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追加ダメージ+9999の短剣拾った  作者: 赤戸まと


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56.モラリちゃんの授業1回目


 今日はモラリちゃんの最初の授業の日だ。

 ここ2~3日、授業をするためにいろいろ準備してたんだ。上手に先生できるかな。心配だけどがんばろう!


 おっきな荷物を背負って、北区をてくてく歩く。衛兵にニ回呼び止められただけで商会長さんのお宅にたどり着けたよ。場違い対策もしておかないとね。


 いつもの執事さんの案内で作業場に行く。商会長さんとお話がしたいって言ったら、授業の後で時間取ってくれるんだって。


 作業場ではすでにモラリちゃんが待っていた。

「本日はどうぞよろしくお願いします。ユリシィ先生」


 ……………………!


 ユリシィ先生……。


 うふふ。いい。新鮮な響きだ。おっと、ニマニマしてたらモラリちゃんに訝しい目で見られたよ。

 私がちゃんと先生できるか、モラリちゃんはまだ半信半疑なんだろう。それも仕方ないよ。


 薬師ギルドのシニヨンお姉さんに聞いたんだけど、実はモラリちゃんの先生は私で二人目なんだって。

 以前にもモラリちゃんの先生をやってた人がいて、王都の薬師学校の卒業生だったそうだ。


 その人はまだ四級薬師だけど、若いし人格も問題ないので採用したとか。

 学校での成績も優秀で、卒業してからすぐに四級に上がったらしく、薬師ギルドでの評判もいいみたい。それでモラリちゃんの先生になったんだけど、長続きせずに辞めちゃったって聞いた。


 次の先生である私のことも、すぐに辞めちゃわないかって不安なのかもね。

 モラリちゃんの信頼を勝ち取るためにも、気合を入れよう。……お給金もいっぱい貰えそうだし!


 まず私は背負った荷物をどすん、と置いた。


 ここの作業場はいい感じに広くて、中央に大きな作業台がある。部屋の隅には執事さんが控えてるよ。何かあった時の監視役だろうね。

 ぱんぱんに膨らんだカバンから、中身を作業台に置いていく。途端に部屋中がむわっと青臭い匂いに包まれた。


「これは……全部、薬草ですか?」


 ふむ。さすが薬師の素質があるモラリちゃんは分かるようだね。大抵の人なら、ただの雑草にしか見えないんだ。

 この街の周辺で採取できる薬草類を片っ端から集めてきたよ。全部で30種類。モラリちゃんはどれくらい知ってるかな?


「これは、スヤイ草。こっちがシマサツネ草で、これが……」


 モラリちゃんはこれが試験だと思ったのか、緊張しながら答えた。今のモラリちゃんの知識を確認したかっただけなんだけどね。

 結果、モラリちゃんが答えられたのは30種類中、8種類。まずまずの出来だ。


 だけどルオナ草が答えられなかったのは意外だな。

 前の先生は、どんな教え方をしてたんだろう? 聞いてみたら、薬師学校の教本をなぞった授業だったそうだ。


 へー。私は薬師学校に行ってないから、内容知らないや。だからお願いして教本を見せてもらったよ。


 …………。


 一通り教本に目を通して思ったのは、なんじゃこりゃ、だった。


 おばあちゃんのやり方とぜんぜん違う。


 教本に書いてあったのは、薬やポーションを作る()()だ。

 なるほどここに書かれてある通りにすれば、一定の品質の薬やポーションは作れる。でも、それだけだ。


 おばあちゃんは、手順なんて教えてくれなかったよ。じゃあ何を教えてくれたのか。

 薬師が扱う素材の特性を、徹底的に頭に叩き込まれたんだ。


 この薬草はこんな性質を持っている。これとあれを組み合わせればこんな変化が起きる。それは人体へどう作用するか。

 そんなふうに、素材の基礎知識だけをずっと叩き込まれてきた。


 作る手順なんて、聞いたことがない。必要な素材だけを与えられて、どう作るかは自分で考えな! だもんね。

 健康ポーションなどのおばあちゃんオリジナルレシピだって、必要素材を教えてもらっただけだ。

 初級ポーションを覚えたときも、何度も何度も失敗して、素材の特性を考えて、ようやく作れるようになったんだ。


 でも確かに教本通りの指導なら、ずっと早くポーションを作れるようになるだろうね。


 どっちがいいのかな。教本通りか、おばあちゃんのやり方か……。


 おばあちゃんのやり方は、薬師としては、役に立つはず。だけど学校では、ほとんど役に立たないだろう。

 この授業は、モラリちゃんが薬師学校で良い成績を取るためのものだ。

 だったら、教本に沿った授業の方がいいのかな。


 そう考えて、作業台に散らばった30種類の薬草を片付けようとした。だけどモラリちゃんから待ったがかかったよ。


「ユリシィ先生! この薬草、頂いてもよろしいでしょうか? 次の授業までに全部調べて、覚えておきます!」


 それを聞いて私はハッとした。私が最初にやろうとした内容だからだ。

 8種類しか答えられなかったモラリちゃんは、悔しそうに目の端に涙を浮かべてる。

 モラリちゃんは学校で上手くやろう、なんて考えてなかったんだ。そうじゃなくて、薬師として立派になるために、学校へ行くんだ。


 間違えるところだった。この授業は、おばあちゃんのやり方でいくべき!

 遠回りになるけれど、きっとモラリちゃんのためになるはずだ。


 モラリちゃんの学ぶ意欲は高い。

 モラリちゃんは前に教えてた先生にも、何度も質問を投げかけていたそうだ。

 だけどそのほとんどが教本に載っていないような内容で、前の先生は上手く答えられなかったんだとか。それで自信をなくしたことで、その人は先生を辞めてしまったらしい。


 教えるって、本当に難しいよ。

 私たち薬師は、薬やポーションに詳しい専門家だ。だから教えられるよね、っていわれると、それは違う。


 ()()()っていうのは、『教師』っていう専門家がいるくらい、難しい専門スキルなんだよ。


 薬やポーションの専門家でも、教育や指導は素人だ。

 だから今日のために時間をかけて準備したし、それでも上手くやる自信なんて無い。先生なんて呼ばれたって、偉ぶるなんてできないよね。


 モラリちゃんを立派な薬師へと導くために、私ももっともっと頑張らなきゃ!



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