62.いにしえの魔法研究所
この部屋にいるゴーストのヤツは、すぐ逃げるんだ。だけどゴーストも、もう一体の魔物も、部屋の奥の方にいるみたい。
部屋に入ったらすぐに奥まで移動しなきゃ、逃げられちゃいそうだ。
だからチヴェッテちゃんと作戦を練ったよ。
作戦はこうだ。まず、チヴェッテちゃんが部屋の扉を開ける。
同時に私がすごい短剣を構えて部屋に突入。魔物の方を私に引き付ける。その隙に後から入ってきたチヴェッテちゃんが、ゴーストへ一直線に向かっていって素早く除霊する。
そのあと二人がかりで魔物に対処する、というわけだ。
準備と心構えができた、と合図を送る。
チヴェッテちゃんが頷いて、扉に手をかけた。
……3、2、1、ゴー!
扉が開かれたと同時に、私は部屋へ飛び込んだ!
「てやああ――――ぐびっ!」
魔物に向かう前にチヴェッテちゃんに首根っこをつかまれて、乙女にあるまじき奇声をあげてしまったよ。
えっ、何があったの?
チヴェッテちゃんが指さした部屋の奥を見てみた。そこには逃げる素振りもなく、悠然と浮かぶゴーストがいた。隣には、石像? いや……あれは。
「あいつは……ガーゴイルだ!」
おっと、つい大声をあげてしまって、慌てて口を押さえた。
石像は動かない。ガーゴイルは近づく相手に反応して襲ってくるんだ。声を出したくらいじゃ大丈夫だけど、あのまま近寄っていたら……ぶるる。
「助かったよ、ありがとうチヴェッテちゃん」
ガーゴイルは翼の生えた悪魔みたいな見た目で、こいつもゴーレムと同じ、魔法で生み出された疑似生命体だ。
私たちが武器にしているような、短剣や拳では傷つけることができない。倒すには魔法や魔法武器が必要だ。
だから私たちは近寄れない、と高をくくっているんだろう、あのゴーストは。なんだかニヤニヤしてる気がする。
「ん? あのゴースト、感情と……知性もあるのか」
チヴェッテちゃんが怪訝そうに呟いたよ。えっ、普通のゴーストとは違うの?
聞いてみたら、ゴーストの無念や恨みが大きいと、まれに対話できるケースがあるそうだ。
その場合除霊ではなく、説得しての浄霊、という手段も取れるんだって。普通のゴーストより強くなってることが多いらしいから、チヴェッテちゃんもまず、浄霊を試してみるみたい。
「モウ……少シ、ダッタノニ! モウ少シデ完成シテイタ!」
対話を試みてみたところ、やはりゴーストは応えてくれたようだ。
どうやらゴーストは、この魔法研究所の元研究員で、何かの魔法を開発していたみたい。その完成を待たずにゴーストになってしまったことが無念なんだろう。
今でも魔法の完成を夢見て、研究を続けるために私たちから逃げ回っていたのだ。
「その魔法が完成すれば、ゴーストを浄霊させられるの?」
チヴェッテちゃんは肯定したけれど、一体何の魔法だろうね?
「情報……敵ガ迫ッテ……ハヤク、伝エナケレバ!」
ゴーストの呟きを拾って推測する限り、どうやら遠くに情報を伝える魔法? のようだ。
遠くの人と会話する魔法? それとも、手紙とかを飛ばすのかな? そんな魔法、今でも実現されてないよね……。
もうちょっとヒントを貰おうとして……うっかり近寄ってしまった!
気付いたときには遅かった。ガーゴイルが、起動してしまったんだ!
戦うしかない! ガーゴイルは無差別に襲ってくるんだ!
――普通の短剣なら効かないんだろうけれど、このすごい短剣なら、ダメージは通るはずだ。
ガーゴイルは石の拳を振り回してて、なかなか近寄れないよ。石像だけど、ゴーレムよりも素早いんだ!
でもパワーはゴーレムほどじゃなさそうね。……これなら。
「チヴェッテちゃん、数秒だけ引き付けて!」
チヴェッテちゃんが、まかせて! とばかりに前に出て、ガーゴイルを牽制してくれた。
その間に私は少し下がって、唯一の魔法を発動!
ガーゴイルがチヴェッテちゃんに向かって、殴りつけようと拳を引いた、そのわずかな隙へ!
脚力強化の魔法でダッシュ! ガーゴイルの懐へ入って、すごい短剣を突きつけた!
ガーゴイルの石像は、動きが止まって……その場へ崩れ落ちた。
やはり、この短剣ならガーゴイルへ追加ダメージを与えて、倒せたよ!
だけど……まずい! ガーゴイルの守護が無くなったら、またゴーストに逃げられちゃう!
慌ててゴーストの方へ振り向くと……あれっ?
なんだか、ゴーストさんは私を見て、ぶるぶる震えて涙を流してるみたいなんだけど……。
「オ……オオ……! ツイニ! 完成シタノカ! ――『脚力強化』ノ魔法!」
ほえ?
「コレデ……ナカマニ、急イデ情報ヲ、伝エラレル!」
ゴキゲンになったゴーストさんは、ふらふらと踊るように、左右に行ったり来たりしてる……。
「ええと、無念が晴れたようなので、浄霊、しますね……」
チヴェッテちゃんが手を合わせて呪文を唱え始めた。ゴーストさんは満足した笑みを浮かべて、魔法の光の中へ、溶けていった――。
「さっきユリシィちゃんが使った魔法が、ゴーストの求めていた魔法だったみたいね」
へー。今じゃただの初級魔法の扱いなんだけど、当時では貴重な魔法だったのかな。情報を伝える方法も、走る速度を上げるってことだったのね。
でもこれで当初の目的だった、最後に残ったゴーストの除霊ができた。任務達成だ! チヴェッテちゃんといえーい、ハイタッチで喜んだよ。
ガーゴイルにもゴーレムみたいな核があって、さくっと回収しておいた。
あとは……帰る前に、もうちょっとこの魔法研究所を見ていこう!
本とかがあるといいんだけど、棚にはボロボロの羊皮紙があるくらいだ。文字はさっぱり読めないね。まあ読めたところで、昔の研究じゃあ役に立つかは疑問かも。
素材等も朽ち果てて、使い物になりそうにない。
ただ……大昔の、研究者たちの熱意や雰囲気は感じられて、感慨深さはあるよね。
「こっちにポーションみたいなのがあるよ」
チヴェッテちゃんに呼ばれて行ってみると、確かに、密封された土器に、液体が入っている。当時は瓶なんて無かったんだろうね。
くんくんと、匂いを嗅いでみる。
「えっ、もしかして飲むの!?」
これでも薬師だからね。ポーションに害があるかどうかくらいは分かる。
大丈夫、有害な成分は入ってないし、劣化防止の措置もされているみたい。そして、素材にはおそらく――クヨリマ草が使われている!
以前、ディープルの森の第三区画で見たやつだ。つまりこれは、魔力回復ポーション、いや……。
成分が濃い?
「これは――魔力増強ポーションだ!」
土器の中にあるポーションはだいたい二人分だ。私がまず、半分の一人分、飲んでみる。
めちゃくちゃ苦い! 体が熱くなってきて、魔力が体の中を駆け巡っているようだ。チヴェッテちゃんが不安そうに、私を見てるのが分かった。
魔力の動きと熱が、徐々に落ち着いてきて……おお! なんだか今までより魔力が高まった気がする!
大丈夫そうだよ、と土器のツボをチヴェッテちゃんに渡した。
「私も……飲んでいいの?」
この探索の拾得物は私の取り分だ、って決めてたけど、せっかく貴重なものを見つけて、ちょうど二人分あったんだ。二人で分けるほうがいいよね。
遠慮もあるのか、それとも昔のポーションを飲むのに躊躇してるのか、ちょっと迷ってる感じだったけど。
結局チヴェッテちゃんも魔力増強ポーションを飲んで、効果を実感したみたいだ。
二人で喜びながら、オルディ砦遺跡の隠し通路から出て、帰路についたよ。
そうそう、もしかしたらこれで、あの中級魔法のスクロールが使えるかもしれないね!




