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女子社員たちは、他責思考に呆れる。

作者: 幻邏
掲載日:2026/10/30

挿絵(By みてみん)


 今日の俺、いつも通り社員ダイニングで、いつもと違う弁当を食べるため、レンチンが終わった弁当を持って、いつも使っている席に着いた。


 今日の弁当は、お袋が作ったやつだ。ものすごく怖い。

 2日前からお袋が遊びに来ていて、家に泊まっている。俺はホテルに押し込もうとしたが、カミさんがお袋と観劇に行く約束をし、うちに泊める約束もしたのだ。

 険悪な嫁姑関係とか無縁なくらい、仲がいいのでよかったけれど、何でお袋に弁当任せるかなぁ?! 絶対に俺が学生だったころの弁当で、記憶が止まってるはずだ。

 そのため、この蓋を取ろうとしている今、とても心拍数が上がっている気がする。



「あーーーっ、ホントやだー!」


 この声は、同じ部署の宮原。パーテーションを隔てた後ろに、今日も彼女がいるようだ。

 きっと彼女の同僚である伊藤もいる。


「ホントに嫌すぎる!」


 あれっ、伊藤からも同意の声?!

 な、なんか、起きてたっけ? あ、俺午前は営業の外回り行ってたから、なんか起きてたのかわからない。

 俺に電話やメッセージがないって事は、社外からのクレームではなさそう。


「なんで、あいつらなんかあったら「AIが言ってたんです」しか言わないの? 馬鹿の1つ覚えかよ!」


 うわー、宮原ご立腹もご立腹。しかし、それは俺でも嫌だからすごくわかる。


「AIが言ったわけじゃなくて、選択した自分の責任ですよ。って伝えても、伝わらないのが不思議だわ」


 伊藤さん、そちら他責思考ってやつです、ハイ。

 って、弊社AI使用禁止ですが?!


「今日朝イチは客先直行してから出社したけど、旧新人のやつ「ご苦労様です」って言ってきたし!!」

「ありえないわよね。去年入社なのに。私もその場で「ご苦労様じゃなくお疲れ様でしょ」って、注意したけど」


 去年の入社か。それで旧新人なんだな。先輩に向かってご苦労様はないよな。

 きっと『ご』とか『様』がついてるから、問題ないって思ってるんだろうな。


「社会人マナーをAIで勉強しています。AIがそう言ってました。って返されてビックリしたわ。どこのポンコツAIシステムよってなるわよね」


 あぁ、業務じゃなくて、個人的な勉強をスマホのAIシステムとかでやってんのか。 

 伊藤の言葉に同意。むしろどんな調べ方をしたら、そんな答えが出てくるんだ??


「ホントホント。AIが弾き出した結果を『自分が選択してる』んだから、責任は全部自分だっての、わからないのかなー」


 現代だと同僚・先輩・上司・はたまた客へのご苦労様は、失礼な言葉だもんな。

 上長から部下へ使う言葉って、俺も社会に出てから知ったけど。


「しかも、その旧新人、中途だからね。ほかの会社でも社会人やってた人だから、尚更ありえないよ」

「ホントよね。新卒社会人ならまだしも」


 えー! それはイカンだろ。

 そんでAIに相談というお勉強してんの? 意欲はあるんだろうけどさ、ビジネスマナーのインターネットページたくさんあるよ?!


 さて……そろそろ、弁当の蓋を開けよう。

 お? 普通の助六すし風のお弁当だ。うわ、レンチンしちゃった……けど、酢の匂いしないな。助六風なだけか。

 お袋の事だから、唐揚げモリモリかと思った。

 いやいや、この弁当箱の厚みを考えると、下に何かある。

 どれどれ、とりあえずいなりをひとつ。なんか、ちょっと色が濃いな。うん、味も濃い……醤油の味が濃い。ついでに甘い。カミさんが作る、お出汁多めのいなりじゃなかった……色でわかってたけどさ。


「しかも、イトちゃんが注意した時、首傾げてたよねー」

「ご苦労様を、先輩に向かって言うのは、現代ビジネスマナーとして良くないことよ。って言ったけど……私、難しい事言ったかしら?」


 いいえ、俺にはわかりましたよ。

 伊藤や宮原は、間違いなく先輩でしょーが……。

 入ったばかりなら、前の経験がどーであれ、全員先輩だ。……思い当たる人は数名いる。数名いる時点でダメだよな。


「あたしたちならまだいいけど……いや、良くはないけど、部課長やお偉いさんたちにまで「ご苦労様ですぅ」って、いつか言いそー」

「ほんと、何度注意しても、お疲れ様に直らないのよね。前世は、生まれた時から上司だったのかしら?」


 生まれた時から、上司!! それどこの王族だよってなるな。

 さて、太巻きをいただきますっと。……お袋様、桜でんぶモリモリです。甘すぎです。我が家に桜でんぶなんて無かったよね?!


「それか、1度覚えたら、アップデートできない可能性もあるよねー」


 宮原、それはとても困るやつです。仕事を覚えてもらえない。いや、すでにマナー覚えてないからダメか。

 助六風エリアを少し食べると、見えてきました。下段のおかずエリア。茶色の、ゴツゴツな表面が見えます……。嫌な予感がします。


「そんでさ、注意受けた10分後に、スマホ画面見せてきて、「AIに相談しました。AIはこう言ってますぅ」ってねー」

「そうじゃないわよ、その画面に出た言葉を信じたあなたの落ち度よって言っても、やっぱり首を傾げるのよね」


 いや、ホント『言ってない』から。AIって検索して言葉を組み合わせた結果を表示するだけだから。

 どこどこの出典元のページを参照しました、書いてあっても、その文言がページ内に無いなんてザラにあるから。

 って、情報システム部の、AI検証している人らが言ってた。


「そもそも『相談』って意味わかんないよね。抽出結果なのに」

「ホントそれ」


 ちなみに俺AI使わない。

 社内で使用禁止のものを、プライベートでわざわざ使って支障出たら困るし。


 あ、やっぱり竜田揚げじゃねーか! お袋、やりやがったな……!!

 竜田揚げのゴリゴリ表面は、レンチンで柔らかくならず。1個がひとくち超えるサイズ。そして衣の味は濃ゆいし、肉も鶏もも肉だし下味ついていて……濃い。

 カミさんの鶏むね肉な竜田揚げが、すでに恋しい。



「チャット形式で質問するのもあって、LINNEトークしてるような気分になるのかなー」

「うーん。そうかもしれないわね」


 へー、AIってトーク形式なんだ。

 あ、確かチャットなんたらって名前のAIあった気がする。

 ぎゃー! ご飯ものの下、全部竜田揚げじゃねーか! お袋、やっぱり学生の頃の弁当の記憶で止まってら……。




 …………頑張った、俺。

 ハラ8分目なのに、胸いっぱい。うっぷ。

 そして水筒のお茶がホット! グビグビ流し込んでサッパリしたいが、ホットじゃ無理だ。自販機で冷たいの買おう……。

 ゆっくり食べていたのもあって、後ろにいた宮原と伊藤は、もうすでに昼食を終えていたようだ。



 自席に戻ると、宮原と伊藤は既に戻ってきていた。


「あ、部長おかえりなさーい」

「あぁ、もどりました」


 宮原が俺に気づく。午前は営業に出てたからな。

 伊藤もその声で、俺の方を見た。


「お疲れ様です」

「お疲れ様」


 うん、やっぱ自然とこうなるよな。『外回りお疲れ様です』って意味もあるだろうし。


「これ、客先から」


 客先に行くと、ノベルティをくれたりって事もあるので、オシャレそうな品は、営業部の女子社員たちへ渡す。


「ありがとうございますー!」

「ありがとうございます。あら、秋の味覚なティーバッグセットですね。これ、客先から試飲や感想、頼まれてますか?」


 発売前のサンプル品を頂き、試飲を頼まれる事もある。伊藤が気づいてくれて、俺は首を振る。


「いや、今回は頼まれてないけど、感想お伝えしたら喜んでくれると思う」

「じゃあ、全種類飲み終わったら、感想をメールで送りますね。引用お願いします」

「あ、じゃああたしも、そうしまーす」

「ありがとう」


 こうやって気遣いしてくれる人たちのおかげで、客先とも和やかでいられて、助けてもらえてるなぁとしみじみ実感する。

 ごめん、俺紅茶飲めなくて……。


「あら、午前いなかったですよね」


 不意に斜め前あたりから、声が聞こえる。別の部署の人だけど、俺の近くに座ってることが多い人だ。


「あぁ、外回り行っててね」

「そうだったんですね。ご苦労様です」


 視界の端に、目を見開く伊藤と、口をあんぐり開けた宮原が映った。


「あんた、俺の上司か? 電話口でも社内の人間からの電話にご苦労様って言ってるけど、俺の記憶では、去年入社で、デジタルマーケティング部所属の一般社員なんだが」


 つい、口から出てしまう。


「社内の先輩や、上司に対してご苦労様と言うのは失礼に当たる事、ほかの先輩方から注意を幾度も受けているのだって知っているが、なぜ直さないんだ? 直さない理由を教えてくれないか」


 ご苦労様を直さない理由を聞かないと、気が済まない。

 いや、青ざめた顔してないでさ、俺は理由を聞いてるだけなんだが。


「えっと、その……」

「理由」


 すみませんーと言われて、逃げられてしまった。


「部長……ガン詰やったら泣きますよ、耐性ない人はー」


 宮原が笑いながら言う。伊藤も気の毒そうな顔をしつつ、肩が震えているぞ。


「いや、俺は理由を聞きたくて……」

「注意やアドバイスを、聞かないタイプなだけですよー」


 そりゃそうなんだろうな。

 1度注意して直らなきゃ、注意する側は諦める人のが多い。こいつには言っても無駄ってね。

 注意を聞かない人、最近増えてるから、みんなすぐ諦めるんだよな。気持ちはわかる。


「いろんな人から言われていて、是正なしはまずいだろ。午後イチ、デジタル(デ)マーケ(ジ)ティング(マ)部の課長にでも聞いてくるか」

「うわ、とことん詰めるんですね」


 伊藤、ドン引きしないで。俺、純粋に理由知りたいだけ。



 そして、胸やけを抱えつつ、午後の業務開始を迎える。冷たいお茶の効果は薄かった。

 デジマ部課長のとこに行って、当人も呼んでもらい訊いてみた。

 そうしたら「AIに聞いたら大丈夫って言ってた」だと。宮原と伊藤の会話の通りだった。

 俺と同じく呆れ顔な課長立ち合いの元、説明をしておいた。



 AIの出した文字を信じるのは勝手だが、それは、自分が選択した事であって、選択の責任は自分が持つ事。


 同じような注意を幾度も受けているのに、是正をしないのは、勤務態度が悪いと思われる事。


 AIとではなく、人と仕事をしている事。

 そんな態度だと、言葉を渡してもらえなくなる事や、信用して仕事を任せる気にはならない事。


 と、細かに伝えたが、ご苦労様コールを散々注意され、直さなかった今までの実績があるため、信用度は低い。

 もちろんそこも、しっかり伝えておく。

 デジマ部の課長よ、ドン引き顔で俺を見ないでくれ。



 さて、翌日から俺は東北へ出張。

 注意した結果が明日から出ているのか、見る事は出来なさそうだ。


 カミさんの弁当ランチは、来週までお預けか……。

AIについては、聞いたものによる想像です。(生成AIシステムには触らないので)

AIの出した文言については、物語の中による抽出結果ですので、現実の抽出結果ときっと異なります。

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― 新着の感想 ―
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Webで検索したらAIの回答が表示されるようになった頃の思い出ですが、ふと「与するの読みってクミするだったよな?」と思って検索すると表示されたのが 『与するの読み方は ヨする です』 いや流石に違…
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