17.薬売り
街から北のデンジー廃鉱山ダンジョンへ行くには、乗合馬車が出てる。片道500ペネだけど奮発して乗っていこう。
今はちょうどお昼ごろで、馬車には冒険者もちらほら乗っている。この人たちはギルドで見かけた人たちだから、もう松明禁止のことは知ってるだろう。
今、廃鉱山で起こっていることは、おそらくミスリル鉱山病だ。
鉱山が生み出す天然ガスと、松明の煙が作用して生まれる毒を吸い込むことで起きる病気だ。
動植物由来の毒と比べると症状は軽く、危険度は高くないんだ。だから逆に、この毒にかかっても無理をしがちになってしまう。特に今このダンジョンはお宝が眠ってるからね。
弱い毒でも吸い込み続けると危険だ。だからまず松明の使用を禁止した。
煙がないとただのガスだよ。体にはよくないけれど、これ単体に毒性はない。だから今日すでにダンジョンに潜ってる冒険者さえ無事なら大きな問題にならないはずだ。
デンジー山に着いたよ。馬車は鉱山入口前の広場で止まった。おー、けっこう賑わってるなあ。
これからダンジョンに入ろうとする冒険者たち、装備を入念に点検してる冒険者たち、出入り口を管理してるギルド職員に、焼きとうもろこしの屋台まで出てるよ。こんなところまで来て商魂たくましいな、一本ちょうだい!
私は焼きとうもろこしをカリカリしながら、ダンジョン入口前、右側に立っているギルド職員に話しかけた。
「ほんいひわ。ほれ、ひるほのほれいはんから」
「ええい、食べながらしゃべるな! 不真面目なやつだな」
怒られたけど、職員のオジサンの歯にも隙間にコーンが挟まってるよ。美味しいよね、焼きとうもろこし。
「こんにちは。これ、ギルドのお姉さんから」
私はニ枚の書簡を手渡した。松明禁止の指示書と、私の営業許可書だ。
「うむ、ご苦労」
普通はダンジョン前に職員さんが立ってることなんてあまりないんだろうけど、やっぱり毒のことが問題視されてるみたい。冒険者の出入りをチェックしてるようだ。
職員さんは一通り目を通したあと、ダンジョンに入ろうとする冒険者を呼び止めてたよ。うん、これで安心だね。後は今潜ってる冒険者の対処だ。
私は職員さんが立っている反対側、つまり入口の左側にゴザをひいてちょこんと座った。
すり鉢とすりこぎ棒を取り出して、ゴリゴリとソンサ草とシマサツネ草を混ぜてすりつぶす。ゴリゴリ。
目の前でぐちぐち文句を言ってる冒険者と、ガミガミ説教をしてる職員を見ながら、ゴザをひいてゴリゴリしてる薬師。
あーいい天気だな。
いい感じにすりつぶせてきたので、ここに山芋粉を混ぜるよ、ゴリゴリ。ちょいちょいっと水を垂らしてねりねりすると、丸薬ができた。
木の看板を立てよう。『スッキリする丸薬あります。二粒で100ペネ!』って書いてあるよ。
文字は師匠のおばあちゃんに習ったんだ。今みたいに路上で売ることもあるからってね。
職員さんのチェックを終えた冒険者が、なんだコイツ、って視線を私に向けながらダンジョンへ入っていくよ。
呼び込みとか営業とかって苦手なんだよね。だから私はちょこんと座ってるだけ。変なやつって思われるかもだけど、興味を持ってくれた人もいたよ。
「へー、スッキリする丸薬か。そういえばこのダンジョンってちょいと気分悪くなるんだよな。買って持っていくか」
栗色の髪の青年の冒険者だ。せっかくのお客さん第一号になりそうだけど、残念。
「ごめんなさい。この丸薬はここで飲んでもらいます。持っていくなら売れないです」
これは仕方ないんだ。ダンジョン内でスッキリされても、それで探索を続行されたら逆効果になっちゃうからね。探索を終えた人にしか売れないんだよ。
この冒険者さんは気を悪くした様子もなく、そうなのか、と納得してダンジョンへ入っていった。
入れ替わりに二人組の冒険者が出てきた。やや顔色が悪そう。
こちらに気付いて訝しげに見てたけど、看板の横に貼ってるギルドの営業許可書を見て、ものは試しか、と呟いて丸薬を買ってくれた。まいどありー。
二人は丸薬の匂いに顔をしかめながら、水袋から水で流し込んで飲み込んだ。
しばらくすると、おっ、という顔をして、腕をぐるぐる回しだした。
「おい嬢ちゃん、コイツはなんだ? 効き目バツグンじゃねえか!」
晴れやかな顔で騒ぐ二人組。周りからも何だ何だと注目が集まり始めてるよ。
「ただの薬ですよ。このダンジョンの特性に合わせたものだから、出てきた時に飲むとスッキリしますよ」
どんな症状か、何が原因かがわかってるなら、それに合わせた薬を調合するのなんて簡単だよ。なんたって薬師だからね!
職員さんも感心したように私を見て、ダンジョンから出てきた冒険者にオススメしてくれてるよ。よーし、稼ぎ時だよ!
それから夕暮れまで丸薬を売り続けた。中には道具屋に来た人みたいに症状の重い人もいて、この丸薬では多少症状を和らげるくらいにしかならない。それでも乗合馬車に乗れるくらいには回復したので、街で解毒ポーションを探してもらおう。薬師ギルドならいくつかストックはあるだろうし、他にも神父のおじいちゃんなら神聖魔法で治せるよ、って教えてあげた。
そろそろ店じまいしてもいいかなって職員さんに聞いてみた。
だけど一組だけ、松明禁止の忠告を聞く前の午前中に潜った、冒険者パーティが戻ってきてないんだって。もうちょっと待つかなと思ってたら、見覚えある冒険者が慌ててダンジョンから出てきた。最初に声をかけてくれた栗色の髪の青年だ。
「三層で冒険者パーティがぐったりして倒れてるんだ! 俺はソロだから救援がいる、誰か手伝ってくれ!」
これは、薬師としては放っておけない。ダンジョンに入ることになるけれど、この人についていけば一人で入るんじゃないから、いいよね、お姉さん。




