54.粉末の顛末
ロリポップゴーレムの核と武器一本は、これまた珍しいアイテムだからとのことで、やっぱり査定に時間がかかるんだって。
また後日振り込みね。
「あと、薬師ギルドとも急ぎ話をつけた。まあ襲撃者騒ぎなんて起きたら、アレを個人に持たせておくなんてできないからな」
あの粉ね。今回の襲撃者の目的ではなかったみたいだけど。やっぱり持ってるだけで不安になっちゃうよね。やっと手放せる!
例の粉、『ウィル・スモッグの粉末』はひとまず半分に分けて、冒険者ギルドと薬師ギルドで共有管理するんだって。それでお互いの代表者が共同で研究に当たるみたい。無難なところに落ち着いた感じ。
『ウィル・スモッグの粉末』も査定が終わり次第、私の口座に振り込まれることになった。バーゲイン商会の商会長さんは所有権を辞退したそうだよ。
なんでも、自分を苦しめた原因から恩恵を受けたくないんだそうだ。稼ぐなら本業の商売で励むべきだ、だって。
商人の考えることはよくわからないね。
「最後に、セイルウ商会に関してだが……」
ああそれだ。そもそもなんでセイルウ商会が私の調査をしてるんだ? それが全部発端なんだよね。
「セイルウ商会の商会長さんが、お前さんに多大な迷惑をかけたと謝罪してきた。それで、直接弁明したいので、謝意も兼ねてお前さんを夕食会に招待したいそうだ」
へ?
んー、それってどうなんだろう。セイルウ商会が私に害意を持ってるわけじゃないんだよね。だったら大丈夫なのかな?
あれこれこっそり探られるくらいなら、直接出向いてお話しする方がいいかも?
でもバーゲイン商会からはいい顔されないよね。
「断っても構わないぞ。夕食会は来週の予定だから、今週中にどうするか考えておいてくれ」
来週か。それまでにモラリちゃんの授業があるから、その時にバーゲイン商会の商会長さんにちょこっと相談してみよう。モラリちゃんの授業の準備もしておかなきゃね。
夕食会に参加するかどうかはまた今度。
***
結局、あの粉末ははんぶんこすることになったよね。最初に言った通りじゃん。
まあ大人には、何かを実行するために、理屈とか都合が必要なんだろうね。手間がかかることで。
はんぶんこにした粉末は片方をサブマスに渡したので、もう片方をこれから薬師ギルドに持っていくんだ。
冒険者ギルドから、薬師ギルドへ。
街中をてくてく歩く。いろんなことの肩の荷が降りて、久しぶりにすっきり爽快な気分だよ。
ヘンな視線も感じないし、懐もまだそれなりに温かいし。
そうだ、冒険者ギルドに宿泊施設があるんだから、薬師ギルドにもそういう、提携してる宿なんかあるんじゃないかな? ちょっと聞いてみよう!
薬師ギルドのキチッとした建物に入るのは、いつもちょっと緊張するね。まずは受付札を取って……。
「お待ちしておりました、ユリシィ様」
おわっ、びっくりした。建物に入るといきなりシニヨンお姉さんが出迎えてくれた。
そんなに粉末が待ち遠しかったのかな。いつもの受付カウンターじゃなくて、応接室まで通されたよ。
応接室にはシニヨンお姉さんと、見知らぬ白衣のお姉さん。
「ウヒョー! これが例の『ウィル・スモッグの粉末』かいな! ええやんええやん!』
私が取り出した粉末の瓶を見た途端、白衣のお姉さんが飛びかかってきた……ところを、シニヨンお姉さんが肩をガシッと掴んで制止した。
「こほん。また奥の部屋でおはなしさせていただきましょうか?」
興奮していた白衣のお姉さんが、顔を青くして大人しくなった。あっ、こっちにもあるんだ、別室送り。
また、ってことは一度は食らったんだね白衣のお姉さん。
しおしおと肩を落とした白衣のお姉さんは、ぽすん、とソファにすわった。
すごく綺麗な人……なのに淡い金髪はボサボサ、白衣は草の汁まみれ。身長もヤーナさんと同じくらい高いのに猫背で、なんか色々残念な美人さんだ。一体この人は誰だろう?
「今回、『ウィル・スモッグの粉末』の分析をお任せする方です。このような身なりですが、これでも二級薬師なので腕は確かなのですよ」
ほう! この街に二人しかいないという二級薬師の方ですか!
「お嬢ちゃんも若いのにもう三級に上がったんやって? すごいねえ」
白衣のお姉さんは私の手を握ってブンブン上下に振った。激しい握手だ。圧が強い人だね。
「『ウィル・スモッグの粉末』を手に入れたんはお手柄やで、お嬢ちゃん! 何か困ったことがあったらウチに言いや。助けたるわ、ほなね!」
粉末の瓶をひっつかんだ白衣のお姉さんは、私の頭をガシガシ撫でて、しゅびっと部屋を飛び出していった。
シニヨンお姉さんは申し訳なさそうにしてるけれど、なんとなく、頼りがいのありそうなお姉さんだな、と思った。
あの粉末を、しっかり役立ててくれるといいな。
なにはともあれ、やっとあの粉末を手放せてほっとしたよ。




