9.依頼しよう!
「そ……そんな。違うものを使っていたなんて……!」
ばばーんと私が指摘すると、ミミレちゃんはよよよ、とその場にくずおれた。ノリいいなこの子。
ミミレちゃんは立ち上がって調理場に戻っていくと、一本の草を持ってきた。
「これなんだけど、確かにお父さん、これと同じハーブを使っていたんだよ」
受け取って、草を確認する。
私にはこれがイズマ草だとわかるけど、ぱっと見、これをイシイオ草と見間違えても仕方ないくらい似てる。
「仕入先はお父さん教えてくれなくてさ、街中探し回ったんだ。それでやっと、街の外壁沿いに少しだけ生えてるのを見つけて、喜んでたんだけど。そか、これじゃなかったんだ……」
ミミレちゃんは悔しそうだけど、ちゃんと教えてあげないとね。
イシイオ草もイズマ草も珍しいハーブで、見つけるのは難しい。苦労して見つけたんだから、それが目当てのものだって信じたくなっちゃうよね。でもレア度で言えばイズマ草よりイシイオ草のほうが数段上なんだ。街中で見つかることはまず無いよ。
「ミミレちゃんのお父さんって、昔、冒険者だったんじゃない?」
ミミレちゃんは驚いたけど、当然お母さんのほうは知ってたよね。
「確かに、あの人は結婚する前は冒険者だったけど、どうしてわかったのですか?」
イシイオ草はある程度大きな森の、ちょっと深いところまで行かないと見つからない。このハーブのことを知ってるのは、薬師じゃなければ冒険者くらいなんだよね。
当然、魔物が出る危険な場所だ。ミミレちゃんのお父さんは、娘が危険な場所に採りに行かないように、あえて教えなかったんだね。
「なるほど……じゃあ、イシイオ草を料理に使うのは、諦めなきゃいけない、のかな」
落ち込みかけたミミレちゃんだけど、任せなさい! あなたの目の前にいるのは薬師だけど、冒険者でもあるんだよ。
「自分で採りに行けないなら、依頼すればいいんだよ! そのために、冒険者ギルドがあるんだから!」
そう! ミミレちゃんに指名依頼を出してもらって、私がイシイオ草を採りに行くの。
私の実績にもなるし、ミミレちゃんはイシイオ草が手に入るし、言うことなしだ。私は食事代の700ペネを渡してミミレちゃんを冒険者ギルドに連れて行こうとしたんだけど。
「ちょ、ちょっと待って。お金はもらえないよ。失敗作だったんだし……」
遠慮しようとするミミレちゃんに、私は首を振った。
「だめだよ、プロならちゃんと代金を受け取らなきゃ! 私だって出来の良くないポーションでも、必要な人に渡す時はキッチリ代金もらうからね。それに、タダにしたらお父さんのレシピにも失礼だよ」
ミミレちゃんはハッとして、しっかりと代金を受け取ってくれた。格好つけたけど、これで今夜の宿代も無くなっちゃったよ。ミミレちゃんに依頼出してもらって稼がなきゃね。
そろそろ定食屋の開店時間だけど、どうせお客さんなんて来やしないからと、ミミレちゃんのお母さんは私達を送り出してくれた。店を出るとき、お母さんが私に深々とお辞儀をしていたのが印象的だったよ。
「冒険者ギルドかあ。初めて行くけど、ちょっとイメージ的に、怖い、かな」
確かにコワモテのお兄さんとかいるもんね。ミミレちゃんが気後れするのも当然だよ。でもああ見えて、結構いい人たちばかりなんだよ。たまにどうしようもない人もいることはいるんだけど。
「だいじょーぶ。受付の、こわあいお姉さんが、睨みをきかせてるからね!」
両手の人差し指をピンと立てて頭の横に持ってきて言うと、ミミレちゃんはくすくす笑ってた。リラックスできたみたい。
ミミレちゃんの手を引いてギルドに入ると、朝の混雑の時間がそろそろ終わりそうな頃合いだった。ちょうどなじみのお姉さんのカウンターが空きそうだ。
「おはよう、ユリシィちゃん。とうとうパーティ仲間見つかったの?」
ミミレちゃんを見てそう言われたけれど、残念ながら冒険者じゃなくて依頼人だよ。事情を話すと、お姉さんは難しい顔をした。
「イシイオ草かあ。実は、トラブルの多い素材だから買い取りは止めてるんだよね。持ってくる人はいるんだけど、ほとんどの人が間違えてるのよ。でも……そっか、ユリシィちゃんは薬師だから、植物の目利きは得意なんだよね」
そう言うとお姉さんは、奥から何か持ってきて台の上に置いた。――草が二本。ほほー。薬師ユリシィちゃんを試そうっていうわけね。
標本だろうけど、見た目の特徴はまるで同じ。ミミレちゃんも二つを見比べて悩んでる。
「こっちがイシイオ草。んで、こっちはイズマ草」
さくっと答えたよ。簡単簡単。ミミレちゃんに種明かししてあげよう。
「判別するときは、ここ。茎の断面を見るんだよ。イシイオ草は茎の断面が四角いんだ」
「ホントだ! イズマ草の断面は丸い。へえ、こんなところで区別するんだ!」
ミミレちゃんもお姉さんも、尊敬の眼差しで私を見てる。ふへへ。
「うん。さすが薬師。ユリシィちゃんなら大丈夫そうね。じゃあ、指名依頼ってことでいいかしら?」
お姉さんとミミレちゃんが指名依頼のための書類を作ってる間、私はイシイオ草に関する資料を借りて読んでた。このあたりで採れるのは、西にあるディープルの森だね。
ディープルの森はこの街の周囲では一番大きな森だ。故郷の森ほどじゃないけどね。
「ユリシィちゃんは、“森読み”はできるんだよね?」
お姉さんが聞いてきた森読みというのは、森の中での環境を読み取る技術のことだ。方角をしっかり把握したり、獣や魔物の存在を嗅ぎ取ったり。そして何より区画を知覚できるかどうかが大事なんだ。奥の区画に行くほど、遭遇する魔物の脅威度も跳ね上がる。だから区画の変わり目を敏感に察知できないと、森では生きていけないんだ。当然、薬師としては習得済みだよ。
「イシイオ草はディープルの森、第ニ区画で確認されているわ。ユリシィちゃん、行っていいのは第ニ区画までですよ。こわあいお姉さんが睨みをきかせてますからね!」
ひええっ!




