消失現象 消失ショート 1
地球上からありとあらゆる危険や危機が消失した。それはつまり、人間が不意な出来事で死ななくなったということだ。
世界が平和になったと誰もが認識した。車にはねられたり、火事に見舞われたり、遭難したり、溺れたり、チフスになったりしなくなったのだから当然そうなると誰しも思ったのだろう。
そのため地球の人口は増え続けた。人間という生き物が滅多に死ななくなったのだから、それも予想できることであった。世界は急いで火星移住計画やムーンベースの計画を進行しなくてはいけなくなった。
しかし、平和になったはずの地球上である時、突然に別の異変が起こり始めた。その異変とはたった一種類の出来事だ。しかし、とても不思議で残酷なものだった。
人間消失現象。
その現象に世界はそう名前をつけた。その現象はとても簡単なもので、人間がある時急に消失してしまうというものだ。
どんな人間かは関係がない。老若男女、生きていさいすれば、すべての人に可能性がある現象なのだ。
例えば、カフェで女性の友達二人が話をしている。するとその内にその片方が店員を呼んで、アイスコーヒーを一つ注文する。そして友達にもどうするかを聞こうとして、友達の居たその席を見ると、
既にその友達は居なくなっている。
そのには彼女がいた痕跡など何も残っていはいない。唯、誰もいない席があるだけである。
そしてそのままだ。
その友達は二度と姿を現さない。死体も出ない。消えた女性がこの世に居たという証拠は残っていはいるが、それはその人間の居たというほんの少しの痕跡でしかない。残された人間はそんな出来事に悲しんでやることも出来ない。ただ、呆然とするしかない。現実味がひとつも無いのだから当然だと思う。
消える人間の数も毎日様々である。誰も消えなかった日もあるが、一億人ほど一日で消えた日もあるらしい。もっともこれはテレビで見ただけの情報なので本当かどうかは分からない。計算しているとも思えない。
先進国は今、この現象の解明に躍起になっている。新たな病気だと解釈する学者が居る。神様の仕業だというやつも居る。いろいろいる。本当に色々だ。でも僕はそんなことに意味があるとは思えない。いくら調べたってある時ふっと消えてしまったらどうにもならない。どんな思いがあったとしてももうそこには何も、その瞬間には何も残らないのだから。
先週、僕の彼女が消失した。最後に目撃されたのは仕事帰りの電車の中だったという。そして家には帰らなかったらしい。彼女の最後について、僕にはたったそれだけの情報しか分からなかった。
その後、僕は彼女の死体の無い葬式に出席した。そこで彼女の親から、彼女が生前住んでいた部屋を見せてもらった。彼女は自分の使っていた部屋をとても綺麗に整理していたようだった。窓際に一輪だけ花が活けてあった。
彼女の母親にその花の名を聞いてみると、それはアネモネという花だそうだ。
僕はそれを見て、自分もいつ消えてもいいように部屋の整理をしようと、そう思った。
あと、9本こういう根暗な話を書いたので、色々見計らってからまた掲載しようと思います。