57.相談
モラリちゃんの初めての授業は、教えることよりもまず、私がモラリちゃんのことを知ることに費やしたんだ。
何を知っていて、何を知らないのか。それを把握しておかないと授業の進めようがないからね。
最後に、30種類の薬草を少しずつ調べておくように宿題を出して、ひとまず今日の授業は終わったよ。
ゆっくりしてるようだけど、モラリちゃんの入学まで、まだ半年ある。着実に一歩一歩、積み重ねていこう。
その後は応接室で、商会長さんとの面会だ。
商会長さんは以前と違って杖もついてないし、目の隈もできてない。うん、健康そうだ。
「あれから調子を崩すこともなく、過ごしている。薬師どののおかげだ!」
ゴキゲンな商会長さんだけど、書類の束をかかえて応接室に入ってきたよ。仕事三昧なのは治ってなさそうね。
休みを取っているのか確認したら、歯切れ悪くキョロキョロしながら、まあ、以前と比べたら休んでいる、とのことだ。
ほんとに頼むよ。
モラリちゃんの授業についても聞かれたので、正直に答えたよ。
地道に基礎をみっちりやっていく予定だから、すぐに結果は出ませんよって。
難色を示されるかなと思ったんだけど、商会長さんは深く考えずに、全て薬師どのに任せる、だって。
さすがやり手の経営者は違うね。一見、丸投げされたみたいだけど、一度担当者を決めたら自由にやらせる方針なんだろう。
お給金については、薬師ギルドの手数料が引かれて、一万八千ペネももらえたよ!
高級ホテル一泊分だ。さすがモラリちゃんに関してはお金をかけるね。
もらいすぎのような気もするけれど、家を買うためのお金を貯めなきゃいけないんだ。素直に受け取っておこう。
それで本題だ。
まず、ここ最近私の身の回りで起こった出来事を説明したよ。
怪しげな人物につけ回されたことから、セイルウ商会に夕食会に呼ばれたことまで。
商会長さんは顎を撫でながら、少し考えた。
「ふむう。奴らの目的は――今度のオークションの件だろうな」
オークション!
こないだ噂で聞いたぞ。なんだかすごいものが出品される予定で、バーゲイン商会やセイルウ商会が狙っているって。
そのオークションと、私がなんの関係があるんだろう?
商会長さんの話によると、こういうことだ。
今度、商業ギルド主催のオークションが行われる。出品の目玉となるのは――。
所持しているだけで、商売繁盛間違いなしといわれている。幸運のアイテム。
金族バットの置物、だそうだ。
…………!
バーゲイン商会やセイルウ商会のみならず、商売をしている者なら垂涎の品だとか。オークションはかなり盛り上がると予想される。
ただ、大きさなどの詳細は知らされていない。どれだけの資金を用意するべきか、参加者たちの探り合いはすでに始まっているそうだ。
「我が屋敷の、人の出入りなども探られているだろうが、その中で冒険者は、先日のサブマスターどのと、薬師どのの二人だけだ」
そういうことか!
金族バットの詳細を知っているのは、出品者である冒険者ギルドと、それを持ち込んだ冒険者だ。
その冒険者が誰か、までは分からないはず。だけど、オークションの値を吊り上げるために、そいつがバーゲイン商会に接触した、と考えれば……。
怪しいのはこの私だ。セイルウ商会から見れば、バーゲイン商会にだけ情報を流すのは卑怯だ、と思われても仕方がないのかも?
「いやあ、薬師どのには全く関係のない話なのに、巻き込んでしまって申し訳ない!」
「…………オキニナサラズ」
……………………。
うーん、これ、どうすればいいの?
とりあえず、金族バットを持ち込んだのが私だってバレないほうがいいよね。今度サブマスを問い詰めなきゃ。
そもそも金族バットのカタマリは、もう冒険者ギルドに納品しちゃったんだから、オークションでいくらになろうと私には関係ないよね……たぶん。
セイルウ商会に招待されたことについては、渋られると思ったけど、いいんじゃないか、とあっさりオーケーされたよ。
「別に奴らも悪徳商会ってわけじゃない。取引相手が被ることなんて、珍しいことでもないしな」
もちろんバーゲイン商会がいくら用意しているとかの情報なんて知らないんだから、私を探られても問題はないんだろうね。
そうそう。家を買いたいって相談もしてみたよ。
ひと通り希望を伝えたら、西区よりも東区がいいんじゃないかって言われた。
西区は建物が密集してて、住んだり畑を作ったりするには日当たりがよくないそうだ。人の通行も多く、のんびり過ごすにも向かないんだって。
それに比べて東区は、大通りの北側は土地が余っていて価格も控えめで、日当たりも良いと。冒険者ギルドや薬師ギルドからは遠いけれど、住むには良さそうだね。
今度バーゲイン商会の担当者が同行してくれて、下見に行ってみることになったよ。楽しみ!




