29.苦手
「邪魔するよ~」
「邪魔するなら帰ってんか!」
というわけで、ドワーフ姉さんの武器屋に来たよ。
ストーンランクに上がって、巨大コウモリの討伐依頼を受けてからもう三日が経った。
あれからギルドの資料室で調べたり、空き地で投石の練習したり、ミミレちゃんの料理を堪能したりしてたけど、どうしても巨大コウモリを倒すイメージが湧かないんだよ!
前回は松明で追っ払った、で済んだけど、今回は討伐だ。
前とは違って、ランクは二つ上のストーンランクに上がったし、短剣の使い方もそれなりに慣れてきたよ。
だけど標的の巨大コウモリってヤツは、高くて短剣が届かない、たいてい集団で現れる、素早い、と、私の不得意な要素が勢揃いなんだ!
しかも前に遭遇したときに襲われかけたから、ちょっと怖くて苦手意識もあるよ。
「なるほどね。じゃあ弓とか試してみる?」
何も絶対、短剣を使って倒さなきゃいけないわけじゃないんだ。飛び道具で何か使えるものがないか、ドワーフ姉さんに相談しに来たんだ。
軽そうなライトボウを手渡されたけど……。
「んぎぎ……ふんぬっ、ふんぬっ!」
弦が硬い! 矢をつがえるだけで疲労困憊だよ!
柔らかい弦の弓もあるそうだけど、そっちは上級者用で素人が扱えるような物じゃないみたい。それに手入れも大変で、ちょっとでもサボるとすぐに駄目になるんだって。それは私には向かないな。
だったら素人でも扱えるクロスボウはどうかな?
「う……く……せいっ! はぁはぁ……」
そもそも重くて持ち運べないっ! 圧倒的に筋力が足りてないよ。だって薬師だもん。
「それも駄目か。あとユリッペが使えそうな武器っていったら、投げナイフ、スリングショット、吹き矢あたりかな」
色々あるなあ。店内に試用スペースがあるので、サンプル品を借りて片っ端から試してみたよ。
投げナイフは中々当たらないし、力がないと遠くに飛ばせない。しかも使ったら、回収しなきゃもったいない。いちいち大変だ。ナシだね。
スリングショットは両手を使うのが難だけど、飛距離、当てやすさともに悪くない。威力はやや弱い。
吹き矢は悪くないと思ったけど、これけっこう疲れるね。思いっきり息を吹きかけなきゃ飛ばないんだ。洞窟で使うことを考えたら、筒を短くしなきゃいけないから飛距離も出ない。
試した結果、スリングショットが一番良さそう。
スリングショットは、Y字型の持ち手にゴム紐がついてて、ゴムを引っ張って石などの弾を飛ばす武器だ。
ドワーフ姉さんが棚から一品、選び出して持ってきた。
「スリングショットならこれはどうだい? 命中補正の特殊効果付きだよ」
おっ、特殊効果! 命中補正なんてのもあるんだ。素人の私にはピッタリだよ。……でもお高いんでしょう?
そういえばギルドカードがあったんだ。これって直接買い物できるのかな? いくら入ってるか知らないけど。
「へえ、ユリッペもカード持ちなんだ。使えるよ、貸してみて」
カードを渡すと、ドワーフ姉さんは精算機にカードを添えて覗き込んだ。
けっこう入ってると思うんだけど、ミスリルゴーレムの運搬料を除いたらあまり残ってないかもしれないね。買えそうですかね?
「もちろんにございます。ユリシィ様でしたらもうワンランク上の商品もお買い求めいただけますよ」
あれっ? 呼び方が変わった! ドワーフ姉さん、変な笑い方して怖いんだけど!
もう! いつもの呼び方にしてよ。……ユリッペもどうかと思うけど。様付けよりマシだよ。
スリングショットも元のやつでいいよ。後から持ってきたやつって、キンキラしてて目立ちすぎだよ!
「ええ~、これはお貴族様に大人気なんだけどなあ」
だからお貴族様じゃないし。実用性だけで十分!
そんなこんなで、特殊効果付きのスリングショットが買えたよ! ギルドカードがあってよかった!
***
いつもの空き地で、買ったばかりのスリングショットの練習をするよ。
板切れを木の枝に吊るして、と。的はこれでいいだろう。
近くに人がいないか確認しないとね。失敗したら危ないし。
大丈夫そうだから、さっそく撃ってみよう。手頃な石を拾って、的に向かって、えいっ!
わ、当たった! 板切れも割れたから威力もけっこうありそうだよ。
お店のサンプル品と違ってすごく当てやすい。これはけっこう、いい買い物をしたかも!
ふっふっふ。待ってろよ~巨大コウモリめ。
あの時襲いかかってきた巨大コウモリを思い浮かべて……。
……もうちょっと練習しておこっと。




