仲直りにはカルピスを♪
「侑斗、そろそろ仲直りしようよ。」
「うっせえ。望実は黙ってろ。」
むすっとした顔のまま、侑斗は部屋を出て行った。
「ねえ、春樹も。仲直りしよう。喧嘩なんかしてても楽しくないよ。」
「侑斗が謝るまで仲直りなんか、しねえ。」
春樹は私に背を向けたまま、独り言のように呟いた。
「春樹…。侑斗も…。こんなことぐらいで喧嘩しなくっても…。」
「こんなことって。俺たちには大切なことなんだ。」
春樹は私の方に振り返り、手に持ったゲーム機のコントローラを私に突きつけるように言った。
「ゲームで負けたからってそんなに怒らなくても。」
「あいつがズルばっかりするからいけないんだ。それに負けてねえ。」
「ズルって言っても、侑斗の肘がちょっと当たっただけじゃん。」
「でも俺はそのせいで負けたんだ。」
「そうかもしれないけど…。」
春樹には何を言っても無駄みたい。
そんなにゲームに負けるのが悔しいのかな。
「と・に・か・く、俺はあいつとは仲直りなんてしない。」
春樹はそう言うと、私に背を向けてゲームを始めた。
すると、部屋中に虚しくBGMが響きわたった。
一人でゲームをするよりもみんなでゲームをするほうが楽しいのにな。
何で仲直りしないんだろう。
私は春樹を説得するのを諦めて部屋を出た。
部屋を出て、侑斗を探していると侑斗は台所でクッキーをかじっていた。
「侑斗、こんなところで何してるの?」
「…。」
侑斗は無言のまま、私に背を向けた。
私はむっとした表情のまま侑斗をじっと睨んでいると、横から侑斗のお母さんがやって来た。
「あらあら。二人してどうしたの?」
「おばさん。侑斗と春樹が喧嘩しちゃって…。」
私はそれだけ言うと、侑斗のほうに指をさした。
「ふーん。」
おばさんはそういうと、台所に立って私の方にちょいちょいと手で招いた。
「なに?」
私はそう言いながら台所に行くと、おばさんは微笑みながら私の耳元で囁いた。
「そろそろ、3時でしょ?オヤツにしましょ。」
「えっ。でも…。」
私は侑斗と春樹のことが心配で二人がいるところを交互に見ていると、おばさんはくすっと笑って大丈夫、大丈夫と私の肩を軽くポンポンと叩いた。
私は少し考えてから、こくんと首を縦に振った。
「よし、今日のオヤツはクッキーでいいとして…飲み物は何がいい?」
「えっと…。」
私がうーんと考えていると、おあばさんは冷蔵庫の中からカルピスのビンを取り出した。
「決められないなら、これでいい?」
「カルピス?」
「うん。望実ちゃんはカルピス嫌い?」
「うーうん。好きだよ。」
「じゃあ、決まりね。」
おばさんはそう言うと、コップを3つ取り出した。
そして、それぞれのコップにカルピスを半分づつ注いだ。
「隠し味にハチミツを入れると美味しいのよ。」
私にだけ見えるようにウインクすると、くすっと笑いながらコップにハチミツを少しづつ入れた。
「最後に水と氷をいれてコップでかき混ぜると…ほら、できた。望実ちゃん、二人に持っていってあげて。」
「はーい。」
おばさんの嬉しそうな横顔に元気づけられて、元気よく返事をしてから台所を出た。
「侑斗。そこらにあるクッキーを持って行って、みんなで食べなさい。」
おばさんは台所に立ったままそう言うと、侑斗はつまらなそうに返事もせずに部屋に戻っていった。
私はカルピスをこぼさないように気をつけながら、侑斗の後ろを追いかけて行った。
部屋に入ろうとすると、部屋の殺気だった険悪な空気が自然と伝わってきた。
何か、ちょっと怖いな。
でも、このままずっと部屋に入らないわけにいかないし…。
よし、深呼吸して…。
すー。
はー。
すー。
はー。
ドアをゆっくりと開けた。
侑斗と春樹は見つめ合ったまま、静かに火花を散らしていた。
「侑斗、春樹、オヤツでも食べよう。」
私は部屋の真ん中にある机の上にあるクッキーの隣にコップを3つ並べた。
「カルピスだって。早く、飲もう。」
私は真ん中のコップを取って、2人を交互に見た。
「…しゃーねな。」
侑斗は文句を言いながら両手にコップを持って、左手にあるコップを春樹のほうに突き出した。
春樹は侑斗をじっと睨んだ。
少ししてから、春樹は侑斗からコップを受け取った。
「いただきまーす。」
私は2人を見ずにカルピスを一口飲んでからカルピスを見ているとカチンとグラスとグラスの当たった音が聞こえた。
私ははっとして二人のほうを見ると苦笑いしながら、でも嬉しそうに二人はカルピスを飲んでいた。
男の子って不思議だな。
たった今まで喧嘩していたのに、今ではもうすっかり仲直りしたみたい。
まるで、カルピスのおかげみたいだな。
うーうん。
カルピスのおかげなのかもしれない。
春樹も侑斗も子供だ。
カルピスの…。
たった1杯のカルピスで…。
仲直りするなんて、私バカみたい。
一生懸命二人を仲直りさせようと頑張ってたのに。
でも…もういいや。
そんなこと。
だって、仲直りが出来たんだもん。
みんなが笑顔でいられるならそれでいいや。
そうだ。
今度二人が喧嘩をしたときのために、後でおばさんにこのハチミツ入りカルピスの作り方を教えてもらおう。
「なにニヤニヤしてるんだよ。」
春樹は私の方を見て、一歩下がりながらそう言った。
「なんでもない。」
私はそれだけ言ってコップに残っていたカルピスを一気に飲み干した。
ちょっぴり甘くて、なんとなく愛おしくなってしまうような不思議な魔法のカルピスを…。