8.美味しさの秘密
ウッドランクに昇格したし、もしかしたら仲間になってくれる人ができるかも?
冒険者ギルドの受付ホールまで戻ってきたら、まだちらほらと人が残っていた。ちょっと声をかけてみようかな。
同じ年頃の人達が雑談してたので、すすすっと寄っていく。だけど彼らは気まずそうな顔をして、みんな離れていくよ? なんとなく、遠巻きに見られている……みんな、なんだか痛ましい表情で私を見てるような?
あっ、これ、さっき誰かが言っていた『別室送り』ってやつのせいで、問題児扱いされてる? そんなあ……。
せっかく脱・初心者できたのに、ぼっち継続が確定だよ……。もう帰って寝よ。隣の安宿だけど。
ギルドが若い冒険者向けに運営している宿泊施設。一泊800ペネ。
といっても素泊まりで、本当に寝るだけしかできない。大部屋がカーテンで仕切られてるだけで、一つのスペースにはベッドと、サイドチェストがあるだけなんだ。もちろん部屋は男女別々だよ。
いつものスペースを借りて、さっさとベッドに潜り込んだよ。もらったばかりの、ウッドランクのドッグタグを握りしめて。おやすみなさーい。
***
朝だ!
昨日ルオナ草が手に入ったから、とうとうポーションが作れるよ。
と思ったけど、調合するための場所が無いんだ。流石にこのスペースで火を使うわけにはいかないからね。
この街に来た当初はもうちょっといい宿に泊まってたから、部屋にキッチンがあったんだよ。またあの宿に泊まるには、もうちょい稼げるようにならないと!
宿泊所を引き払って、今日は調合の場所探しだ。
どこかで調理場が借りれればいいんだけど。野外はだめだよ。風が吹くし、不純物が混じりやすくなるんだ。
街をぶらぶら。良さそうな場所を探しながら。
美味しそうな屋台の串焼きの匂いに惹かれるけれど、今は我慢だ。がまん……おっちゃん、一本ちょうだい!
ほら! 今夜の宿代も厳しくなってきたぞ。のんびりなんてしてられない。うまうま。
おっと、いますれ違った女の子、ふらふらしてて危なっかしいな。
「ん? ミミレちゃんか。あの子も気の毒になあ」
串焼きの屋台のおっちゃんは、あの子のことを知っているみたい。
なんでも、一つ向こうの通りにある定食屋の娘さんで、料理人の親父さんが事故で亡くなられたらしい。今は料理を教わっていた娘さんが代わりに料理してるんだって。でも親父さんの料理より大幅に味が落ちて、常連さんも足が遠のいてきてる。もう店を続けるのも困難だという話だ。
「ありがと、おっちゃん!」
食べ終わった串をゴミ箱に捨てて、女の子を追いかけた。
おっちゃんの話を聞いて思い出したんだ。この街に来たばかりの一年前、一度だけその定食屋で食べたことがある。
美味しかったし、その美味しさの秘密にも気付いた。薬師だからね!
女の子はふらふら歩いてて、今にも道路に飛び出しそうだ。
そして道路の向こう側から、やってくる貴族の馬車――。
ト・ラ・ブ・ルの予感!
あわてて女の子の袖を掴んだ。びっくりしてこちらを向く女の子。そして通り過ぎる貴族の馬車。間一髪だ。
「危ないよ。この道は馬車も多いからね」
何が起きたかよくわかってない女の子は、よくわからないまま、ありがとう? と答えてた。
私より少しだけ背が高いくらい。ベージュの髪をゆったりしたおさげの三つ編みにしてる。せっかくかわいいのに顔色が悪いのは、馬車に轢かれそうだったってだけじゃ、なさそうね。
「ボアの香草焼き」
私がそう呟くと、女の子はピクリ、とした。
「去年食べたけどすごく美味しかった。また食べに行ってもいい?」
女の子は目に見えてうろたえていた。
「だっ……だめなの。ちゃんとレシピ通りに作ってるのに……。お父さんの味にならないの……!」
「まあまあ。あなたが作ってるんでしょう。いいから行こ行こ」
強引に女の子をお店まで引っ張っていく。
可愛らしい外観の定食屋さん。
掃除は行き届いているけれど、なんとなく雰囲気が沈み気味に感じるなあ。朝の開店前だからお客さんはいないんだけど、これじゃ開店しても来るかどうか。
お店は、女の子――ミミレちゃんが料理して、お母さんがウェイトレスをしてるみたい。お母さんもきれいな人だけど、お疲れ気味で元気がないよ。
「ど、どうぞ……」
ミミレちゃんが自信なさげにボアの香草焼きを持ってきた。湯気が立って美味しそう。いただきまーす。
もぐもぐ。やっぱりね、思ったとおりだ。
「ミミレちゃん。隠し味にハーブをつかってるでしょう? 丸くて縁がギザギザ、すこし毛羽立ってるやつ」
図星みたい。ミミレちゃん、どうしてわかったの? って驚いた顔してる。そりゃ薬師だからね!
「お父さんが使っていたハーブは、イシイオ草だね。でもこの料理に使われてるのは、それとそっくりだけど別物の、イズマ草だよ」




