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追加ダメージ+9999の短剣拾った  作者: 赤戸まと


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6.黒のお姉さん


 ルオナ草は一見なんの変哲も無い雑草だけど、いくつか特徴があるんだ。

 葉っぱはハートの形。葉脈は白いけど、外に向かってうっすらと赤くグラデーションがかかってる。脇芽からは白くて小さな花を咲かせてるのも特徴ね。

 葉っぱを指でこすって匂いを嗅いでみる。……濃いめのハーバルな香り。うん、ルオナ草で間違いない。


 まわりを見た感じ、生えてるのはこの一角だけっぽい。株採りせずに摘み取っていく。また来るからね。

 これで当面のルオナ草は確保できそう。回復ポーションが作れるよ!


 あとはシケクド草だね。毒消しポーションの製作に必要なんだ。

 だけどもうちょっと深い層に行かなきゃ取れない。よし、諦めて今度にしよう。早くポーションが作りたいんだ! ということで、ここで引き返すことに決めた。


 コウモリに気づかれないようにソロソロと来た道を戻って階段を登る。3層、2層と通り過ぎて、崩れた土を上ったら、短剣を見つけた1層の小部屋まで戻ってきたよ。やっぱり簡単だったなあ。ペーパーランクだからって怖がりすぎたかも?


 ここから出入り口までは分かれ道もあるけど、魔物探知でいない方を選択していけば……うん、やっぱり安全に辿り着けた。

 この出入り口は坂道が急なんだよなあ。上る時は手をついて上ったよ。


 ダンジョンから出てこれた。おお、明るい! 空気も幾分きれいになった気がする! もうそろそろ陽が傾く時間だよね。さあ帰ろう。

 なんて考えてたら、探知が強烈な反応を嗅ぎ取った。えっ、ダンジョンの外なのに?!


 この反応は相当な大物だぞ……。警戒しながら、ダンジョン入口の岩陰に身を潜める。

 反応した方向をそっと覗くと……いた! うわ、あれはこの湿地帯のヌシ、デスなめくじだ!


 めったに出ないはずなのに、運が悪い! 奴はなめくじのくせに身長は2メートルを超す。ぬめぬめしてて、剣などの斬撃武器は効きづらいんだ。

 短剣の私とは相性が悪い。うん、相性の良い相手なんていないんだけどね。


 デスなめくじは向こうを向いてるから、気づかれないようにやり過ごそうと思ったけど……。

 奴の向こう側に見えたんだ。何か黒いカタマリのような――あれは、人だ!


 まずい、デスなめくじはその名の通り、即死するような強烈な酸を、正面の敵に吐きつけるんだ。

 正面から避ければそれほど危なくないんだけど、あの黒い人、しゃがみ込んじゃってる!


 ええい、仕方ない。ここで見捨てたらあの人間違いなく死んじゃう! 

 デスなめくじがこっちに気付いていない今がチャンスだ。私は採取したばかりのルオナ草を握りしめ、奴の背後まで接近すると思いっきりぶちまけた。


 思った通り苦しんでる! 昔、故郷では普通のなめくじの駆除にも使っていたんだ。コイツにも効いてよかった!

 とはいえ倒したわけじゃない。怒らせて、こっちに狙いが移ってしまった。


 あわてて短剣を振り回す。この隙に黒い人が逃げてくれればいいけど。

 近づかれないようにやたらめったら短剣を振り回しながら、デスなめくじを黒い人から引き剥がす。えいえいっ!


 無我夢中だったけど、気付いたら私は何もない空間で短剣を振り回してた。あれ、デスなめくじは?


「助かったわ。あなた、強いのね」


 デスなめくじはいなくなって、代わりに女の人がいた。この人が襲われてた人かな。

 黒いローブに長い黒髪。黒いとんがり帽子を目深に被っている。暑くない? 魔法使いの人かな? 年は私と同じか、少し年上っぽい。身長は同じくらいだけど。


「大丈夫でしたか、お怪我は?」


 平気よ、と言うように手を広げ、お姉さんはツボを取り出した。そうか、採取だ。

 いつの間にか倒してたんだろうデスなめくじからは、ゼリー状の特殊な粘液が採れる。めったに採れないからかなりの高額になるはずだ。

 粘液をかき集めたツボを、私に渡してきた。


「あなたの獲得物よ」


 うう、受け取りたいけど。


「ううん、いらない。お姉さんが持っていって。私には無意味だから」

 だってポーションの素材にはならないし、ギルドに持っていったら受付のお姉さんにヌシと戦ったことがバレちゃう。大目玉だ!


「でも、代わりに渡せるものが……こんなものくらいしか」

 そう言ってお姉さんが取り出したのは、ルオナ草! 私が採ったのよりたくさんだ!


「これでいい! っていうか、これがいい!」


 そうだ。私が採ったのはなめくじ駆除に使ったんだ。故郷の村にいた時の気分で気軽に思いっきりやっちゃったけど、ここでは簡単に手に入るものじゃない。後からもったいないことしたなあって気付いた。でもおかげでそれ以上にたくさん手に入ったから結果オーライだ。


「これじゃ全然足りないわね」

 お姉さんはまだ気後れしてるみたい。私にとっては十分すぎるほどなのに。


「なめくじは苦手だから先程は遅れを取ったけれど、これでも私は強いのよ。借りひとつってことでどうかしら」

 そう言いつつお姉さんはローブからドッグタグを取り出して私に見せた。ブロンズランクだ! ストーンランクよりもふたつ上だよ。


「本当はなめくじごとき、いつでも倒せたわ。この封印を解けばね」


 あっ、とんがり帽子の下、よく見たらお姉さん左目に眼帯してる! 目を怪我してるの?


「今回は封印を解かずに済んだけど。次、あなたが困った時は、私の真の力を見せてあげる。ふふ」


 ――このお姉さん……なんて、なんてかっこいいの! すごい! これが本物の強者のオーラだ。きっとものすごい力を秘めているに違いない!


「また、お会いできますか? 黒のお姉さん!」


 黒のお姉さんは一瞬、虚を突かれたような驚いた顔をして、にやりと笑った。


「黒の、お姉さん……。ふふ、あなた、わかってるじゃない。見どころあるわ」


 また会いましょう、とだけ言い残してお姉さんは去っていった。湿地帯をズボズボと。

 本当にまた会えるといいなあ。



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