3.東沼ダンジョン
人のいない空き地を見つけて、えいっ、えいっと買ったばかりの短剣を振り回してみる。
よし。なんとか使えそう。
むふん。ようやくいっぱしの冒険者になれた気分。まだ一体も魔物を倒してないけどね。
それじゃあ、そろそろ冒険に行ってみようかな。ギルドのお姉さんから聞き出した、ルオナ草やシケクド草が生息しているらしい、東沼ダンジョンへ!
東沼ダンジョン。この街の東側、徒歩一時間くらいの湿地帯に入口があるダンジョンの通称だ。街の周辺にいくつかあるダンジョンのうちの一つで、初心者から上級者まで対応してるけれど、じめじめしててあまり人気がないそうだ。
ダンジョンとは、地下にできた洞窟のような場所で、何層にも渡って深く階層が続いている迷宮のこと。魔物もでるけど、珍しい資源や素材が採取できる。冒険者などの戦える人が、日々の生活の糧として潜っていくのだ。ごくたまに、すごいお宝が見つかることもあるみたい。
ルオナ草は、東沼ダンジョンの4層から6層あたりに生息しているとのこと。そのあたりはストーンランク以上の冒険者がパーティを組んで挑戦するようなところだ。ギルドのお姉さんからは絶対に行ってはいけませんよ、と念を押されている。
もちろん今回は行くつもりがないよ。ちょっと1層だけ偵察するだけだ。
1層なら、冒険者たちが魔物を狩り尽くして、もう弱い魔物しか出ないらしいから、私でもなんとかできると思うんだ。
***
しっかり準備をして街を出た。
全財産のおよそ9割を費やして短剣を買ったんだし、何か成果を出さないとね。もう宿泊費も無いんだから!
街からは乗合馬車も出てて途中まで行けるんだけど、もちろん節約して徒歩だ。見渡す限り草原や畑が広がってる。街の外での活動は久しぶりだし、魔物が出るような危険なところに行くのは初めてだ。ドキドキと緊張もするけれど、どこまでやれるか楽しみな気持ちもあるよ。
一時間も歩けば風景も変わって、木々や草の密度が増えてきた。
ちょっと蒸し暑いかも? ジメジメして歩きにくくなってきたし、人気がないのも納得だ。虫も多い!
そのへんの、長めの木の枝を拾って地面を突きながら歩く。いきなりズボッと底なし沼にはまっちゃうのは嫌だからね。いくつか虫よけに良さそうなハーブが生えてたので摘んでいく。少しずつ、軽く揉み潰しては体に振りかけたり周囲に撒いたりしておく。これでも薬師だからね。これくらいはお手の物よ。香りの良いものを選んだから、ジメジメの不快さもいくらか和らいだ。
そして見つけたよ。湿地帯の一部に岩が積み上がってる場所があったんだ。先人たちが目印として築いてくれたんだね、ありがたい!
岩の真ん中に、ぽっかり降りていく穴が空いている。すこし急な坂道だ。泥で滑らないように、気を付けて降りよう。
ダンジョンの中は思ってたより明るい。一応松明を持ってきたけれど使わなくても何とかなりそう。ヒカリゴケがそこら中に生えてるんだ。
さあ、ここからは魔物が出る危険地帯だ。気を引き締めるよ。
故郷の村で素材採取してた時に、魔物の探知の仕方は覚えたんだ。奴らは微弱な魔力を放出してるから、神経を集中させれば魔物が近くにいるかどうかわかる。
ゴクリ。拾った木の枝はもう捨てて、買った短剣を構える。さあ、どっからでもかかってこい!
探知に魔物が引っかかった! 逃げよう!
魔物と反対方向へ後ずさる。怖い怖い! いきなりは無理!
ダンジョン内はいくつも分かれ道があるけれど、探知で魔物がいない方へいない方へと進んでいく。これ、帰れるのかなあ?
いくつかの分かれ道を過ぎたあと、ようやく魔物の気配が無さそうなところで落ち着くことができた。すこし休もうっと。
やっぱり私に冒険者なんて無理だったのかな?
でもポーション作らなきゃ。こうやって逃げ回って進めばなんとかなるかな、なんて考えるほど楽観的じゃないよ。うーん、一体くらいは魔物を倒してみる? せっかく短剣買ったんだもんね。
えいえいと短剣を振り回してたら、覚えのある匂いを嗅覚が捉えた。
これは……魔泥だ。魔泥はポーションの材料の一つで、街でも採れるんだけど量が少ない。ここで採れるなら採っていこう。でも匂いはすれど見当たらない。もっとよく上から下まで見渡してみたら、あった。上だ!
岩壁の上辺りに固まってこびりついている。これだけあれば街でドブさらいをしなくても済むぞ。なんとか背伸びして届く高さだけど、固まってて剥がせない。素材採取用のナイフだと刃こぼれしそうだなあ。よし、短剣を使おう。
思いっきり振りかぶって短剣を魔泥の塊に叩きつけた。魔泥はボロリと足元にこぼれ落ちた。上手くいったみたい。よしもう一度と再び叩きつけたのがよくなかった。大事な短剣が根本からポキリと折れてしまったよ! そして魔泥どころか、岩壁ごとガラガラと崩れてきたんだ!




