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第二章 砂の城壁

第二章 砂の城壁



未央は刑事としての働きぶりを、山川を始め刑事課の多くの人間に認められ始められていた。しかし未央は不服だった。


「またセクハラ事件ですか?しかもまた男がされてる側。」

未央は愚痴を山川にこぼした。

「仕方ないだろ、そういうご時世なんだから。」

「ろくな女がいない。」

「当たり前だろ。男にセクハラする女がまともだと思うか?」

「分かってるんなら聞かないでくださいよ~。」

「こういう事件には女の勘が必要なんだよ。」

未央はぶつぶつ言いながら山川から資料を受け取った。そして事情聴取に繰りだしていった。



ある日、セクハラ事件の事情聴取の準備をしている未央に一本の電話がかかってきた。

「はい、府川署です。」

未央が電話に出ると

「緒方未央さんですか?」

と甲高い小さい子の声が電話の向こうから未央の耳に聞こえてきた。未央は「はて?」と思ったが

「はい、私ですが。」

と丁寧に受け答えた。

「僕の好きな人を守って。」

「へ?」

「藤崎おとめちゃん。」

「おとめちゃん?」

未央は

(なんか聞いたことある名だぞ。)

と思った。

「君はなんていう名前?」

「前田哲!」

「哲くんね。それ・・・、どういうこと?」

「知らないの?おとめちゃんは演歌歌手でお姉さんに守られるんだよ?」

「はい?」

「絶対守んなくちゃダメなんだよ。」

未央はわけがわからなかったが、ここは大人としてしっかり受け流しておこうと思った。

「うん、分かった。お姉さんが必ず守るから哲くんは安心して。」

「あ~よかった。僕未央お姉さんを信じてるから。」

そう言うと少年はさっさとその電話を切った。

未央はインターネットを使ってその藤崎おとめ、という演歌歌手について調べてみた。

六歳の子供演歌歌手で今や相当の売れっ子になっていた。誰かがテレビ番組でおかしな情報でも流したんだろうか、それともあの男の子の頭がおかしかったのだろうか、などと未央は考え込んでしまった。


その日から府川署にいくつも電話がかかってきた。ほとんどが「藤崎おとめちゃんを守って」という未央あてのメッセージだった。



とある日、未央は山川に呼び出され、セクハラの件は別の人間に託し、「藤崎おとめのボディーガード」に従事するよう命じられた。

「一体どういうことですか?」

未央は驚いて山川に問いかけた。

「今度の土曜日にでも藤崎おとめが出てくるTV番組でも見てみなさい。君、美園未来っていう占い師知ってる?」





「確か有名占い師ですよね?この前捜査の関係で本を買った後にその本屋でぶらぶらしていて見つけたんですよ、彼女の本。」

「それがね、彼女が[七歳の藤崎おとめが彼女の殺人を企てる殺人鬼の陰謀をボディーガードの未央という刑事が妨げる]っていう予言をしてて・・・、その女の予言は常にあたるらしくってうちに助けてあげてっていう電話が殺到してるんだよ。」

「なんですかそれ・・・!?山川さんは信じますか?そんな女の言うこと。」

「僕は占いには通じてないからね。」

山川は苦笑いした。

「ま、これも一つの仕事ってやつだ。御客さんの要求に応えてあげなさい。」

未央は肩を落としてうなずいた。

「ところでその子が七歳になるまであとどれくらいなんでしょう?」

「あと三ヶ月だ。そこで、君にはしばらく射撃の練習をしてもらう。」

「射撃?それって刑事の仕事じゃないじゃないですか?」

「相手は殺人鬼だぞ。いくら予言があたるとはいっても、その辺のことは僕の言うとおりにしてもらう。分かったか?」

「はい・・・。」


その翌日から未央は警察官と一緒に射撃の練習をすることになった。未央は集中力のある人間であり、未央の射撃の上達ぶりに周囲の警察官たちは感心していた。

「ふう。」

未央は射撃の練習の後、ヘルメットをとって汗をぬぐい、(こういうの高校生の時以来だな)と懐かしい気持ちになった。未央は高校生の時、弓道部で汗を流していた。



―土曜日の夜

未央は山川に言われた通り、藤崎おとめが登場するTV番組を観てみた。そこにおとめが映っていたが、おとめの顔はひきつっており、彼女がとてつもない不安に襲われていることが未央にはすぐに分かった。

司会者が

「未央という刑事がおとめちゃんを守ってくれると約束してくれたそうです。よかったですね。」

と言い、マイクを司会者の前の椅子に座っているおとめに向けると、おとめは安堵感に満ちた表情で

「はい。」

と答えてうなずいていた。しかしその直後またひきつった顔に戻ってしまった。

すると、その横に座っている少し小太りで白髪をうっすらと紫色の染め涼やかな顔をしたおばあさんが話を始めた。

「私は夢で見たんですよ。その女刑事がおとめちゃんの敵を懲らしめるところをね。」

(懲らしめる・・・。)

未央はお風呂に入って湿りっぱなしの髪の毛を首もとのバスタオルで拭き拭きTV番組を眺めていた。

「では、おとめちゃんの演歌を歌う姿をどうぞ。」

と司会が言うと、おとめの四歳からの演歌を舞台で歌う姿が過去に遡り、それから新曲に至るまで放映された。

「ふ~ん、結構うまいのね~。」

未央はそのおませなおとめの声色と舞台の演出にすっかり感心していた。未央はそのTV番組を見終えると、さっさとTVを消し、ノートに射撃練習の反省文を書きこんだ。未央は土曜日には射撃の個人練習を行っていて、日曜日以外は毎日こうして自分の射撃のスキルや上達具合を落ち着いて検討することで効率的なステップアップを図っていた。その甲斐もあって、未央は着実に射撃の腕を上げていった。



―三カ月後

未央はおとめのボディーガードに配属された。何かあったら山川の携帯もしくは刑事課の電話に連絡するように山川に申しつけられている。今日は七歳になったおとめが夕方の生の歌番組に出演するということで、未央はそれを手始めに付き添うことになった。トイレに行く時も食事する時も一緒にいるため、二人はお互いのことをよく知った。おとめは舞台やTVカメラの前では力強く歌っていたが、根は内気で自分の意見を相手に伝えるのが少し苦手な少女だった。ただ、目もとには気の強さが現れており、未央はそのことに気が付いていた。





未央はおとめが歌っている間、舞台裏で周辺を見渡したり舞台の方をこっそりのぞいたりしていた。

(はぁ、神経の休まらない仕事だわ・・・。)

未央は初日ですでに少し疲れを感じていた。


未央は事件が解決するまで、おとめの住んでいる家に居候することになっていた。未央は自分の乗用車におとめを乗せて、おとめの家へと向かった。

「お疲れ様、おとめちゃん。」

未央はおとめに優しく声をかけた。

「お姉さんも。」

歌っている時とは違う七歳の女の子らしいがどこか声の調子が大人びていた。

「おとめちゃんは四歳から演歌を始めたそうだね。」

「うん、正確には三歳からお歌を始めて四歳でデビューしたの。」

「へ~、おとめちゃん歌が好きなの?」

「好きだけど、お母さんが歌うと喜ぶのが歌をやってる理由。」

未央は少し黙ってから

「歌、楽しい?」

と聞いた。

「うん、楽しい。いろんな人とも会えるし。」

「そっか。」

未央はそれを聞いて安心した。


未央とおとめがおとめの家にたどりつくと、おとめのお母さんが夕食を作って待っていた。おとめの家はガレージのある赤レンガの飾りが埋め込まれたクリーム色の壁をし、赤茶けた屋根のおしゃれな家であり、閑静な一軒家の住宅地にあった。未央が扉のすぐ傍にあるインターンホンを鳴らすとすぐにおとめのお母さんがドアを開けて

「どうも、刑事の未央さんですね、おとめをよろしくお願いします。」

と大喜びで未央を迎え入れた。


「うちは母子家庭なんですよ。しかも私不妊症で、子供はこの子一人なの。だから私にはこの子しかいなくて。あ、このことは秘密にしてくださいね。」

おとめのお母さんは食卓に料理を並べながら未央にそう言った。

「分かりました。それにしても男手無しに子育てとは大変ですね。しかもおとめちゃん演歌歌手だから、あまり家にいられないんじゃないんですか?」

未央は配膳の手伝いをしながらそう聞いた。

「そうですね、淋しい時もありますが、親ばかといいますかこの子が売れてくれてもう嬉しくって。」

「私がおとめちゃんを守りますので安心してください。」

「ありがとうございます。」

おとめのお母さんは未央に向かってにっこり笑いかけた。

「お母様は何かお仕事をしてらっしゃるんですか?」

「はい、ピアノの先生をしています。土日はスーパーでパートをしています。」

「だから、おとめちゃんの音楽センスが優れているんですね。」

「そんなことないですよ。」

おとめのお母さんは少し照れくさそうな顔をした。


食事が始まると、食卓はおとめの今日のお仕事の話で持ちきりだった。未央はおとめのお母さんの顔をまじまじと見つめていたが、どことなくその顔が憂えていることに気が付いていた。


食事が終わるとおとめのお母さんは食器を片づけながら

「明日は日曜ですが、十時からのラジオ番組におとめが出ることになってるので、お願いしますね。八時頃におとめの事務所のマネージャーから連絡が入ると思います。」

と未央に告げた。

「分かりました。」

未央は食器の片付けを手伝い終えると、自分にあてがわれた小部屋に入ってパソコンを開き、その日の報告書作成を終わらせた。





―翌日

未央らが朝食を済ました後、おとめのお母さんが言った通り、午前八時に未央の携帯におとめのマネージャーから連絡が入った。普通はマネージャーが車を出すところだが、未央はそのマネージャーから車でおとめを連れてラジオ局に来てほしいと依頼された。未央はおとめを車に乗せ、ラジオ局へ向かった。

「おとめちゃんって普段おしゃれしないの?」

未央はあまりの演歌歌手の服装の質素さに意外であった。ボブヘアをしていてその日の黄色をしたボール型の口の大きいキャラクターのプリントがなされた青Tシャツにデニムの半ズボン、という格好だった。

「変ですか?」

おとめはまゆげのすぐ下にあるくりっとした目をきょとんとさせて未央に言った。

「ううん、芸能界にいる人って子供でも派手な人が多いっていうイメージがあったから意外だっただけ。」

「質素なのはおとめだけ。このキャラクター見てお母さんに買ってもらったんだ~。」

それを聞いて未央は

(そりゃそうだよな)

と思った。

それから

「おとめちゃん、おとめちゃんをちゃんと守るために教えてもらいたいことがあるんだけど。」

と話を切り出した。

「どうぞ。」

「おとめちゃんの本名教えてくれる?素性が分からないと誰かにもし本当におとめちゃんが狙われてたらそれを防ぐことができなくなるんだ。お願いだがら教えてくれないかな?」

おとめはしばらく黙って淋しい顔をしてうつむいていたが、

「絶対私が守るから。」

と未央が強気に言うと、ようやく口を開き

「坂下茜」

と答えた。

「分かった、ありがとう。でもこれからもおとめちゃんって呼ばせてもらうからね。」

おとめはこっくりうなずいた。


およそ二時間かけ、未央らはラジオ局に到着した。都会というほどではないが、レストランや量販店がいくつか道路わきに並ぶ少し開けた人通りの多い街にそのラジオ局があった。ラジオ局にはおとめの控え室があり、扉の脇には「藤崎おとめ様」と書かれた用紙が張り付けてあった。


未央と茜が雑談をしながらそこに控えていると、サラサラな茶色のボブヘアをし、灰色スーツを着た、背の高めの男がお茶の入ったコップを二つおぼんに乗せて「マネージャーの小林です。」と言いながらドアを開けて入ってきた。

「府川署の緒方未央さんですね。藤崎おとめがお世話になっております。」

小林は二人の間にあるテーブルの上にコップを置きながら未央の方を見て

少し明るめの声で話しかけた。小林の声は低すぎもなく高すぎもなく少しハスキーだった。未央は芸能界の人らしい雰囲気のする人だなと思った。

「どうも。」

未央はそう言い、立ち上がって名刺を手渡した。そして

「何か重大なことが起きたり、貴重な情報が得られたら私の携帯に連絡お願いいたします。府川署の刑事課でも構いませんが、おとめちゃんに直接的なことでしたら私の方に連絡いただけた方が有り難いです。」

と申しつけた。

小林は笑顔で

「分かりました。」

と言うとその名刺を懐にしまいながら茜の方を向き、

「たくましいお姉さんで良かったな。」

と優しく話しかけた。茜はにっこりと笑い返して

「うん。」

と言いながらうなずいた。





そして小林は未央に自分の名刺を渡して話を続けた。

「今まで何かありましたか?」

「いえ、まだ何も起きてはいないです。」

「まだ二日目ですからねえ。小学校にも付き添うつもりですか?」

「そのつもりです。」

「刑事さんというのは地を這うような仕事ですなぁ。」

未央は

(嫌味か!?)

と思ったが

「えぇまぁ・・・。」

と答えておいた。未央は念のため携帯電話の小林の連絡先を登録しておいた。

「十時十五分になったらまた来るんで、それまでリラックスしていて下さい。」

そう言うと小林はおぼんを抱えて控え室から出て行った。


「小林さんってどんな人なの?」

「優しい人。時々お菓子とかマンガ用意してくれるの。」

「ふ~ん。」

未央はもらった名刺を眺めながらそう言った。


未央は外にいる人間が少し気になり、茜を座らせたままにして立ち上がり、ドアを開けて周辺を見渡した。見覚えのある芸能人やそれ以外の人が幾人か輪になって話をしており、何度か人が通りすぎて行った。

(ラジオ局に来ているっていう可能性も無きにしもあらずよね・・・。)

未央はふとドア脇の張り紙が気になった。その紙から何かの紙の端が未央の方に向かってはみ出していた。名刺くらいの大きさの紙が両面テープで張り付けられており、未央は一度セロハンテープで張られている張り紙を取り、その紙を指の力ではがし取った。そしてそっと張り紙を元の状態に戻し、その紙を眺めた。その紙の裏に、

[果たし状 今こそ復讐を遂げるべき  悪魔の僕よ、消え去れ]

と記されてあった。

(これは私に対する果たし状だ。あの子のどこが悪魔っていうのよ。)

未央はむかむかし、少し気持ち悪がりながらポケットにひそめた。

「お姉さんどうしたの?」

怒りむきだしの未央に茜が問いかけた。

「ううん、ちょっと花粉で鼻がむずっとしただけ。」

「ティッシュあげようか。」

「持ってるからいい。」


未央は控え室に戻って茜のそばに座り、考え込んでいた。

(今日私たちを狙うってこと?・・・私がこの子の敵を懲らしめるってことは、もしそうだとしてもこの子にラジオのお仕事をさせて問題ないってことよね・・・。でもそれは予言に過ぎない。でもそもそもこの任務は予言がきっかけ。あぁこういうの困るよな・・・。なにがともあれおとり捜査をするにはこの子には酷・・・。私にできることはしておかなきゃ。)


未央は

「ちょっと大事な用だから。」

と茜に告げて席を外した。

そしてドアの外に出て山川に電話をした。休日であったが、今度は山川がすぐに電話に出た。

「ラジオの方はどうだ?」

「出てくれましたか。」

「僕の奥さんも息子の友達と遊びに行ってもらってるの。」

「はいはい、のろけはいいので。

実は・・・」

と事情を未央は山川に説明した。

「できるだけ早く制服を着た警察官をそちらに登用するよ。もしものために報告はしてあるから。マネージャーやラジオ局の人間には僕から言っておくよ。」

「お願いします。あと、山川さんにお願いがあるんですが、良いでしょうか?」

「何?」





「メールするんで後で見て下さい。ここで言えることではないので。」

「分かった。」

電話を切った後、急いで未央は携帯を通じて山川のパソコンに茜の本名のこと、茜が今の母親の本当の子供ではないこと、茜の素性の詳細を調べてもらいたい旨をメールで伝えた。そして何事もなかったかのように控え室に戻った。その数分後、小林が茜と未央を呼びに再び控え室を訪れた。小林がうなずいて未央に合図をした。そしてうすっぺらな紙を手渡した。「周辺の人間には、警察官の件も伝えましたし不審な人間がいたら追い出すように言ってあります」と書いてあった。どうやらもう警察はこちらに向かっているようだった。


未央は茜がラジオに出演している間じゅうずっと懐の銃を握り締めていた。警察官たちもひきつった顔で周辺を見回していた。しかし、ラジオの放送が終わっても何も起こらなかった。だが未央は、このラジオ局で茜の命を狙っている人間が間違いなくいるということを確信した。



ラジオ放送が終わり未央と茜が控え室で帰る準備を整えていると、未央の携帯に山川から電話がかかってきた。未央は茜に

「ちょっと電話。」

と言って茜のいるところでその電話に出た。

「はい、もしもし。」

「大変なことが分かった、もしそこに子役さんがいたら話声が聞こえないところに行ってあげてくれないか。」

「分かりました。」

未央は携帯のマイクを左手で抑え、茜に

「重大な事だから。」

と告げて控え室の外に出た。未央がマイクから左手を外し

「どうぞ。」

と言うと山川は話を続けた。

「大変だ。その坂下茜っていうのは昔孤児院にいたらしいが、さっき孤児院に出かけて本当のご両親のデータをもらったんだが、父親である坂下正行の父親つまり茜ちゃんのおじいちゃんに当たる男が毒を盛って人を殺している。しかも蓮磨教という宗教団体の教祖で、相手は知られていない宗教団体の幹部なんだよ。」

「つまり、その二つの宗教団体は争っていて、その殺された幹部の人間のいた宗教の信者である何者かが復讐のためにおとめちゃんの命を狙っているということですね。」

「おっとおとめちゃんと言うべきか。恐らくそういうことだ。」

すると突然、

「おとうさ~ん、遊びに行こうよ~。」

電話の向こうで少年の声がした。

「あれ?息子さんですか?」

「来週な。向こう行ってろ、大事な事件抱えてんだ。」

「来週?」

「おっとごめん、友達が風邪気味だったらしくて。明日には事件が解決するかもしれないからな。」

と山川は陽気な声で言った。

「どういうことですか?」

未央は頭の中が混乱してしまった。

「ちょっと作戦があるんだよ。そろそろおとめちゃんのところに戻った方が良いだろ。後はメールで送るから少し待ってて。」

と言うと山川はさっさと電話を切った。

未央が茜を連れて車で茜の家へ戻り携帯を開くと、山川からメールが来ていた。未央は部屋着に着替えて茜たちと食事を済ましてからそのメールを開いた。

「なるほどね・・・。」

未央は自分の小部屋から出て茜の部屋に行った。

「あ、お姉ちゃん、どうしたの?」

茜は自分のベッドの上でマンガを読んでいた。未央はその隣に座って

「今から言うことをよく聞いて。」

と言ってからさらに話を続けた。





「明日の給食は青空の下で食べる青空弁当なの知ってる?」

「うん、友達がメールで教えてくれた。」

「おとめちゃんは弁当をもらっていいけど、それを食べちゃだめ。」

「もしかして。給食のおばちゃんが私を殺そうとしてるの?」

「ううん、でも残念ながら別の人がね。でもその人は病気で頭がおかしくなっていて、本当はおとめちゃんのファンなのに頭がおかしくなっちゃってそういう行動に出るの。」

「なんで頭がおかしくなっちゃってるの?」

「そういう病気だから仕方がないの。考えることと行動が一致しないの。もう恐怖から開放されたいでしょ。」

「うん。」

茜は深々とうなずいた。

「弁当をもらったらすぐに校門に向かって走って来て。」

「分かった。」

「それから、明日は十二時五十分に登校。」

「へ?」

茜は怪訝そうな顔をした。

「この私に任せて頂戴。」

未央は茜に軽くウインクしてみせ、自分の部屋に戻った。

(あの子にはいつか真実を教えるべきなのかしら・・・。)

未央は部屋の壁によっかかって一人自分に問いかけていた。



―翌日

朝食の後、未央は小学校の茜の担任の先生に電話をし、茜が午前中の仕事の用で遅刻して学校に行くということと、仕事先で昼ごはんが茜に出ないため弁当を確保しておいてほしい、という嘘の報告をした。茜は未央に言われて風邪でうなされているふりをした。未央にとっておとりにする人間の母親を説得することは至難の業であった。未央は予言と自分の銃の腕を確信していた。


未央は時間になると作業員のような格好をし、そのポケットに枝ばさみを入れた。これらは山川が速達で送ってくれたものだった。また、その中に五台の小型監視カメラもあった。茜のお母さんは何かの作戦のためだろうと思ってそれを取っておいてくれた。茜に学校に行きたがっている演技をお母さんの前でさせ、お母さんの了解を得て茜に学校に行く準備をさせ、車に茜を乗せて学校に向かった。


未央は学校の近くにある駐車場に停め、

「ここで待ってて。」

と茜に告げて車に茜を乗せたまま車から出て、学校の校門を乗り越え校庭の庭木を整えているふりをしながら校庭の弁当が積み重なった机の周辺の木立に監視カメラを数台しかけた。しばらくの間、未央は監視カメラをチェックしながら校庭の低木の剪定をしていた。そして頃合を見計らって車に戻り、

「それじゃあ弁当をもらってきて。」

と車の中で不安げな顔をしている茜の肩にポンと手を置いて言った。

「大丈夫、私が校門で見張ってるから。」

茜はうなずき、車から出て未央を一緒に校門へ向かった。そして校門にたどりつくと、

「ここからは一人よ。」

と未央は茜に言った。茜が泣きそうな顔をすると、未央は作業着の中で胸元の銃を茜の目に入るように散らつかせ、

「私を信じて。」

と優しい声で言い聞かせた。茜はうなずき、勇気をふりしぼって校門を乗り越え、校庭へ歩みを進めていった。そして弁当を配っているおばさんから弁当を受け取ると、茜は一目散に校門に向かってかけよってきた。未央は校門のかげでその様子を見、周辺を見渡していた。


すると、突如弁当の置いてあった机のバックの校舎の裏から銃を持った女が現れその銃口を茜に向けた。未央は校門に姿を現わし、胸元の銃をその女に向けすかさず発砲した。弾は女の銃にあたり、銃は女の手元からすっとんだ。それをすかさず私服の警察官が拾い上げた。すると今度はその女はズボンのポケットからナイフを取り出し、茜に走って近づいてきた。未央は銃口を女に向けていたが狙いが定まらない。





茜が校門にたどりつくと未央は茜と一緒に車に向かって走った。ナイフを持って狂ったように走る女を別の私服警察官が捕えているのを、車に乗りこんだ未央はしっかりと見届け、茜を連れて署へと向かった。山川が小学校の校長先生と取り合い、数名の私服警察官を派遣し、彼らに教員のふりをさせてくれていたのだ。未央が設置した監視カメラは私服警察官が回収した。

「お姉ちゃんって射撃の天才だね。」

茜の言葉に未央はすっかり喜んでいた。

「おとめちゃんは歌の天才よ。」



「お、来たな。」

山川は刑事課の窓から未央の乗用車がこちらに向かってくるのを笑顔で眺めていた。


未央が茜を連れて刑事課に入っていくと

「お疲れさん。あの女は捕まったよ。」

と山川は未央の肩に手を置いて話しかけた。未央はうなずき、茜を刑事課にあるソファーに座らせ、山川の近くに行き話を始めた。

「相手は銃を持っていました。犯人はあの女一人とは思えませんが。」

「あそこで弁当を売ってる犯人はあの女一人だ。蓮磨教に敵対していた冥信学会の一味で、そのメンバーは二十四名いたんだが、メールでも伝えたけどそれぞれを詳しく調べ上げたらあの弁当屋でパートをしているのは唯一あの信者だけだった。教祖を始め二十三名の拘束に向けて警察が今動いているよ。」

「小学校が青空弁当をその弁当屋から購入するってなんで分かったんですか?」

「おとめちゃんの通っている小学校に、息子も通っているんだよ。それに、僕はあの予言を信じていたからね。」

「おとめちゃん、危機一髪だったのね・・・。」

未央は下を向いて首を振った。

「しばらくおとめちゃんはその二十三人の捕獲までここでかくまってあげないとな。ここからは予言じゃないよ。でも、すぐに捕まるってことだろうな。」

山川は茜の安心している様子を見ながらそう言った。

「そうだといいですね。」

未央は手袋をはめて茜が手にしているお弁当を手にし、自分のデスクの引き出しから透あらたのプラスチック製の袋を取り出し、それにしまった。



―一週間後

警察によるその女の身元や事情聴取などの捜査により、二十三名の冥信学会の信者が捕まった。教祖は、すでに殺害された幹部の息子であった。蓮磨教は今はすでに解散しており、どこにも存在しない。山川は未央から連絡があった後の捜索により、殺人の罪にまったく関連していない人間の殺人を許されざるものとする冥信学会の信者は、舞台やTV局、ラジオ局では犯行に及ばないだろうと推測し、小学校での犯行を睨んだのであった。また、一つの宗教に猛烈につき従う信者が、予言を恐れて殺人をしようとしない、ということはないと確信していた。

未央が設置した小型監視カメラには、銃を持っていた犯人が弁当に毒を盛る姿が映っており、茜が手にしたお弁当からは毒が検出された。



―週末の休日

新聞のTV欄をしっかりとチェックしていた未央はその夜、とある音楽番組にTVチャンネルを合わせ、茜が舞台で歌う姿を見ていた。赤い煌びやかな着物を着て赤い髪飾りをし、とてもにこやかに楽しそうに歌を歌い、その後番組の司会の質問にはきはきとした調子で答えていた。

「おとめちゃん、犯人に銃を向けられた時はどんな気持ちだった?」

「全身に鳥肌が立って心臓がばくばく言い始めました。でも、お姉ちゃんが守ってくれると信じてたから怖くなかった。」

「お姉ちゃんとはあの予言の未央という女刑事のことですね。」

「そうです、とてもたくましいのにとても優しいんです。」

そう言ってTV画面に向かって手を振った。

TVに映る茜のその姿を見た未央は一人で照れ笑いを浮かべていた。




そして、

(いつか茜ちゃんが自分くらいの年になったら、何があったのかについて伝えたい。)

と思ったのだった。



―数日後

府川署刑事課にて

「おい、未央くん、ちょっと。」

山川は未央に書類を手渡した。その中身を見て

「セクハラが終わったと思えば次は盗撮ですか。」

と未央は呆れた顔をして嘆いた。

「こういった件には女刑事の協力が必要なんだよ。」

山川はそう言って苦笑いした。

(もう一体どうなってるんだか。)

と未央は深くため息をついた。

「はい、よろしく頼んだよ。」

「山川さ~ん、また銃、携帯させてもらえないですかね。」

「素手でねじ伏せろ。」

未央は

「山川さんみたいにここつかって刑事としてひっ捕まえてみせますよ。」

と指で自分の頭を軽く突いてそう言い、山川から受け取った書類を手にし、自分のデスクに戻って大人しく仕事を始めたのだった。





―END―





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