36.モラリちゃん
モラリちゃんの案内で、商会長さんちの薬師作業場を見せてもらうことになった。
モラリちゃんがしずしずと廊下を歩いていく後ろを、私がとてとてと付いていく。
「作業場はこちらにございます」
私よりすごくしっかりした女の子だ!
聞くとモラリちゃんは11歳だそうだ。私が11歳の頃っていうと、鼻垂らしながら草毟ってたよ……。
ハーフアップにしたコーラルオレンジの髪。落ち着いた若草色のワンピース。所作もきれいなご令嬢だ。
だけど何だろう。執事さんや商会長さんは私を見ても、小娘と侮るような視線はなかった。
モラリちゃんからは、侮る……いや、というより見定めようとする視線を感じるな。
商会長さんちの作業場は立派なものだった。
専用の釜に火力調整用の魔道具もついてる。大きな作業台に、サイズ別の調合ナベや調合おたまなども揃ってる。
理想的な環境だ。私もこんな作業場が欲しいなあ。
ここなら十分健康ポーションを作る作業場として機能するだろう。
でも何で商会長さんのおうちに薬師の作業場があるのかな? 執事さんがその疑問に答えてくれたよ。
「モラリ様には、薬師の素質があるのです」
なるほどね。モラリちゃん用の作業場なんだ。商会長さんも娘さんにこんな立派な作業場を用意するなんて親バカだねえ。
商会長さんには他に16歳の息子さんもいて、すでに跡取り候補として現場に出て勉強してるらしい。だからモラリちゃんは、自分の得意な分野に進めるんだね。
ということで、ここで健康ポーションを作ることになったよ。
応接室に戻ってきて、また商会長さんとの話の続きだ。
作ったことがないからできるかどうかわからない。そう説明したら、責任は問わないから挑戦してみて欲しいって言われたよ。
私からしたら、新しいポーションづくりに挑戦できるからラッキーなんだけど、なーんか話がうますぎるなあ。
成功した時の報酬も提示されたけど、なんと5万ペネもだしてくれるんだって!
市場に出ていないポーションだし、価値だけでいえばそれくらいあってもおかしくないんだけどね。
私が作れるかどうかはまた別だよ。それなのにポーンと報酬を用意してくれるんだ。太っ腹だね。
あと、作業補助にモラリちゃんをつかせようとしてきたけど断ったよ。
このレシピはおばあちゃんの秘伝だからね。見せられないんだ。かなり強引にねじ込もうとしてきたから断るのに大変だった。
商会長さんの目がキラーンと光る。
「ではその代わりに……」
ほら来た! これだからやり手の商人は!
あまあい飴を与えておいて、無茶を要求する。こっちがはねつけると、少し下げた本命の要求をしてくるんだ。
その要求とは――モラリちゃんを指導して欲しい、ってことだった。
来年、モラリちゃんが12歳になると、王都の薬師学校へ入学することになるらしい。
その学校は国内でもトップレベルの指導で有名なんだって。それに、多くの貴族の子息令嬢が入学するとのこと。
裕福でも平民であるモラリちゃんは、肩身の狭い思いをするだろう。せめて優秀な成績を修めることで、無事に過ごして欲しいという親心だそうだ。
なるほどね。
薬師ギルドのお姉さんも回りくどいことをする。これがあのとき言っていた、後進の育成ってやつだね。
最初からモラリちゃんの先生にさせるために、ここへ私を派遣したんだ。
他にも候補はいるんだろうけど、モラリちゃんと年が近くて話しやすい私を選んだんだろう。
だけど私、薬師学校なんて通ってないよ!? どんなことをするのかも知らない。
だから、本当に適任かどうかの審査も兼ねての、商会長さんの依頼だったんだ。
まー、まずは健康ポーションに挑戦してみるか。
それが無事に終わったら、モラリちゃんの先生をやるって話にまとまったよ。
もちろん私にも冒険者や薬師のおしごとがあるから、つきっきりではできないけど、週二回くらいこちらのお宅に通うことになったんだ。
でもあのしっかりしたモラリちゃんに対して、ちゃんと先生できるかなあ?
それは後で考えるとして、健康ポーションを作ろう!
必要な素材は、聖水とキエンメ草だ。
聖水は教会で3000ペネで買えるから、そっちはお任せしよう。問題はキエンメ草だよ。
素人には採取の難しい薬草だから任せられない。これは私が直接採りに行かなきゃ。
このあたりでキエンメ草が採れるのは……ディープルの森だね。
あっそうだ! 蹴りうさぎの討伐と、まとめてやっちゃおう!




