52.憧れ
宝箱の中身をさくっと回収。後はもうダンジョンに用事はないね。帰ろう!
魔法ジャンプで穴から一層に戻って、そのまま出口に向かう。道中、ニ匹のゴブリンと遭遇したけれど、問題なく討伐できたよ。
もう並の魔物なら、一匹、二匹だったらなんとか対応できそう。もちろん先制攻撃できた場合だけだけど。スリングショットの扱いもだいぶ慣れてきたんだ。
無事に出口まで戻ってきたよ。ダンジョンを出ると、空は真っ赤に染まった夕暮れ時だった。
出入り口を管理してる職員さんにあいさつして、先に出た黒のお姉さんたちのことを聞いてみた。
みんなもう馬車で街に戻って、冒険者ギルドに向かってるみたい。襲撃者も大人しく連行されたそうだよ。私も冒険者ギルドに向かおう。
っと、そのまえに、出張買取所に行かなきゃ。
合計五匹分、ゴブリンを討伐してきましたよー。ここでの買取はゴブリン限定で、ゴーレム等、他の魔物素材などは冒険者ギルドに持っていかないと駄目なんだって。
ゴブリンの討伐は通常一匹400ペネだけど、このダンジョンでは現在何と五割増! 600ペネに上がってるそうだ。合計で3000ペネだね。
それじゃあ街に戻る馬車乗り場に行こう。……この御者さんは、本物だよね?
***
帰りの乗合馬車に揺られながら、今日のことを思い返していた。
黒のお姉さん。やっぱりかっこよかったなあ。ピンチの時にシュビっと登場! やっぱり憧れちゃうね。
……そうだ、あれを作ろう! たしか包帯がこのあたりに……。カバンをゴソゴソ探すと、材料となりそうなものが色々出てくる。馬車が街に着くまでには完成するだろう。
…………。
ちょうど作業が終わったところで、馬車が街に到着したよ。このまま冒険者ギルドに行こう!
もうすっかり夜だ。けっこう遅くなったよね。混雑する時間帯も過ぎたようだし、なじみのお姉さんの列へ並ぶ。ふふ……驚くぞ。
列が進んで順番が回ってきたので、さっき作ったばかりの眼帯をつけて、意気揚々とお姉さんの前に出た。
「まあ、ユリシィちゃん! ……ものもらいかしら?」
違うよ! お姉さんは私を見て心配そうにしてるけれど、これは……封印! 真のユリシィの力を封印! してるの!
左手で顔の下半分を隠しつつ、お姉さんに教えてあげたよ。
「私は癒やしの小戦士ユリシィ――。いにしえの盟約に従い、鉱山に巣食う小鬼どもを、殲滅してきたよ」
――ふっ、決まった。
どう? お姉さんも少しは私を見直して……あれ? なんだかお姉さん、絶望したような顔で私を見てるよ?
おかしいな、周りの人達は、羨望の眼差しで私を……あれえ?
なんだか……みんな、微笑ましいものを見るような目で、私を見てる……。
思ってた反応と違うんだけど……。
あっ、ギルドの奥から人が出てきた。素材管理部の飴ちゃんくれるオジサンと、さっきの二人組冒険者、それと黒のお姉さんだ!
先に戻ってきて、無事襲撃者を連行したんだね。もう話し合いは終わったのかな?
駆け寄って色々経過を聞こうと思ったんだけど、その前に、なじみのお姉さんが割り込んできた。
黒のお姉さんに、ぽん、と肩を叩いて、にこやかな笑みを浮かべてる……。
「話し合いが終わったばかりで申し訳ないのですが。ちょっと、奥の部屋で、おはなし、しましょうか?」
黒のお姉さんは、受付お姉さんを見て、眼帯をつけた私を見て、もう一度受付お姉さんを見て、絶望の表情を浮かべた。
「ち……違う……。私は、何、も……」
黒のお姉さんが別室に連れて行かれてしまった。……うーん。戦利品を換金したかったんだけど、明日にしようっと。
何も見なかったことにして、私は冒険者ギルドを出て宿に向かった。
***
今日は新しい宿を探す気力もないほど疲れたんだ。結局ギルドに併設された宿泊施設に来たよ。
800ペネを出していつものスペースに行こうとしたら、呼び止められた。
「待ちな薬師っ子。あんたは上、だ!」
宿泊施設を管理しているちょっと怖いオバちゃんに、上の階に行くように言われたよ。
上の階というと、確か鍵のかかる二人用の部屋だ。二人で一泊4000ペネ。でも私はひとりだよ?
「あんた今日襲われたそうじゃないか。そんな時に一階の大部屋に泊まるんじゃないよ。ちょうど一部屋空いてるからそこに泊まりな。今日だけ一人分の料金にしてやるよ」
おお、それはありがたい! 2000ペネで鍵付きならお得だ。今は冒険者が多い時期だから儲け時のはずなのに。もしかして、わざわざ一部屋空けてくれてたのかな?
荒っぽい言葉で怖いオバちゃんだと思ってたけど、優しいね。やっぱりこの街は大好きだ。
冒険者用で、泊まるだけの部屋だから二人部屋でもちょっと狭い。だけどしっかり鍵がかかるから安心だよ。その上、この宿にはたくさんの冒険者が泊まってるから、ここを襲おうなんて考える輩はいないだろうね。
自分でも思ってたより、精神的にくたびれてたようだ。ベッドに入った途端に、気を失うように眠っちゃったよ。




