7.おはなし
日が暮れる少し前に、街まで戻ってきた。
その足で冒険者ギルドへ向かう。だいたい今頃から、その日の活動を終えた冒険者たちで混み合う時間帯だ。ちょうどいい。
空いている時間だと、受付では世間話なんかも挟んだりすることが多い。だけど忙しい時間帯は査定するだけの流れ作業になるんだ。
私はしれっと査定の列に並ぶ。いつものお姉さんはいないようだし、とっとと戦利品を換金しよう。そこそこ人が並んでるけれど、割と速いペースで列が消化されていく。ぽけっと順番待ちしてて、そろそろかな、と思ったとき。
「変わるわね。あなたは休憩に入っていいわよ」
「はーい。後お願いしまーす」
順番待ちしてた列の受付さんが交代したようだ。私の番が回ってきて、目の前にいたのは。
「いらっしゃい。ユリシィちゃん」
にこやかな、なじみのお姉さんだった。
「う、お……お願いしゃす」
額に脂汗がにじむ。目を合わせないように、こそっと、泥モグラの爪を台に出す。
「はい。じゃあ査定するので、少しお待ち下さい」
ほっ。この時間帯にして正解だったよ。忙しいからお姉さんもクドクド言わないよね。
泥モグラの爪はひとつ50ペネくらい。両手両足のニ体分だから、えっと、ひいふうみい……満額で2000ペネになるはずだ。宿代にごはん、十分だな。
「こちら査定額の2000ペネになります。お疲れさまでした。はいどうぞ」
笑顔を崩さずに代金を持ってきたお姉さんだけど、あれ? 渡してくれないの?
「それじゃーあ、ユリシィちゃん。ちょっと、奥の部屋で、おはなし、しよっか」
ざわ……ざわ……。
その一瞬、騒がしかったギルド内に静寂が訪れた。
「で、出た……。姉さんの『別室送り』!」
「あの嬢ちゃん……可哀想になあ」
え――何? 一体何が始まるの……?
逃げたい……! けど、今日の宿泊代になるはずの2000ペネはお姉さんが奥に持っていったから、ついていくしかないよ……。
――それからのことは記憶が曖昧だ。
暗い部屋で床に正座しつつ、お姉さんのOSEKKYOUをありがたく拝聴させていただいた、んだと思う。三時間くらい。
はい。危険なところにはもう行きません。安全第一……ゼッタイ……はっ!
お姉さんが部屋の明かりをつけたので、いつの間にか外はもう夜中になってることに気付いた。
「もう、ほんとにユリシィちゃんったら仕方がないわねえ」
お、終わった? 助かったの、私……。こ、怖かったあ。
お姉さん、キライ!
お姉さんはにこやかに、何かを差し出した。
「はいこれ。おめでとう!」
お姉さんが2000ペネといっしょに渡してくれたのは、ウッドランクのドッグタグだ……もしかして!
「今回の討伐でウッドランクに昇格よ。泥モグラはもう倒せるようだからその辺りまでは行っていいけど、先に進む時はちゃんと相談してからにするのよ、いいわね?」
「はいっ!」
お姉さんがなんか言ったみたいだけど、嬉しくてよく聞いてなかった。やった、ウッドランク! ペーパーランク卒業だあ!
お姉さん、大好き!
いえーい。と、お姉さんとハイタッチ。一緒に喜んでくれたよ。
「そうそう、だけど当面は東沼ダンジョンに行っちゃだめよ。今日の昼過ぎに、湿地帯のヌシが現れたのよ。偶然ブロンズランクの冒険者が居合わせたから討伐はされたんだけど。珍しいことだからね、調査が終わるまであの辺りは閉鎖されることになったわ」
「へー、そうなんですかー」
大変だねー。なんて他人事のような顔で聞いてた。お姉さんは訝しげに私を見てたけど、内心バクバクだよ。




