22.チカチュー
西区7番筋にやってきたよ。ドブさらいのおしごとだ。
ドブさらいで使う道具は、各区域にある倉庫で貸し出してるよ。西区は初めてだけど、だいたい手順は他と一緒みたい。倉庫から勝手にスコップと手押し車を借りて、現場に持って行くんだ。
倉庫も地下水路への入口も、鍵はギルドで受注するときに預かる。だからこの仕事は人と会うことがなくて楽なんだ。ちょっと寂しいけどね。
ドブさらい用の長靴とエプロンをつけて、地下水路に降りていく。
じめじめしてるけど、ヒカリゴケがあるからそれなりに明るい。
街中に張り巡らされた水路だから、とてつもなく広いんだ。もちろん泥を全部取り除け、なんて仕事じゃなくて、詰まらずに水が流れる程度にやればいいみたい。
しんどいし力仕事だけど、午前ニ時間、午後三時間、休憩を挟みながら自分のペースでやっていいんだ。そんなに厳しいことは言われないよ。だってそもそもドブさらいの仕事なんて、依頼を受ける人が少ないからね。
おっ、魔泥のカタマリ発見。採取採取~っと!
以前管理の人に確認したけど、魔泥は好きなだけ持ってっていいって言われてるよ。バケツ一杯売ってもせいぜい数十ペネにしかならないからね。
泥をすくって~。お宝探し~。
なんて、歌ってなきゃやってられないよ。ホントに重労働なんだ。
水路の泥をガリガリすくって脇道に乗せていく。しばらくすると通りの悪かった水がすっと流れていくんだ。この瞬間はちょっと気持ちいいよね。
脇道の泥はある程度溜まったら、手押し車で外に持っていくんだ。捨てる専用の空き地があるからそこへずざざと山積みに捨てていく。その後の泥の処理は、別の人の仕事だよ。
この往復がまた疲れるんだよね。薬師のやることじゃないよ。
だけど、この街に来た頃には無かった体力が、けっこうついたと思う。魔物ともそれなりに戦えてるのは、この下積みがあるからさ。
そう考えると、このドブさらいも悪くないね。魔泥も手に入るし。
少し休憩を挟んで、仕事を再開しようとしたら――。
む、むむ。出たな。チカチューの気配!
チカチューは前歯でカリカリ噛みついてくる攻撃しか無い。弱いけど、まあまあ素早いんだ。これは、短剣を当てる訓練になるかも?
さあ来い。ゴーレムに比べたらチカチューなんて怖くないぞ!
近寄ってくる……そこだ!
チカチューの気配に向かって短剣を振り下ろす、当たらない! すでにはるか向こうだ!
追っかけていって、てやあてやあと薙ぎ払うも、全部空振り。チュチューッと奴が馬鹿にしてくる。むかー。
そこからは乱戦だ。泥まみれになって、もみくちゃになって、ようやく短剣をかすらせることができたよ。少しでも当てられたら勝てるんだ。すごい短剣だからね。
でもこのチカチューって奴は、使える部位が何も無いんだよ。倒したところでお金にならないんだ。
繁殖力はそれなりにあるけど、寿命も短いから問題になるほど増えない。だから討伐依頼も出てないよ。すくった泥といっしょに、死骸もぽいっと捨てるだけ。
だけどこれ、私の苦手な素早いやつと戦う、いい訓練になりそうだよ。
一週間後の試験って何やるかわからないけど、こういう素早い系と戦わされるかもしれないし、いい機会だ。試験までチカチューと戦って訓練しよう!
***
その日から毎日、西区のドブさらいの依頼を受けてチカチューと戦ったよ。
はじめのうちは苦労してたものの、慣れてきたらチカチューの動きが読めるようになってきたんだ。
奴が走ってきそうなところに、すっと短剣を差し出すだけで真っ二つだ。
もういつでも、チカチューなら楽勝で倒せるようになったよ。試験で戦うことはないだろうけどさ。
それに魔泥もけっこう溜まったんだ。試験の前日はおやすみして、ミミレちゃんのところでポーションを作ったよ。
休養も十分。さあ、ストーンランクの試験がんばるぞー。
冒険者ギルドに行くと、お姉さんが待ち構えてた。
「定刻通りですね、ユリシィちゃん。それではまずユリシィちゃんを担当する、試験官を紹介しますね」
ほー、試験官。この試験の評価をする人だね。
お姉さんの後ろから現れたのは、あっ!
「や、やあ……どうも」
神速の剣姫と呼ばれてた、あのゴールドランクのお姉さんだ。
以前、武器屋で見かけたときには、キリッとしたかっこいい人だったけど、なんだか今は落ち着きがないような?




