37.キック対決
蹴りうさぎを討伐するうえで、ひとつ問題がある。
私はソロだから、討伐が終わっても、五匹分の肉をひとりで運べないんだよ!
冒険者ギルドとディープルの森を何度も往復するのもいいけど、何日もかかっちゃう。
そうだ、私ももうストーンランク。そろそろ仲間ができてもいい頃だ。パーティを組んで手伝ってもらおう!
冒険者ギルドに入ると、ちょうど朝の混雑が解消されたくらいの時間だ。まだそこそこの人が残ってるよ。
私と同じ年頃の冒険者たちもいる。声、かけてみよっかな……。
でもなんか……。私の方を見ながら、みんなこそこそ話してるよ?
「おい、あの子この前、巨漢の男たちに姐さん呼びさせてた奴だぞ……」
「私の聞いた話だと、あの神速の剣姫と合同任務してたって噂よ」
「俺は見た! あの子が買い取りの列に並ぶと、サブマスターがわざわざ出てきて対応してたんだ!」
んん~?
「あ、あのう……。よければパーティ組みませんか?」
思い切って声をかけてみたけど……。
「ひえっ! めめめっそうもない! 俺達なんてまだ駆け出しで……」
「ごめんなさい! 私たち全然、雑魚なので……。足を引っ張るだけですっ!」
あれれっ? 逃げられちゃった、がーん……。
どうして私には、仲間ができないんだよう……。くすん。
仕方ないから、ギルドでリヤカーを借りたよ。
***
いろいろあったけど、やることはシンプルだ。
蹴りうさぎを五匹倒して、キエンメ草を採ってくるだけ。
イシイオ草も採れるけど、ミミレちゃんに聞いたらまだ前回の分残ってるみたい。今回はスルーだね。
蹴りうさぎの生息地は第二区画だ。でもディープルの森の資料を調べたら、キエンメ草は第三区画に生えてるようだ。
第三区画は、蹴りうさぎよりもっと怖い魔物が出るんだよ。
自分で採取するって言った手前、行かなきゃいけないよね。気をつけなきゃ。
そういえば、森に行くならモラリちゃんに森読みを教えたほうがいいかな。
いや、モラリちゃんのお家はお金持ちなんだった。素材は全部買ったり依頼したりだよね。自分で採取する必要は無いか。
私は準備を整えて、一人でディープルの森に向かったよ。
今日もいい天気だよ。空気も美味しいし、街道沿いの眺めも長閑で和むね。……この後の討伐さえ無ければ、だけど。
蹴りうさぎとの対決に備えてイメージトレーニングしてたら、思い出したんだ。
あの時、蹴りうさぎが蹴っ飛ばした、もりもりディアーの痛がる顔を!
ぶるる……。あんなの喰らったら、私なんてひとたまりもないよ。ヤーナさんが指定するくらいだから、勝てはするんだろうけど……無傷で済むといいなあ。
森の入口に到着したよ。ここからはリヤカーをひいて行けそうにないね。
よく見ると、他にもリヤカーをここに置いていてる人がいるみたい。何台か、木にロープでくくりつけてあるよ。
なるほど、みんなああやってここにリヤカーを停めて森に入るんだね。
わたしも同じように適当な木にロープでつなぐ。人通りも多少あるみたいだし、リヤカーの形もそれぞれ違うから、盗まれたり間違えて持っていかれることは無いだろう。
身軽になったので森へ入っていく。やっぱり森はいいね。ダンジョンや遺跡より馴染んでるよ。薬師だからね。
それでも第二区画に来ると、やっぱり警戒しなきゃ。
気配を探ると、ぽつぽつと魔物がいるっぽい。今回は蹴りうさぎ以外はスルーだよ。体力はできるだけ温存したいし、荷物が多くなっても困るからね。
いくつかの気配をスルーして歩くと、ちょっと遠くにいた。蹴りうさぎだ。
だけどこれ以上近づくのはまずいよ。ヤツは出会い頭にいきなり飛び蹴りしてくるくらい、好戦的なんだ。
そうだ、ここからスリングショットで狙ってみよう。
弾をつがえて狙いを定めて……いや、ここからじゃ届かない。もう少しだけ近寄って……それに狙いをやや上に向ければ届きそう。
スリングショットの特殊効果で、これで当たるはずだと、なんとなく分かる。この位置から発射だ!
やや山なりの弾道で、蹴りうさぎに向かって石が飛んでいく。だけどその分スピードが落ちて、気づかれた!
ヤツはぴょーんと石を躱す! やっぱりかと予測はしてたので、こっちもすぐ短剣に持ち替えた。
それと、新必殺技も出すよ――脚力強化!
足がフワフワする、あの感覚。すぐに蹴りうさぎの飛び蹴りが迫ってきた。避けなきゃ、と考えると同時に足が動いたよ。
躱されるなんて思ってもみなかったんだろうね、蹴りうさぎは驚いた顔してる。
そこへ短剣を叩きつけた……けどあっさり逃げられる。ヤツは左右にぴょんぴょん跳んでるよ。
むっ、チカチューとは違う動き。やりにくいな。
蹴りうさぎの討伐ランク自体はそんなに高くない。人によっては角ムカデのほうが苦手だって人もいるくらい。
蹴りうさぎはスピードも蹴りの威力も高いけど、所詮攻撃は蹴りしかない。それに防御力も低いから攻撃の上手い人なら簡単に倒せるんだ。
だから私みたいにすごい短剣じゃなくっても、そのへんの武器でも当てれば倒せる。
そう考えたらやっぱり私とは相性が悪いよ。すごい短剣の意味がないんだもん。
魔法のおかげでスピードだけはついていけるようになったよ。
集中すればなんとか蹴りも避けられる。だけどそのかわりに、こっちが攻撃する余裕が無いんだ! 躱すだけで精一杯。
膠着状態になりそうだけど、ようやくわかってきた。
チカチューと違って跳躍力もあるから、動きは読みづらい。だけどヤツの蹴りは……。
もりもりディアーのときもそうだったけど、ヤツはだいたい相手の顔面を狙って飛び蹴りするんだ。
それがわかったからといって、安易に、ヤツが飛び蹴りしてきたら顔の前に短剣を添えればいい、って考えるのは危険だ。
だってそれで倒しても、飛び蹴りの勢いがなくなるわけじゃない。そのままヤツの蹴りが飛んできて相打ちになるだけだ。
じゃあ、どうする――?
蹴りうさぎは、次の飛び蹴りの予備動作の跳躍をしている。――来るよ!
私は少し低く構え、ヤツの飛び蹴りに合わせて――こっちも飛び蹴りだ!
どこに蹴りが飛んでくるかわかってるおかげで、お互いのキックがぶつかりあった! 威力は――脚力強化のおかげで互角だ!
しかもこっちだけ足の耐久力も上がってるから痛くない! あいたっ!
飛び蹴りしたから落ちた時にお尻打っちゃった! 足は痛くないのに!
蹴りうさぎは私に蹴られて痛がってる……今だ! なんとかお尻の痛みをこらえて、この隙に短剣を突きつけたよ。
……はあ、はあ。
ようやく一匹倒せた。だけどこんなやり方じゃあ、あと四匹なんて体が保たないよ。もっと簡単に倒す方法を考えなきゃ。




