58.プラス
ぽかぽか陽気の空の下、私はてくてくと東区を歩いていた。
おさんぽがてら、ここに住むかもしれないんだなあって、下見の下見に来たんだ。
賑やかなこの街の中では、ここらあたりは確かに長閑な空気が漂ってるね。畑や公園なんかも見かけるし、けっこう緑があるよ。
東区って、大通りの南側がごちゃごちゃ入り組んでるから騒がしいイメージだったけれど、北側に来るとがらっと雰囲気が変わるね。
冒険者ギルドからは距離があるけれど、歩けないほどじゃない。ここらあたりに住むのも、意外といいかも。
楽しくなってきたぞ。
るんるん気分で歩いてたら、ここに住みたい気持ちがムクムク湧き上がってくる。
よーし、稼ぐぞ! 冒険者ギルドの依頼をこなしたり、ポーションいっぱい作ったり、やる気がみなぎってきたよ。
さっそくポーション作ろうかな。そういえばこのあたりだと、教会が近いんだ。霊水を買いに行こう!
教会も、東区の大通りの北側にあるから静かだ。
小さいけれど、さすが教会。入った途端に神聖な空気を感じるよ。相変わらず人はいないけどね。
「こーんにーちはー。神父のおじいちゃん、いる?」
呼びかけるとすぐ、奥から神父のおじいちゃんが来たよ。
「おーおー、よう来なすったの。……占い師のポエミィちゃん」
「薬師のユリシィちゃんだってば! 霊水20本ちょうだい!」
全く、いい加減名前覚えてよね。
おじいちゃんは奥に霊水を作りにいったよ。……およ? 入れ替わりに誰かが奥から出てきた。
他に人がいるなんて珍しい、と思って見ると、なんと出てきたのは、黒のお姉さんだった。
「あら、こんにちは。愁眉を開いて祝福の祈祷かしら。感心ね」
相変わらず言ってることはよくわからない。教会と黒のお姉さんって、なんとなくミスマッチだよね。
神様を信じてなんてなさそうだけど……おっと、ぽけっとしてる場合じゃない。いい機会だよ。
私はいそいそとカバンを漁って、ダンジョンで見つけた魔法のスクロールを取り出した。
「このあいだは助けてくれてありがとう。これ、お礼の品です、どうぞ」
ペコリとお礼して、黒のお姉さんにスクロールを差し出したよ。
「……いらないわ」
えっ!
黒のお姉さんは、スクロールを手にとってもくれなかった!
「……また、受け取って、くれないの? ……えぐっ、ぐすっ」
デスなめくじの粘液も返されたし、今回も受け取ってくれないなんて、悲しくなっちゃった……。
「わ、ちょっ……! 違うって。泣くな! そうじゃなくて……うーん」
黒のお姉さんがしどろもどろに説明してくれた。
魔法使いにとって、スクロールで魔法を習得するのは、必ずしも推奨されているわけじゃないんだって。何故かっていうと……。
例えば初級のファイアボールを、修行して習得すれば、熟練度に従って威力も上がっていき、中級魔法に発展していくらしい。
だけどスクロールで魔法を習得してしまえば、その魔法はそこで完結してしまう。熟練度も上がらず発展もせず、最初のファイアボールの威力のままだ。
だから魔法使いはどうしても必要だ、という場合を除いてスクロールで魔法を習得することは無いそうだ。
魔法のスクロールって、魔法使いの素質が無い冒険者向けなんだって。
「そうなんだ……」
黒のお姉さんに喜んでもらえると思ったのに、がっかりだよね。
でも何かお礼がしたいよ! そう言うと黒のお姉さんは少し考え込んだ。
「であれば……あなた薬師よね。そうね、『解毒ポーション+』が欲しいんだけど、どうかしら?」
……『解毒ポーション+』か。
解毒ポーションの後ろに付いてる+っていうのは、通常より少しだけ優れている、って意味なんだ。
普通の解毒ポーションよりも、数種類、解毒できる毒が多いって代物だ。
解毒ポーションを作っていると、ごくまれに+付きの物が出来上がる。これは薬師の技量とは関係なく、たまたま運良く発生するんだ。
私も何度か作れたことはあるよ。だけど狙っては作れないんだ。
お店に出回ることはほとんどない。……まあ、欲しがる人もあまりいないんだけどね。たいていは普通の解毒ポーションでこと足りるから。
だから価値もお値段も、そんなに高くない。
よし! これを作ってお姉さんのお礼にしよう!
「薬師ギルドに、あなたへの指名依頼を出しておくわ」
あれ? 依頼にしちゃったらお礼にならないよね。むしろ私の方がありがたいっていうか……。
まー、いっか。黒のお姉さんも、解毒ポーション+が欲しいんだったら助かるはずだ。ごくたまに必要になるときがあっても、なかなか手に入らないからね。
でもどうしてこんなの欲しいんだろうね。詮索することじゃないけれど。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
とうとうストックが切れてしまいました。ここからは不定期更新になってしまいますが、気長に続きをお待ちいただけると嬉しいです。




