気まぐれだったのか―結局一瞬のことだった。




