60.シスター・チヴェッテ
ギルドでお姉さんに、依頼の手続きをしてもらってきたよ。
その時に聞いたんだけど、シスターのチヴェッテちゃんも、実は冒険者登録してるんだって。
しかも、私より上のアイアンランク! 戦えるし回復もできるなんて、パーティ仲間を探すなら、引っ張りだこなんだろうなあ。
そんなチヴェッテちゃんと、今回はオルディ砦遺跡で冒険だよ。薬師とシスターのパーティなんてアンバランスだね。
教会で少し話しただけだから、まだよく知らないんだよね。どんな子かな。このあと、馬車乗り場で待ち合わせして会う予定なんだ。
南区出口の馬車乗り場は、商業区の近くにあって、人が多いよ。私もチヴェッテちゃんも小柄だから、ちゃんと会えるかちょっと心配。
ヤーナさんと待ち合わせた時は、背が高いから、すぐ見つけられたけどね。
「おーい! こっちだよ!」
おっと、チヴェッテちゃんの声が聞こえたよ。通り過ぎたみたい。
あっ、いたいた。女の子がぴょんぴょん飛び跳ねてるよ。
約束より早い時間に来たはずなのに、チヴェッテちゃん先に来てた。ヤーナさんもそうだったし、みんな律儀だね。
教会でつけてたシスターのベールは、今日は被ってないみたい。チヴェッテちゃんの綺麗な銀色のミディアムヘアが輝いてるよ。
「冒険者業のときは外してるんだ。動いてたらズレてきて邪魔なんだよね」
へー。いつも被ってるわけじゃないんだ。
「神父様にバレたら怒られるんだけどね」
しーってポーズでウィンクするチヴェッテちゃん。けっこう奔放な性格みたいね。
二人で馬車に乗るよ。今回も、近くの村までの乗合馬車だ……うーん。
「御者さんをじっと見て、どうしたの?」
チヴェッテちゃんに不思議がられたよ。ちょっと警戒してしまったんだ。こないだのことがあるからね。
御者さんは前回と同じ人だったから大丈夫そうだよ。
今回の乗客も少なめだ。このルートは人気ないっぽいね。
でもヤーナさんのときみたいに沈黙が続くことはなさそう。チヴェッテちゃんはおしゃべり好きみたい。
「――でさ、オルディ砦に行くって言ったら、ヤーナの奴があれこれウンチクを語りだしてさ」
んん? 今ちょっと?
「あのう、ヤーナさんとお知り合いで?」
おそるおそるチヴェッテちゃん……いやチヴェッテさんに聞いてみた。
「ああ。冒険者なら知ってるでしょ、神速の剣姫とか言われてる子。同い年だから、たまに飲みに行ったりするんだ」
……! ヤーナさんと同い年!? 私と同じくらいかと思ってた!
軽いショックを受けながら、馬車の揺れに身を任せたよ。
村に到着して、乗合馬車を降りた。
あのあとチヴェッテさん、って呼んだらすごい怒られたよ。チヴェッテちゃんって呼ばれるのが気に入ったみたい。
私のほうが年下だけど、このパーティのリーダーを任されちゃった。
チヴェッテちゃんは、戦ったり癒やしたりするのは得意だけど、考えたり探したりは苦手なんだって。だからアイアンランクなのに依頼を出したんだね。
方針は私が決めていいみたいだから、まずはこないだの管理のおじさんに話を聞きに行こう。
今回の目的は、最後に一体残ったゴーストを倒すために、隠し通路を探すことだ。遺跡を管理してるおじさんなら、何か知ってるかもしれないと思ったんだ。
「なるほど! それは気付かなかったよ。やるじゃないユリシィちゃん!」
チヴェッテちゃんに褒められたよ。こんなかわいい子に褒められたらニヤけちゃうね。
管理の人は、前に会った熊みたいなおじさんだ。私もチヴェッテちゃんも以前の依頼で会ってる。小娘二人組でも見くびられることはなかったよ。
「あんたたちには世話になったから協力したいが、隠し通路なんて見たこともないなあ」
うーん、空振りだったか。
見回りしてるおじさんが気付かないなら、一筋縄ではいかなそうだね。
遺跡内の行けるところには、もうゴーストは出ない。おじさん的には、それで管理業を再開できて満足してるようだ。でもチヴェッテちゃんは奥に一体取り逃がしたことを悔やんでて、絶対倒したいみたいだね。
とりあえず現地に行ってみよう!
村から10分ほど歩くと、荘厳な石造りの遺跡が見えてくる。
なるほど、観光地としてはおあつらえ向きだ。
来たのはニ回目だけど、ニ回目だからこそ深く観察できるのかな。
朽ちかけた石壁は巨大で、繊細に掘られた紋様が彩っている。そこに絡みつく、青々とした蔦。柱には大木の根が侵食してきて、一体化してる。
時間があったら、じっくり見物したいねえ。
なんて観光客気分でいたらだめだよね。ここは戦場で、依頼中なんだ。ほら、魔物の気配が近づいてきた。
「ハングリードッグだね。まかせて!」
おっとそうだ、チヴェッテちゃんの戦い方を知っておかないとね。
相手はたまに紛れ込んでくる、ハングリードッグだ。実力を測るにはちょうどいい。
ひょいひょいと、ハングリードッグに近寄っていくチヴェッテちゃん……あれ? 武器を持ってないよ?
牙を剥いたハングリードッグが、チヴェッテちゃんに襲いかかる!
迎え討つ構えのチヴェッテちゃんは、腰を落として――。
「セイヤッ!」
正拳突きだ!
殴りシスターだった!
ハングリードッグを一撃で倒したよ。拳の速さも、前に見たサブマスに匹敵する鋭さだ。さすがアイアンランクだね。強い!
よーし、私もチヴェッテちゃんにいいところ見せなきゃ!
あれ? チヴェッテちゃん、何事もなく先へ進もうとしてるけど、素材はいいの?
「うーん、そいつの素材はよくて200ペネだからね。剥ぎ取る時間と比較したら、この後の探索にかかる時間を優先したほうがいいと思うよ」
ああ、なるほどそうかも。さすが先輩冒険者、勉強になるなあ。
やっぱりリーダーは、チヴェッテちゃんにまかせたほうがいいんじゃないかな?
広場を抜けて、中心部の建物に入る。
森で区画をまたぐときみたいに、空気が変わったね。まだ魔物の気配は無いけど、身が引き締まるよ。
「建物内には、やっぱりゴーストはいないようだよ」
さすがシスター。アンデットに対する索敵範囲が広い! この建物全体を探知できるんだ。
今回は上の階は見なくていいよね。管理のおじさんが定期的に巡回してるから、警戒しなくていいだろう。地下の隠し通路を探すのに専念しよう。
それじゃあ地下に降りようか。
そうだ、アレを使おう。前のときヤーナさんを見て羨ましかったけれど、今は私も持ってるもんね。腰につけるランタン!
ふふ。チヴェッテちゃんに自慢しちゃおうっと。
いそいそとカバンを漁って取り出そうとしたら、あれ? 急に目の前が明るくなったよ?
見たら、光魔法を使ったチヴェッテちゃんだった。
「明かりならまかせてね! なんてったってシスターの得意分野だから!」
あっ、はい。




