46.これまでと、これから
うーん。むにゃむにゃ。
ほへへへへ。…………はっ!
わわ、何だこのフカフカベッドは!?
……そうか、昨日ソファで考え事をしてたら、眠気に襲われて、必死に這いつくばってこのフカフカベッドまでたどり着いたんだ。そのまま寝ちゃったんだね。
それでも体の疲れがスッキリ取れて気分爽快だよ。
顔を洗い終わったら、タイミングを見計らったように朝食が届けられた。すごいな従業員さん。
お風呂に入ってた間に洗濯もしてくれてたみたいで、私の服が新品みたいにきれいになってたよ。すごいな高級ホテル。
朝食のパンと紅茶のいい香りが漂ってくる。
部屋のカーテンを開けると、おっきな窓からこの街の朝の景色が一望できた。そうだ、ここは三階だから見晴らしがいいんだね。
建物がいっぱいで、故郷の村とは大違いだ。
故郷の景色も緑がいっぱいで大好きだけど、村を出なかったら、こんな世界があることなんて知らないままだったんだなあ。
この街に来てからも、ミミレちゃんやヤーナさん、モラリちゃん、いろんなお姉さんやオジサン。たくさんの人に出会えたね。
それからこの、すごい短剣。
これが無かったら、今頃もっと苦しい生活をしていただろう。
そう考えたら、この短剣がもっと愛おしくなって、握り手の部分をそっと撫でた。
もし冒険者を辞めるなら、こんなすごい短剣を私が持ってちゃ駄目だよね。これは、たくさんの困ってる人を救うことができる短剣だ。
冒険者の証明である、ストーンランクのドッグタグ。
こんなダメダメな私でも、一人前の冒険者になれたよ。
なじみのお姉さんと、ヤーナさんと、サブマスが、一緒にいえーいって喜んでくれたね。嬉しかったな。
冒険でいろんなところにも行ったよね。
東沼ダンジョン、ディープルの森、デンジー廃鉱山ダンジョン、オルディ砦遺跡。
様々な強敵と戦ったり、何かを見つけたり、学んだり。
朝食を食べながら、これまでのことをたくさん思い返したよ。
……………………。
***
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
名残惜しいけど、高級ホテルを後にした。
とってもステキな体験だったなあ。まるで、人生の到達点に来たような、全部が終わったような……。
あれ?
高級ホテルを出て、ぽつーんと道路に、ひとり。
忙しなく行き交う人々は、だれも私のことなど気にせず先を急いでる。
急に現実世界に戻ってきたような……?
えっ?
……いや何? 冒険者を辞めるって?
いやいやまず今夜泊まる宿もないんだから、稼がなきゃ! ミミレちゃんの依頼もあるし、そもそも短剣が無くちゃルオナ草も採りに行けないでしょ!
…………あっぶなー!
何かすっごく満足して、おばあちゃんになった気分で人生を振り返ってたよ!
冒険者辞めないよ! まだまだ私の戦いはこれからだよ!
――恐るべし、高級ホテルの非現実感!
全く危険な所だよ。もっと稼いで、何度でも泊まってやるからな!
さあて、冒険者ギルドに行って、おいしい依頼でも探そうっと!
意気揚々と冒険者ギルドに向かって歩き出したよ。
……………………。
んー、やっぱり、誰かに跡をつけられているような?
***
「最近、デンジー鉱山跡のダンジョンで、ゴブリンが増えてるのよ」
冒険者ギルドのホールがいつもより混んでたので、なじみのお姉さんに聞いてみた。
デンジー廃鉱山ダンジョンのゴブリンが、溢れそうになってるみたい。近隣の冒険者ギルドにも呼びかけて、早めに退治しておこうってことになったらしい。
通常のゴブリンを倒すより報酬を割増にしたおかげで、冒険者が集まってるんだって。
ん? まさかとは思うけど、私がミスリルゴーレムを倒したから、ゴブリンが幅を利かせるようになったってわけじゃないよね?
お姉さんは笑って否定してくれたよ。なんでも数年ごとに、定期的にゴブリンが増えるから、それに合わせて大規模な討伐を行うんだって。
うーん、ゴブリンかあ。
知恵があって集団で行動するアイツらは苦手なんだよね。
でもほんのわずかでも私にも原因がある気がするし。報酬の割増もあるなら、ちょっと行ってみようかな。
一層か二層くらいなら大丈夫でしょ。
デンジー廃鉱山ダンジョンは、まだ松明の使用を制限しているみたい。ランタンが必要だね。
そうだ、バーゲイン商会に行って、腰につけるランタンを購入してから馬車乗り場に行こう。
私は冒険者ギルドを出て、ちらちらと後ろを気にしながら、バーゲイン商会のお店に向かった。




