41.素材管理部
トレントから受け取ったキエンメ草を確認してみた。タイミングよく採取してくれたみたいで、鮮度バッチリだね。
クヨリマ草はもったいなかったけど、もう一度集めることはできないな。これ以上採ると、せっかく仲良くなったトレントに怒られちゃうよ。
トレントたちにばいばいして、森から出ることにしたよ。
帰りは魔物と出くわすこともなく、安全にリヤカーのところまで戻ってきた。そろそろ日が暮れる頃だね。街に着くと夜になるはずだ。急ごう。
ふんぬっ。処理済みとはいえ、蹴りうさぎの肉五匹分だ。リヤカーでひいていくのは大変だよ。
勢いがつけばスムーズに運べるけど、道がでこぼこだからすぐ勢いが落ちるんだ。……ひい、はあ。これは疲れる。
そういやヤーナさんが講評のときに言ってたな。『体力にはやや難あり』って。このことも見越して蹴りうさぎ五匹なんて指定してきたのかもね。
体力もつけなきゃ。胸を張ってストーンランクだなんていえないよね。がんばろう!
あっそうだ、脚力強化の魔法、使っちゃおうっと。
おっ、踏ん張りが効いてズンズン進めるぞ。こりゃいいや! …………あう。魔力が切れちゃった。今日いっぱい使ったからね。
もう! 余計に疲れちゃったよ! ズルはするもんじゃないね……。
***
街に着いたよ。行きの倍くらいの時間かかったけどね。リヤカーをひいて、すぐ冒険者ギルドへ向かおう。
ええっと、リヤカーに荷物を積んでいる場合、裏口の搬入口から入るんだったね。
大荷物の場合、直接、素材管理部っていうところに持っていくんだって。
こっちかな?
ギルドの建物をぐるりと半周していくと、大きな出入り口が見えてきた。あそこが素材管理部かな?
入口の中から、セイヤ! セイヤ! と威勢のいい声がひっきりなしに聞こえてくるよ。
時折、怒鳴り声やら何かを叩きつける音、切り裂く音も響いてくる。
……引き返そうっかな。
でも、リヤカーもここに返さなきゃいけないよ。仕方なく、入口からこそっと中を覗いてみる。
そこでは――むくつけき男たちが数人、黒いエプロンをしてナタを振りかざし、魔物を捌いていた。
あっ、一人に気づかれた!
「おう嬢ちゃんどうした? 魔物の買い取りか? こっちに持ってきな!」
仕方ない。リヤカーをひいて搬入口から入っていったよ。
四人いた男の一人が寄ってきて、リアカーの荷物を確かめた。
「ほう、蹴りうさぎか。……うん、血抜きの処理も丁寧だ。ちっこいのにやるじゃねえか!」
がははと笑いながら、わたしの頭をガシガシ撫でる。
もう! レディの頭を軽々しく撫でないで! わるい気はしないけどね。
その人はもう一人を呼び寄せて、二人で蹴りうさぎの肉を台に載せていく。
「五匹もか。すごいなお嬢ちゃん。飴ちゃん食べるかい?」
あとから来た人は優しそうな人だね。でも子供扱いしないでよね。れろれろ。
冒険者たちが狩ってきた魔物を、ここの人たちが捌いてるんだね。毎日たくさん運ばれてくるから大変だろうに、威勢よくお仕事してるよ。
怖そうだと思ったけど、みんないい人じゃん。
肉を検品してたさっきのおじさんが戻ってきた。
「蹴りうさぎ五匹分の受領書だ。全部良品の満額査定だ。こいつを受付に持っていきな!」
おじさんが渡してきた紙を受け取った。忙しいのに査定も早かったね。感謝の意を込めて、ペコリとお礼したよ。
「冒険者なのに礼儀正しい嬢ちゃんだなあ。あのヤロウに嬢ちゃんの爪の垢でも飲ませてやりてえよ!」
あのヤロウ? なんか迷惑な人でもいるのかな?
「ああ、最近な。顔も名前も知らねえんだがよ、面倒くせえ珍妙な素材ばかり持ち込む奴がいるんだよ。古い資料で調べたり、各所に問い合わせたりしなきゃなんねえから、ここんとこずっと大変なんだよな」
へえ、そんな人がいるんだ。こんないい人たちに迷惑かけるなんて、感心しないなあ。
私はもう一度、素材管理部のみなさんにお礼を言って、リヤカーを片付けてからギルドの受付に向かった。
***
「はい。蹴りうさぎ五匹の討伐依頼、達成です」
なじみのお姉さんに、さっきおじさんからもらった受領書を渡して、任務完了だ。
ストーンランクの条件だった依頼も全部終わったから、これで文句なくストーンランクを名乗れるね。
んー? まだ何かあったような?
あっそうだ。私はカバンのなかにもう一つ戦利品が残ってるのを思い出した。
そういえば、今日はサブマスはいないよね。
「安心して。サブマスターにはいちいち出てこないように注意しておいたわ。逆に注目を浴びてしまうものね」
お姉さんよくわかってるね。あの子達に逃げられたのはサブマスのせいなんだよ。きっと。
「その代わり、ユリシィちゃんが持ってきたものは逐一、報告するように言われたんだけどね」
物言いたげなお姉さんの視線。
はいはい。ありますよ。変なモン素材。よいしょ、とカバンからそれを引っ張り出した。
台にそれを置いた途端、お姉さんは目を剥いてびっくりしてた。
確かに珍しいとは思うけど、そんなに驚くの?
「今日のお昼ごろに、ちょうど依頼があったところなのよ。いたずらトレントの樹皮なんて滅多に調達できないから、もしかしたら数年待ちになるかもって言ってたのに。今日それを持ってくるなんて……!」
はあ……ホントに変なモンハンターの称号が確定しそうだよ……。
いたずらトレントの樹皮の査定も、時間がかかるから後で振り込みになるんだって。
最近はそんなのばっかりだなあ。




