32.またなんか拾った
六層のL字通路の先は行き止まりだったよ。隠し通路はここでストップなの?
だけどよくみたら……あっ、上の方に魔泥のカタマリがあるよ。採っていこう!
なんとか背伸びして届く高さだけど、固まってて剥がせない。素材採取用のナイフだと刃こぼれしそうだなあ。よし、短剣を使おう。
……んん、待って? 前に一度、同じことしなかった?
そうだ、ここの一層で同じような場所があって、短剣が折れちゃったんだ! 危ない危ない。
短剣で剥がすのは止めておこう。すごい短剣だけど、魔物との戦い以外では普通の短剣だからね。
となると、あれを使おう。さっき捨てたスリングショットの弾だ。
ひとつ拾ってきて、スリングショットで魔泥のカタマリに、ていやとぶつけた。カタマリはポロッと剥がれたけど、一緒に衝撃で壁が崩れちゃったよ!
あの時と同じだ! 崩れた壁の向こう側に、空間があるよ!
魔泥のカタマリも瓦礫に埋まっちゃったけど、採れる分だけは、せっせと採っていく。瓦礫に上って壁の穴を覗いてみたら、やっぱり小部屋になってて……あ!
部屋の真ん中に、宝箱だ!
慌てて壁の穴を乗り越えようと……しないよ。
もう私もストーンランク冒険者。慎重さを身につけたんだ。慌てたってろくなことがないよ。
後方よし。足場よし。――安全を確認して、穴を覗く。小部屋の隅から隅までチェックだ。トラップも魔物も……心配なさそうだね。
壁の穴を乗り越えて、降りる……前に、念のため瓦礫のカケラをひとつふたつ落としてみる。向こうの足場も問題なし。
無事に小部屋に降り立った。……問題は宝箱だよ。いかにも何かありそうだね。
冒険者になった時に色々講習を受けたんだ。トラップの見破り方や外し方も習ったよ。あくまで初歩を一通りってだけだから、本職のスカウトには全然敵わない。
でも諦める、って選択肢は無いよね。
宝箱をじっくり観察する。座るのにちょうどいいくらいの高さ。だけど上部の蓋部分は丸くなってるから座れないよ。
木製で、つなぎの部分だけ金属で補強してある。
壊して開けるのは論外だよ。トラップがあるなら、壊した瞬間、毒ガスが吹き出たり爆発したり、普通に開けるよりひどいことになるんだ。蓋の留め具や蝶番を外すのも同じく駄目。こういうのは正攻法が一番いい結果につながるんだよ。
むーん、と宝箱の前で考え込んでしまった。
――待って、これミミックって可能性もあるかも。
ミミックは宝箱の魔物だ。
通常は宝箱に擬態した魔物で、宝箱を開けたら、中の魔物が襲いかかってくるよ。宝物だと思ったら魔物だなんて、がっかりだよね。
他にも、長いこと発見されなかった宝箱が、ダンジョン内の瘴気に晒されて、魔物化したものもあるんだって。
ここは隠し部屋の宝箱だから、その可能性もあるね……。
後者の場合は、ミミックを倒したらもとの宝箱の中身が出てくるからラッキーなんだ。
宝箱がミミックかどうかの見分け方は、本当は困難なんだけど、私の場合は……実は簡単なんだ。
こうやってほら。短剣を軽く当てるだけ。
本物の宝箱なら、こつんと音が鳴るだけだけど、ミミックなら――。
魔物相手の場合にだけ発生する追加ダメージで、こんなふうに……真っ二つだ! こいつやっぱりミミックだった!
木箱が割れて、中からもにゅもにゅしたナニカが、ぱたりと息絶えた。あぶなーっ。
ふう。短剣があって本当に良かったよ。
そして木箱の中に、もにゅもにゅの他にも何かあるよ。これは……魔法のスクロールだ!
やった。これはお宝だ。取り出していそいそと開いてみる。
魔法のスクロールは、一度だけ誰でも魔法が使えるタイプのものと、魔法使いが魔法を習得するためのものがあるんだけど。
見た感じ、何が書いてあるかさっぱりわからないや。
でもよく知ってるものもあるよ。最後の方に、短剣の柄頭にあるような、紋が刻まれている。これに、魔力を流し込んでみよう。
あっ、短剣のときと同じように紋が光ったよ。そしてスクロールの文字全体に通った魔力が逆流してきて、私の体の中にまた戻ってきた。
同時にスクロールの文字が消えて、ただの紙になっちゃった。
やっぱりへんな感じだ。だけどスクロールの内容が自然と理解できたよ。
これは習得のスクロール。
覚えた魔法は――『脚力強化』だ。
やった、やった、やった! 私――魔法、覚えちゃった!!
魔法を覚えるって、すごいことだよ! 魔力のある人はそれなりにいるけど、それを魔法という形で使える人は、ほんの一握りなんだ。
魔法使いの弟子になって何年も修行するか、冒険者が運よく習得のスクロールを手に入れるかしかない。
そのほんの一握りの人に、私がなっちゃったんだよ!




