第8話「討伐」
ざわめきは、突然途切れた。
「——来るぞ」
誰かが呟く。
その一言で、空気が一変した。
リオも感じていた。
(……速いな)
森の外側から、一直線に近づいてくる気配。
隠していない。
むしろ——
「……わざとか」
堂々と、来ている。
次の瞬間。
ドン、と空気が震えた。
広場の端。
木々がなぎ倒される。
そして現れる。
統一された装備。
無駄のない動き。
「見つけた」
先頭に立つ男。
ガルド。
その目が、まっすぐにリオを捉える。
「やはりここか」
静かな確信。
セリアの顔が青ざめる。
「なんで……こんな早く……」
「追ってたからね」
リオが軽く言う。
「軽く言わないでよ……!」
その間にも。
討伐隊はすでに動いていた。
「全員、殲滅」
ガルドの一声。
それだけで。
一斉に動く。
速い。
迷いがない。
「チッ……!」
グラムが前に出る。
「来やがったか」
「迎撃しろ!」
誰かが叫ぶ。
魔族たちも動く。
ぶつかる。
刃と爪。
魔力と血。
一瞬で、戦場になる。
「……すごい」
セリアが呟く。
だがそれは感嘆ではない。
恐怖だった。
どちらも、容赦がない。
「下がって」
リオが言う。
「巻き込まれる」
「リオは!?」
「俺は——」
言いかけて、止まる。
視線の先。
ガルドがこちらへ歩いてくる。
戦場の中を、まっすぐに。
他を無視して。
「……お前だな」
止まる。
数メートルの距離。
「ようやく見つけた」
その目に、迷いはない。
完全な確信。
「何の話?」
リオがとぼける。
「通用しない」
即答だった。
「この規模の魔族反応、その中心」
一歩、踏み込む。
「お前しかいない」
空気が重くなる。
セリアが息を呑む。
(バレてる……)
「……で?」
リオは変わらない。
「だから何」
「討伐対象だ」
剣が抜かれる。
音が、やけに重い。
「抵抗するなら、斬る」
「しなくても斬るでしょ」
「当然だ」
迷いゼロ。
そのやり取りを——
ゼルヴァが見ていた。
静かに。
「……なるほど」
小さく呟く。
「人間も、同じか」
敵は敵。
理由は関係ない。
「いい機会だ」
一歩前に出る。
「まとめて排除する」
「おい!」
グラムが叫ぶ。
「今それやるか!?」
「最適だ」
ゼルヴァは止まらない。
魔力が膨れ上がる。
三方向の緊張。
人間。
魔族。
そして——
魔王。
「……面倒だな」
リオが小さく呟く。
そして。
一歩、前に出た。
「止まれ」
その一言。
それだけで——
空気が、歪んだ。
ゴォッ、と圧が広がる。
戦っていた者たちの動きが、わずかに止まる。
「……なんだ、これ」
誰かが呟く。
「……お前」
ガルドの目が鋭くなる。
「やはり」
確信が、深まる。
「ここでやると、全滅するよ」
リオが言う。
淡々と。
「どっちも」
沈黙。
その言葉は、嘘ではないと誰もが感じた。
「……脅しか」
ガルドが言う。
「事実」
「なら尚更だ」
剣を構える。
「ここで斬る」
ゼルヴァも動く。
「同意だ」
空気が、限界まで張り詰める。
そのとき。
「やめて!!」
セリアの声。
強く、響いた。
全員の視線が集まる。
「これ以上やったら、何も残らない!」
必死の叫び。
「どっちも正しいかもしれないけど!」
「それじゃ全部壊れる!」
静寂。
ほんの一瞬。
だが、その間に。
リオは、決めた。
(……さて)
今回の選択。
どうするか。
その答えが——
次の一手になる。




