50.襲撃者
一通り依頼書に目を通したお姉さんが、顔を上げてこちらを見た。
「どうやら、あなたを調査するように盗賊ギルドに依頼を出したのは……セイルウ商会の人間のようね」
えっ? セイルウ商会って、バーゲイン商会のライバルの?
なんでそんなところが私を調べるの? なにか恨みを買ってるとか? バーゲイン商会の味方をしたから?
「いえ、ただあなたの身辺調査を依頼しただけみたいね。襲いかかってきたのは、この男の独断専行だっただけよ」
依頼書の続きを読みながら、黒のお姉さんが解説してくれる。
そっか、この人の顔を見ちゃったからまずかっただけで、別にセイルウ商会から恨まれてるわけではないってことだよね。
なんでセイルウ商会が私を調べるのかって疑問は残るけど、ひとまずそれはいい。でもこの人を捕まえちゃったから、盗賊ギルドから恨まれるんじゃない?
「この男が盗賊ギルドから追放されるだけでしょうね。あそこは一応、非合法なことはやらないことになってるから」
そっか、それならよかった。
ダンジョンの外には、職員さんや買取出張所の人達がいる。彼らにこの襲撃者を突き出せば、後の対処をしてくれるだろう。
「表にいる職員たちを呼んでくるわ。その男は当分起きないと思うけれど、一応見張っておいて」
そう言い残して、黒のお姉さんは一旦この場を離れた。
うう……気を失ってるとはいえ、この襲撃者と二人っきりで残されるのは心細いよ。
じりじりとできるだけ襲撃者から目を離さないように後ずさる。っと、何か踏んづけたよ?
これは……さっきお姉さんがぽいぽいしてた、襲撃者の持ち物だ。
毒薬とか色々、これはこんなところの放置してたら危険だよね。証拠品になるかもしれないし、集めて持っておこう。
いそいそと暗器やら何やらかき集めて袋に入れてたら、お姉さんが何人か連れて戻ってきた。
先頭のギルドの人はどこかで見たような……あっ、素材管理部にいた人だ!
そうか、出張買取所に素材管理部の人がいたんだね。それと他に冒険者が二人。襲撃者を運び出すために連れてきたのかな。何度か冒険者ギルドで見かけたことのある、大柄な人たちだ。
「君か、蹴りうさぎの肉を持ってきたお嬢ちゃん。大変だったねえ、飴ちゃん食べるかい?」
職員さんは、あの優しそうな人だ。私を子供扱いするのは不本意だけどね。もらった飴ちゃんはポケットに入れておいて、後で食べようっと。焼きとうもろこしに串焼きも食べたから、お腹は減ってないんだ。
素材管理部の職員さんが現場をざっと検証して、襲撃者を調べてる。そうだ、さっき集めた袋も渡しておこう。
「うん……。盗賊ギルドの人だね。要注意人物としてリストに挙がってたよ。持ち物からも、害意があったことは否めないだろう」
冒険者の二人が襲撃者を担ぎ上げて連行しようとしたとき、襲撃者の身体がビクンと動いた。どうやら意識が戻ったようだ。
我に返った襲撃者は、縛られたままジタバタと暴れ出したよ!
冒険者がしっかりと抱えていたので、逃げられないようだ。だけど近くにいた職員さんが、暴れた足に蹴られて倒れちゃった!
「だ、大丈夫!?」
急いで駆け寄って助け起こしたよ。怪我はないみたい。しかし……。
いつの間にか、職員さんに渡した、襲撃者の持ち物の袋を奪われていた!
襲撃者は腕ごと縛られてるのに、器用にも猿轡をずらして口で袋を咥えて、中からあの、変な丸い玉だけを取り出した。
袋は取り落としたようだけど、襲撃者はニヤリと笑って、私に向かってプッと玉を吹き飛ばした! 何? あの玉は!
「危ないっ!」
黒のお姉さんが叫んで、片手の親指で眼帯を跳ね上げた。
左目が見えたと同時に、私の目の前で、あの玉が静止したよ!?
そこへ黒のお姉さんが、ズザザ、と割り込んできた!
「邪なる破滅の害珠を今……葬らん!」
黒い魔法の杖で……カキーン! 玉を広場の奥に打ち飛ばした!
眼帯がずり落ちてきたと同時に……広場の奥に飛んでいった玉が、ピカッと光って爆発したよ!
あの玉は爆弾だったのか! 広場の奥がぼろぼろと崩れて、土煙がもうもうと上がってる。
「……はあ、はあ」
また、黒のお姉さんに助けられたよ。お姉さんは封印を二回も解いて、かなり疲れてるみたいだ。
襲撃者は、奇襲も失敗してやっと観念したみたい。大人しくなったよ。
みんなは襲撃者を連行してダンジョンを出ようとするけれど――私はその場に残った。
「色々あって疲れちゃった。ちょっと休んでから行くから、みんなは先に行ってて」
駆けつけてくれた皆さんにペコリとお礼をして、私は壁際に座り込んだ。
みんな心配そうにしてくれたけれど、ここはダンジョンの一層。捕まえた襲撃者の他に気配はないし、大丈夫だろうということで、みんな先に出ていったよ。
みんなが去ってしばらくして……私はよっこいしょと立ち上がった。初めて人間と戦って、精神的に疲れた、ってのもあるけれど。それともう一つ、気になったことがあるんだ。
地面に落ちていた、襲撃者の持ち物を拾う。そのまま広場の奥へ。
土煙はようやく収まって、あたりが見えるようになってきた。――やっぱりだ。
奥の壁が崩れて、地面に穴が空いている。おそらくそこから、このダンジョンの二層に続いているんだと思う。
さっきチラッとだけ見えたんだ。箱のようなものが。ほんの一瞬だったから自信はないけれど。あれは……。
地面の穴から覗き込む。
下は明かりのないダンジョンの二層だ。暗くて見えない。さっきは爆発であたりが光ったから見えたけれど、今は真っ暗だ。
でも今の私には、問題ないよ。買っておいてよかった、おニューのランタン!
さっそく出番だ。いそいそと腰に取り付けてライトオン!
魔法ジャンプでとやっ! と穴から飛び降りた。しゅたっと着地! うん、ダメージはないよ。
ランタンであたりを照らすと、ここは通路の行き止まりのようだ。
少し広くなってて、壁の手前に……やっぱり、宝箱だ!
中身がいい物だったら、黒のお姉さんに助けてもらったお礼としてプレゼントしよう! 結局デスなめくじの粘液も受け取ってもらえなかったし。
さっそく宝箱を開ける……前に。
一応周囲を確認しておこう。
通路の反対側を探知しながら少し進んだけれど、あれ? こっちも行き止まりだ。少し色の違う、白っぽい壁に塞がれている。
ここは隠し部屋みたいになってるのかな? それなら魔物に襲われずに宝箱に専念できるね。
よし、宝箱を開けてみよう!




