33.またなの?
覚えた魔法をさっそく使ってみよう!
この『脚力強化』の魔法は、自分の魔力を使って一時的に脚の力を高める魔法だよ。速く走ったり、高く跳んだり。
ということは、これまで苦手だった素早いヤツにも対処しやすくなるってことだ。
……それに、高く跳べるってことは、もしかして、天井のコウモリにも届くんじゃないかな!
私はさっそく、頭の中に入ってきた呪文を詠唱してみた。
体の中にある魔力がじんわりと、足の方へ集まっていく。……なんだかフワフワして、自分の足じゃないみたい。
ちょっと跳んでみよう、トウ!
わわ、高い! 手を伸ばしたら天井に触れそうだ!
でもこれで天井のコウモリとも戦えそうだよ。
……着地が怖いな。身を縮こませて、衝撃に備えてから着地、したら。
地面が割れちゃった! 轟音がして、穴が空いて落ちていくよ!
あいててっ!
下まで落ちちゃったけど、足の方は大丈夫だ。脚力強化の魔法で、耐久力も上がってたみたい。だけどパラパラ落ちてくる破片がこつこつ当たって、地味に痛いよ。
「うわっ、何か落ちてきたと思ったら……姐さんじゃねえですかい!」
わっ、下に人がいたのか! 怪我させてないかな……って、私を姐さん呼びする、この人たちは……。
落ちた先にいたのは、大きな体の三人組の冒険者。
そう。あのデンジー廃鉱山ダンジョンで倒れてた、救出した三人組だ。
あの後、快癒したって聞いてからポーションと丸薬の代金を回収しに行ったんだ。
そしたらなんかめちゃくちゃ感謝されて、直立不動からの90度お辞儀だよ。まいったね。
代金も何倍も払おうとしてきたけど、薬師ギルドの決まりだから、って断ったよ。
本当のことをいうと、緊急時の代金は割増請求してもいいんだ。だけどその後で報告書を作って提出しなきゃいけないんだよ。じゃなきゃやりたい放題できちゃうからね。
報告書なんてめんどくさいから、正規の代金だけもらった。
そのことに感動したのか、この人たちはそれ以来、私を姐さん呼びしてくるんだよ。まあ悪い気はしないけどね、へへ。
「それにしても姐さん、ストーンランクに昇格したからって、七層に一人で来るなんて無茶ですぜ」
あっ、六層から落ちたから、ここは七層になるのか。七層はさすがに怖いな。でも他の冒険者と出会ったってことは、隠し通路は六層まででおしまいってことだね。
元に戻るには、もう一度ジャンプすれば戻れるかな?
んん? うーん、穴があった辺りにはヒカリゴケが生えてないから、見えにくいなあ。
「さあ、俺達が付いていきますから、戻りますよ、姐さん!」
わわ! 結局彼らと一緒に戻ることになったよ。彼らはアイアンランクだから、通常ルートで戻っても大丈夫だろう。
彼らも受付お姉さんの過保護が伝染ったみたいだね。荷物を持ってくれたり、戦ってくれたりと至れり尽くせりだよ。
***
結局、冒険者ギルドまで荷物を運んでもらっちゃった。悪いね。すごく重かったでしょ。
「姐さんのためならなんてことないでさあ! またいつでも頼ってくだせえ!」
ギルド内で、大声で姐さん呼びは止めてほしいなあ。
三人組と別れたので、受付に行こう。まだ夕暮れ前で、本格的に混みだす前だよ。
「いらっしゃい。ユリシィちゃん。東沼ダンジョンに行ってきたの?」
お姉さんも、巨大コウモリの討伐だってわかってるみたいね。重い荷物をどすんと下ろして一息つくと、あれ?
「重そうだな。また何か変なモン狩ってきたんだろう?」
お姉さんの隣に、何故かサブマスもいるよ? 変なモンって……まあ当たってるんだけど。まさか私を問題児みたいに思ってるんじゃないよね?
ひとまず、巨大コウモリ5匹分と泥モグラ2匹分の戦利品を台に置く。
「はい。巨大コウモリ討伐の依頼達成ですね。――査定額は合わせて、6000ペネです」
ダンジョン内の魔物には討伐自体の報酬が無いから、素材分だけなんだよね。それでもなかなかの収入だ。
うう……サブマスとお姉さんの、まだあるんだろう? って視線が厳しいよ。
私はそれを荷物から引っ張り出し、ゴトって台に置いた。それを見たサブマスが、即座に上着を脱いでそれに被せた。
おかげで他の人達の目には触れなかったみたい。
「はあ~。……まさか『金族』とはなあ」
サブマスの呆れた声と、お姉さんの、またなの? って言いたげな視線が痛いよ。
私だって好きで変な魔物と出会ってるわけじゃないのに……。
一人前のストーンランクに上がったから、お姉さんももうクドクド言わないけれど、今度は変なモンハンター扱いされてる気がするよ。
金族バットの屍骸は見た感じ金のカタマリだけど、短剣を突き刺した穴から覗くと、金なのは表面だけみたい。
だからそんなにお金にはならないかな? って思うんだ。
でも査定は素材管理部に回されるから、時間がかかるんだって。サブマスが「あいつらまた残業確定だな」とかつぶやきながら、上着ごと抱えてカタマリを持っていったよ。
「金族バットの査定額が決まり次第、カードに振り込みになるけど、本当に査定額は確認しなくていいの?」
お姉さんが聞いてくれたけど、価値なんてわかんないんだからそのまま振り込みしてくれていいよ。確認なんてニ度手間だよ。それにしても本当に金族バットっていう名前なんだね。
これで巨大コウモリの討伐が終わったから、次は蹴りうさぎだ。って意気込んでいたら、お姉さんからまだ何かあるみたい。
「そうそう、ユリシィちゃん。薬師ギルドから伝言を預かってるわ。近い内に薬師ギルドに顔を出してほしいって」




