44.報酬
「あん? だったらお前さんトコの他の薬師が、今の魔物を倒せるってのか?」
「魔物を倒していただいた謝礼なら別にお届けします。それはそれとして、粉末の所有権はこちらにありますが?」
冒険者ギルドのサブマスターと薬師ギルドのお姉さんが、ああだこうだと言い争ってるよ。
これは……落ち着いたら矛先が私に向く流れだよね。
できるだけ気配を消して、応接室から出ようとする私の手首を……がっと掴む二人。息ぴったりじゃん。
ほらね。最終的に、私に決めろって結論になると思ったよ。
そもそも何でこんな粉を取り合ってるんだろうね?
不思議そうにしてた私に、お姉さんが教えてくれたよ。
「通常ウィル・スモッグは、人の体内にいる間に投薬や神聖魔法で倒すのです。身体から出てきたものを討伐した例は、長い歴史上でも数例しか確認されていません」
ほー。それなら貴重なものだってわかるよ。
「それに、このウィル・スモッグの粉末を研究すれば、今後の医療や薬剤、ポーションの大きな発展につながることでしょう」
それはすごい! なら薬師ギルドに預けたらいいんじゃないの? サブマスはなんで欲しがってるのかな。
「そりゃ最終的には薬師ギルドに回すさ。ただウチを通さないのがまずいってことだ」
サブマスに聞いた話をまとめると、こういうことだ。
ひとつは、冒険者が倒した魔物素材をホイホイ横取りされた実例を残すことになると、今後のギルド運営が立ち行かなくなるってこと。
もうひとつは、ウィル・スモッグの粉末の情報なら冒険者ギルドも欲しい。だが薬師ギルドの発表待ちとなると当分先になってしまうということらしい。
一つ目はまあ、メンツの話だね。例えば、護衛任務とかで冒険者が倒した魔物の素材は、冒険者のものになると決まっている。今回の例に当てはめると、護衛対象の商人だか貴族だかが、その魔物素材の権利を主張しているようなものだ。
二つ目は、ウィル・スモッグの粉末を、治療のためではなく、魔物研究のためとしての情報が欲しいんだと。今回のように本体を現したときに倒す方法や、身体から追い出す方法、そもそも発生させない方法などなど。うーん、こちらも大事だね。
はんぶんこじゃ駄目なの? 駄目、はい。研究精度が落ちちゃうんだって。
じゃあ、共同研究とかさあ。私に決めろって言われても、それくらいしか思いつかないよ。
……そもそも、商会長さんに取り憑いてたんだから、商会長さんに所有権があるんじゃないのかな?
こいつまたややこしいことを言い出しやがってっていう目でみんな見てくるよ。
***
粉末の件は後日改めて、関係者を集めて話し合うことになったよ。それまで粉末は、私が預かることになった。
嫌だなあ、こんなの持ち歩いて、もし無くしたら……。ぶるる、恐ろしい想像をしてしまった。
とりあえず商会長さんが元気になったということで、報酬の5万ペネが、私に支払われた。
「は? 5万ペネ?」
しまった! シニヨンお姉さんにバレた!
ボッタクリだって怒られる? でも金額を決めたのは商会長さんだよ?
「治験料を差し引いたと考えれば、いやしかし……あのポーションを、今後もそんな価格で出されては……」
なにやら考え込んだお姉さん。見逃してくれるのかな?
考えのまとまったお姉さんから、真剣な眼差しで言い含められたよ。
今後、未登録のポーションを販売するときは、必ず事前に薬師ギルドまで報告するように、と。くれぐれもそんな価格で出さないで欲しいと念を押された。
なので今後はお姉さんに相談することにしよう。といっても当分新ポーションをつくることはないと思うけどね。
今回の5万ペネは受け取ってもいいみたいでほっとしたよ。
それとは別に、三級薬師としての今回の派遣料が、薬師ギルドから振り込まれるんだって。やったね。
ギルドカードは冒険者ギルドや薬師ギルドなど、すべてのギルドで共通になってるみたい。だから新しく作る必要はないよ。
それと、モラリちゃんの先生役を引き受けることも正式に決定したよ。来週から週二回、こちらのお屋敷に通うことになった。
さて、無事もらえた5万ペネ。何に使おうっかな。そうだ、せっかくだから大商会のバーゲイン商会でお買い物しようかな。
以前、ヤーナさんから聞いたんだ。腰につけるタイプのランタンも、バーゲイン商会で購入したんだって。
あっ、それもいいけど、忘れるところだったよ。キッチン付きの宿に引っ越しするんだった!




