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この世界にはどうやら魔王が最強でほかにも獣人族エルフ族小人族がいるようです  作者: 1010
第4章 「気づかれない者たちが、世界を変える」

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第4章 第6話「記録の守り手」

歪みは、まだそこにあった。

だが——

広がりは、止まっていた。

「……なんで?」

セリアが呟く。

ピコが現れた瞬間から。

動きが、鈍くなっている。

「気づかれてないから」

ピコが小さな声で言う。

「黒幕に?」

「うん」

「なんで?」

「小さいから」

あっさりと言う。

「観測網に、引っかからない」

リオがその言葉を聞いて——

小さく頷く。

(……やっぱりな)

「ピコ」

リオが問う。

「なに」

「いつから、いる?」

少しの間。

「長い」

「どのくらい」

「覚えてない」

その答えに——

セリアが目を丸くする。

「覚えてないって……」

「長すぎて」

ピコは静かに言う。

「数える意味がなくなった」

沈黙。

その言葉の重さが、じわりと広がる。

「……記録してたの?」

セリアが聞く。

「うん」

「何を?」

「全部」

即答だった。

「この世界の繰り返しを」

ガオルが低く唸る。

「繰り返し……?」

「この世界は」

ピコが言う。

「何度も、同じことを繰り返している」

「争いが起きて」

「均衡が崩れて」

「戻る」

「また同じ形に」

ガオルの表情が、わずかに固まる。

「……それは、本当か」

「本当」

「証拠は」

「ある」

ピコが小さな手を動かす。

光が、わずかに滲む。

映像のような——

何か。

「……っ」

セリアが息を呑む。

そこに映るのは——

同じ風景だった。

森。

争い。

均衡。

崩壊。

そして——

また同じ森。

「同じだ」

ガオルが呟く。

「うん」

ピコが頷く。

「何度も」

「何度も、同じことが起きた」

「止められなかったのか」

リオが問う。

「止めようとした者はいた」

ピコは答える。

「でも——」

少しだけ間。

「全員、修正された」

その言葉が——

重く、落ちる。

「修正……」

セリアが呟く。

「消されたの?」

「消えた」

「流れの中に」

「飲み込まれた」

静寂。

風が、かすかに動く。

「でも」

ピコが続ける。

「今回は違う」

「なにが」

セリアが問う。

ピコの深い目が——

セリアを見る。

「あなたがいる」

「私?」

「うん」

「なんで私が」

「気づかれないから」

リオと同じ言葉。

「黒幕には——」

ピコが言う。

「見えない存在がいる」

「私と」

「あなた」

セリアは黙る。

自分が「見えない」という感覚が——

まだ、うまく掴めない。

「どういう意味?」

「黒幕は流れを管理している」

ピコが説明する。

「でも流れの外にいる者は——」

「見えない」

「私は小さすぎて」

「あなたは——」

少しだけ止まる。

「逸脱しすぎて」

「逸脱?」

「本来の流れから、外れている」

「だから——」

「観測できない」

セリアは、その言葉を噛み締める。

(逸脱……)

エルフの長も言っていた。

「あなたは外れ始めている」と。

「じゃあ——」

セリアが言う。

「私とピコは、似てるってこと?」

ピコは少しだけ間を置いて——

「似てる」

と答えた。

「気づかれない者同士」

「だから——」

「引き合った」

その言葉に。

セリアの胸に、何かが灯る。

(ずっとそこにいた)

(気づかれなかったから、安全だった)

(でも——今、出てきた)

「ピコ」

セリアが言う。

「なに」

「なんで今、出てきたの?」

重要な問い。

ずっと隠れていたのに。

なぜ今。

ピコは——

少しだけ、目を細める。

「タイミング」

「タイミング?」

「記録を渡す、タイミング」

「渡す?」

「うん」

ピコがセリアを見る。

その目は深い。

「あなたに」

「え……」

「私は、記録してきた」

「ずっと」

「でも——」

「記録するだけじゃ、変わらない」

その言葉に。

リオが、わずかに目を細める。

(……そういうことか)

「変えられるのは——」

ピコが続ける。

「流れの外にいて」

「でも、流れの中で動ける者だけ」

全員が沈黙する。

その言葉の意味を——

理解しようとする。

「それって——」

セリアが呟く。

「私のこと?」

「うん」

「でも私——」

「できるよ」

即答だった。

「なんで分かるの」

「見てたから」

「最初から」

その言葉が——

静かに、刺さる。

セリアは黙る。

(見てた)

(最初から)

(ずっと)

「……ピコ」

やがて、言う。

「重いね」

「重い?」

「その記録」

少しの間。

ピコが——

小さく、頷いた。

「重い」

「でも——」

「一人で持つより」

「二人の方がいい」

その言葉に。

セリアの目が、じわりと滲む。

「泣くな」

ガオルが言う。

「泣いてない」

「また目が光ってる」

「光ってない」

「光ってる」

リオが横から言う。

「リオも言う?」

どっと空気が緩む。

ピコが——

小さく、揺れた。

笑っているのかもしれない。

分からない。

でも——

「じゃあ」

小さな声が言う。

「一緒に持とう」

その言葉が——

確かに、そこに置かれた。

歪みは、まだ残っている。

黒幕は、まだいる。

でも——

この場所に。

四人が、並んでいた。

人間でも、エルフでも、獣人でも、小人でもない。

ただ——

同じ方向を向く者たちが。

リオは空を見上げた。

(……面白くなってきた)

いつもの言葉。

でも今回は——

少しだけ、重みが違った。


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