59.シスターの依頼
この魔法のスクロール、どうしようっかな?
「あなたが使えばいいじゃない。それとも売りに出してみる? だいたい100万ペネくらいにはなるわよ?」
む……。魔法のスクロールを売れば、100万ペネか。……論外だね。
むしろ100万ペネで売ってたら、頑張ってお金貯めて買うよ! 冒険者なら誰だってそう思うはず!
ようし、私が使っちゃおう!
お姉さんがいらないんだったら私が使う! 新しい魔法覚えちゃうよ!
なんて意気込んで、ペラペラとスクロールを開いていくけれど、うーん、やっぱりぜんぜん読めないよね。
黒のお姉さんに、魔法のスクロールの見極め方を教えてもらったよ。
スクロールの最後に紋があるのが習得のスクロールなんだって。
魔法が発動するタイプのスクロールは紋が無い。だから使う前にまず、専門家にどんな魔法か鑑定してもらう必要があるそうだ。
このスクロールには、紋があるよ。習得のスクロールだ!
わ! 私が使ったら、二つ目の魔法を覚えることになっちゃうね! すごい!
スクロールで覚えた魔法は育たないみたいだけど、全然オッケー! 私なら使えるだけで満足だからね
さてと。この紋に魔力を流すんだよね……ゴクリ。
そっと紋に触れて魔力を流し込む。
うっすらと紋が光り、スクロールの文字に伝わっていくけれど……あれ?
全体に行き渡る前に止まっちゃった。
もう一度魔力を込めてみたけれど、やっぱり途中までで止まってしまう。前は全体に行き渡ったのに……。
「あなたの魔力が不足してるみたい。おそらくこれは、中級魔法のスクロールね」
えっ! じゃあ私では使えないの? そんなあ……。
中級魔法だったらけっこうすごい魔法なんだろうね。覚えたかったなあ、がっかり。
「嘱望を断つには早いわよ。手段なら……」
黒のお姉さんが何か言いかけたとき、教会の奥の扉が開いて、誰かが出てきたよ。
シスターの服を着てる、かわいらしい女の子だ。
「あらあ、魔法使いさん もうお帰りなさったの?」
きょろきょろと誰かを探してるみたいだ。黒のお姉さんの知り合いかな?
お姉さんが手を振ると、シスターの女の子はぱああって顔をほころばせて駆け寄ってきた。
「もう帰ったかと思ったわ。例の件、思い直してくれた?」
黒のお姉さんは、このシスターさんに会いに来てたのかな。お話しがあるなら、離れてよっかな。
後ろに下がろうとしたら、ん? 黒のお姉さんにがっと掴まれて、前に押し出されたよ?
「それについては、この子が引き受けてくれるそうよ」
???
一体何のお話かな。シスターの女の子が今気づいたかのように、私を見た。
「あなたは、霊水を注文してくれた……ポエミィちゃんね」
違うよ! ユリシィだよ! あのおじいちゃんめ、間違って広まっちゃったじゃない!
「あなたそんな名前だったっけ?」
ほらあ! 黒のお姉さんも誤解してる……!
「私はこの教会のシスター、チヴェッテよ。よろしくね!」
「冒険者兼薬師のユリシィです。よろしく」
お互い自己紹介して、詳しく聞いてみたよ。
チヴェッテちゃんは何と除霊師で、あのオルディ砦遺跡のゴーストを除霊してくれた人なんだって! ありがたいね。
だけど最後の一体を除霊しようとしたとき、壁をすり抜けて逃げられたらしいんだ。
そういえばいたなあ。一体だけすぐ逃げるやつ。
チヴェッテちゃんはゴーストを追いかけようとしたけれど、壁の向こう側に行く通路は、どこを探しても無かったんだって。
「真相を見極め、障壁の向こうへと至る調査を依頼されたのよ」
最後のゴーストを倒すために、通路の調査を黒のお姉さんに依頼してたってことね。
それを、私が引き受けることになったの? どして?
「オルディ砦遺跡の隠し通路については、従前より巷説で取り沙汰されていたわ。通路の先には、当時の魔法研究施設があるそうね」
魔法研究施設! なにそれ面白そう!
黒のお姉さんの説明によると、砦が機能していた時代ってまだまだ魔法が未発達で、各陣営が競って魔法を研究してたんだって。
とはいえ現代からすれば、そこで研究されていた魔法なんて時代遅れ。魔法使いにとっては、たいした関心事にはならないそうだ。
だけど私みたいな、薬師レベルの魔力程度の人なら、有用な何かが見つかるかもしれない。
それこそ、さっきの魔法のスクロールを使えるくらいの魔力へ引き上げる方法とか。
なるほど! だから黒のお姉さんは私にこの依頼を譲ってくれたのか。
「それっぽいこと言ってるけれど、この人、ただオバケが怖んぐっ!」
チヴェッテちゃんが何か言いかけたところを、黒のお姉さんが羽交い締めにしてるよ。あんなにじゃれ合って、仲良しだなあ。
「この依頼はあなたに任せるわね。受付の姉さんには私から言っておくわ」
黒のお姉さんから依頼書を受け取ったよ。どれどれ……うん、ストーンランクでもこなせそう。なじみのお姉さんの担当みたいだから、後でギルドに行こうっと。
「それじゃああとはよろしくね、ポエミィ」
「ユリシィだよ! またね!」
黒のお姉さんを見送った後、神父のおじいちゃんが戻ってきたよ。
やっと霊水が用意できたみたい。瓶を抱えてよっこらと私の方へやって来た。
「霊水ができあがったぞい……薬師のユリシィちゃん」
「だからポエミィちゃんだってば……あれ?」
あってるじゃん! もう!




