53.ひと安心
朝起きて身支度を整えたら、すぐ管理人のオバちゃんにお礼を言いにいった。一階の大部屋だったらこんなにぐっすり眠れたかわからなかったからね。
オバちゃんは、フンッって居心地悪そうに横を向いたけど、ちょっと赤くなってたよ。
でもそう何度も好意に甘えるわけにはいかないよ。今日の宿はまたちゃんと探さないとね。
そんなことを考えながら、冒険者ギルドに向かった。
ちなみにもう眼帯は外したよ。まだまだ貫禄が足りない私には、早すぎたのだろう。形だけじゃなくて実力をつけないといけないね。
ギルドに着いたら、まだ朝の混雑する時間帯だ。たくさんの冒険者で賑わってるよ。あちこちから雑談の喧騒が聞こえてくる。
「聞いたか? 昨夜も姉さんの『別室送り』が出たんだってよ!」
「本当かよ……最近多いな。俺達も気を引き締めないとなあ」
ギルドが混雑してる時は待ち時間が多くなるけど、その分あちこちで噂話をしてる。情報収集にはちょうどいいんだ。
有益な噂話はないかな? 昨日の襲撃者がらみとかさ。
「今度のオークションでよ、大物が出品されるんだって?」
「ああそれな。バーゲイン商会とかセイルウ商会が、競り落とそうと張り切ってるみたいだ」
ほー、オークションなんてあるのか。それに、なじみの商会の名前も聞こえてきたぞ。それは気になったけれど、襲撃者絡みの噂話は無さそうだ。
冒険者たちの会話を聞き回ってたら、だんだん混雑が解消されてきたよ。人も減ってきて、ようやく見通しが良くなった。
受付には……なじみのお姉さんはいなさそうだ。適当な列に並ぼう。とりあえず昨日の戦利品を換金だ。
「おはようございます。ストーンランクのユリシィです。換金おねがいします」
あまりなじみのないお姉さんだったから、自己紹介したよ。
カバンから昨日の戦利品、ロリポップゴーレムの武器を二本、台に置いた。
「……………………」
あれっ? お姉さん、無言で固まっちゃったんだけど……。
なんだか冒険者ギルドのホールに甘ったるい匂いが漂って……。
あっ、もしかして。
これってはたから見ると、小娘が冒険者ギルドの受付で、どデカい飴ちゃんを買取りに出してるようにしか見えないのでは……?
私はいそいそとロリポップ武器をカバンにしまって、代わりにロックゴーレムの核をひとつ取り出して台においた。
「――はい。ロックゴーレムの核ですね。おひとつで500ペネになります」
お姉さんは何事も無かったかのように、査定してくれたよ。
ロリポップゴーレムの戦利品は換金できなさそうだし……もういっそ食べちゃおうっかな。
そうだ、昨日の出来事の顛末がどうなったか知りたいんだけど、サブマスなら知ってるかな? 受付で聞いてみたら、調べてくれたよ。
「サブマスターからお話があるそうです。会議室の方へお向かい下さい」
とのことなので、会議室に行こう。
***
会議室には、サブマスとなじみのお姉さんがいたよ。いつものメンバーだね。
昨日の襲撃者の顛末を教えてくれるみたい。
その前にまず、盗賊ギルドについて詳しく教えてもらったよ。
盗賊ギルドといっても、別に人を襲ったり盗んだりすることを斡旋するところじゃないんだって。
そもそも盗賊の中には、食い詰めた孤児や浮浪者、過疎村の住人など、仕方なく盗賊に身を落とした人たちも結構いるそうだ。
捕まえた盗賊のうち、そういう人たちや、罪がそれほど重くない人たちは、やり直しの機会を与えられる。
彼らをきちんと教育して、盗賊として身につけた技術を活かした、真っ当な仕事に就かせるための組織なんだそうだ。
主に斥候や罠解除、情報収集したりする仕事を専門に受け持っている。対外的には、情報屋としての側面が強いみたい。調査を依頼するならうってつけだね。
とはいえ、その性質上ガラの悪い人も混じってしまうようで、今回のようなトラブルも絶えないようだ。
今回の襲撃者もそんな一人で、以前から色々問題行動が多かったみたい。
「襲撃者は盗賊ギルドから即解雇。処遇はこちらに任せるとのこと。なのでその後、衛兵に突き出しました。これまでのケースに当てはめると、おそらくは少なくとも遠くの地で労役を課されて、この街には戻ってくることはないと思われます」
なじみのお姉さんが今回の襲撃者について説明してくれた。もう安心してよさそうだね。見られてるような視線に悩まさせることも無いだろう。
そうそう、襲撃者の持ち物を集めた袋は冒険者ギルドに提出したんだけど、これは一応私の拾得物になるみたい。
大体いらないものばかりだけど、解錠グッズはちょっと欲しいからもらっちゃった。他は捨てておいてね。
「例の襲撃者はセイルウ商会の依頼を担当していたが、今回はギルドを通さず、勝手に単独で受注していたようだ」
サブマスの説明によると、セイルウ商会の多額の依頼料に目がくらんだ襲撃者が、他のギルド員に依頼を取られないように独断で先走ったのだとか。
なんだかみんな、盗賊ギルドの内情に、妙に詳しいね。
ちょうどいいタイミングで黒のお姉さんが現れたことといい、昨日の今日で、もう盗賊ギルドと話がついていることといい……。
ん? どうして二人とも、目を逸らしてるの? 何か、いらんことに気づきやがってみたいな雰囲気が漂ってるけれど?
ギルドの情報が筒抜け……内偵……癒着。
大人の世界だ!
「何やら考えすぎの奴がいるみたいだが、放っておこう。それよりお前さん、今回はなんか無いのか?」
む、サブマスめ、あからさまに変なモンハンター扱いしてきたね。
さっき受付で換金しそこねたやつは持ってきたよ。
ロリポップゴーレムの核、それとロリポップ武器を一本。テーブルに置く。
「ほう、ロリポップゴーレムとはこれはまた……。ん? こいつは武器を二本持ってなかったか?」
私は満腹になったお腹をさすりながら、目を逸らした。




