第10話「出発」
朝は、やけに静かだった。
焼け跡の匂いはまだ残っているが、村は少しずつ日常を取り戻し始めている。
「……行くの?」
セリアの声。
リオは荷物らしい荷物も持たず、村の外れに立っていた。
「そのつもり」
短い答え。
「やっぱり」
セリアは小さく息を吐く。
「ここにいたら、面倒になる」
「討伐隊のこと?」
「それもある」
リオは村を振り返る。
修復作業をする人々。
笑顔は少ないが、それでも前に進もうとしている。
「……俺がいると、ああいうのがまた来る」
半魔族。
そして、その背後にある“何か”。
「原因が自分にあるって思ってるの?」
「思ってるんじゃなくて、事実に近い」
淡々とした言い方。
責任を背負っているわけでも、悲観しているわけでもない。
ただ、認識しているだけ。
「だから離れる」
それが結論だった。
セリアは少し黙る。
地面を見る。
そして——顔を上げる。
「じゃあ私も行く」
「……は?」
間の抜けた声が出た。
「一緒に行く」
「なんで」
「決めたから」
「理由になってない」
「なるよ、私の中では」
いつもの調子。
だが、その目は本気だった。
「危ないよ」
「知ってる」
「昨日みたいなの、また来る」
「それも知ってる」
「それでも?」
「それでも」
即答。
一切迷いがない。
リオは少しだけ黙る。
(……理解できないな)
普通なら、離れる。
関わらない。
それが合理的だ。
「……後悔する」
「するかもね」
「死ぬかも」
「それもある」
「……」
「でも」
セリアは一歩近づく。
「何も知らないままの方が、私は嫌」
その言葉は、まっすぐだった。
「あなたのことも、この世界のことも」
逃げない。
踏み込む。
それがこの少女の在り方。
リオは、しばらくその目を見て——
「……好きにすれば」
そう言った。
拒絶ではない。
許可でもない。
ただ、受け入れた。
セリアは少しだけ笑う。
「うん、そうする」
二人は並んで歩き出す。
村の外へ。
新しい道へ。
その背中を、何人かの村人が見ていた。
止める者はいない。
ただ静かに見送る。
「……元気でな」
小さな声が、風に乗る。
リオは振り返らない。
だが——
ほんのわずかに、歩幅が緩んだ。
そして。
同じ頃。
村から少し離れた場所。
「……離れたか」
ガルドが立っていた。
部下が報告する。
「はい。少年と、エルフの少女が村を出ました」
「追跡は」
「すでに」
「そうか」
ガルドは目を細める。
「どう思いますか」
部下が問う。
「あの少年ですが——」
「黒だな」
即答だった。
「確証はないが、限りなく近い」
「では、拘束を?」
「いや」
首を振る。
「今は泳がせる」
「……理由をお聞きしても?」
ガルドは遠くを見る。
リオたちが向かった方向。
「“あれ”単体より、その先にいるものの方が重要だ」
低く言う。
「発生源を叩く」
風が吹く。
マントが揺れる。
「それに」
わずかに口元が歪む。
「逃がした方が、尻尾は掴みやすい」
その目は、獲物を逃がした狩人のものではない。
“追い詰める側”の目だった。
一方。
何も知らないまま。
リオとセリアは歩く。
道の先へ。
世界の奥へ。
その一歩が——
すべての始まりになるとも知らずに。




