16.薬師緊急指令
デンジー鉱山跡にあるダンジョンは、つい最近ブロンズランクの冒険者パーティがミスリル鉱石を発見して、大儲けした場所だ。
それまであまり人気のなかったこのダンジョンは、それ以来、この街一番の人気スポットになった。
後続の冒険者たちも、稀にだけど数人がミスリル鉱石を持ち帰り、挑戦する人が後を絶たないみたい。
ただ、出てくる魔物もゴブリンやゴーレムなどで、初心者には不向きだ。ストーンランクより一つ上の、アイアンランクのパーティからが適正ランクといわれてる。私には縁のない場所だね。
でもちょっと気がかりだな。
「そのダンジョンって、ヒカリゴケは生えてる?」
「いや。一層は灯りが設置してあるが、ニ層から下は真っ暗だな。基本、ランタンか松明が必須だ。俺達も松明を持っていったよ」
ヒカリゴケが生えてないなら、他の植物も生えてないだろうね。
ゴーレムは毒を使わないし、ゴブリンなら毒の弓矢とか使うって聞いたけど……。聞いてみたら、このお兄さんたちは三層でゴーレムと戦っているうちに、いつの間にか毒にやられたそうだ。
ヒゲおじさんから聞いた話でも、最近解毒ポーションがよく売れるのは、このデンジー廃鉱山ダンジョンのせいみたい。
これは――ひと儲けのチャンスかも! いやいや、人助けのためだよ?
私はにやけ顔を真剣な顔に変えて、ピシリと宣言した。
「おじさん、薬師緊急指令を発動します!」
冒険者の三人は何だ何だと不思議な顔をしてるけれど、さすがに道具屋の店主、ヒゲおじさんはこれを知ってたみたい。襟を正して私へ向き直った。
――薬師緊急指令。これは薬師に与えられた特権で、病などに関わる、緊急を要する状況に差し迫ったとき、一時的に薬師がその場で指揮を取る権限だ。周囲の人間はできるだけ薬師の指示を仰ぎ、協力することとなっている。ただし法的拘束力は全く無い。
それに万一間違いがあったら、薬師としての信頼を著しく落とすことになる。だからむやみに使うものじゃないよ。
「今後、松明を販売するときは使用用途を聞くこと。そんでデンジー廃鉱山ダンジョンに行く人だったら絶対に売らないこと! いいね!」
「あ、ああ。ランタンはいいのかい?」
店内に売ってるランタンをチェックした。使ってる油もランタン本体も煙がほとんど出ないタイプだ。
「オッケー。このタイプのランタンならいいよ」
ここでできることは、それくらいかな。次は冒険者ギルドだ。
ヒゲおじさんと冒険者たちにさよならを言って、店を飛び出した。そうだ。途中、八百屋に寄って山芋粉を買っていこう。
バーンと冒険者ギルドに飛び込んで、宣言した。
「お姉さん、薬師緊急指令を発動します!」
時刻はちょうどお昼前。冒険者たちはちらほら数人いる程度。みんな私を見てぽかーんとしてる。
なじみのお姉さんも驚いたけど、薬師緊急指令のことは知ってるようね。ギルドの受付なら当然だ。でも、冒険者で知ってる人は少ない。ブロンズランク以上の人なら半分くらいは知ってるかも、くらい。
「ど、どうしたのユリシィちゃん――いえ、薬師さま。ご用命を承ります」
いつもと違ってキリッとしたお姉さん。助かる。
「これ以降、デンジー廃鉱山ダンジョンに向かう人へ、松明の使用を禁止してください。ランタンは可です」
それを聞いたお姉さんはすぐに残っている冒険者達へ通達した。
「みなさん、お聞きの通りです。今後、デンジー廃鉱山ダンジョンでの松明の使用を、ギルドとして禁止します!」
みんなはざわざわしてるけど、お姉さんはさすがだ。理由も聞かずに対応してくれた。
「それと、ソンサ草、シマサツネ草を20本ずつ買い取ります」
お姉さんは首を振った。
「いえ、こちらは無償提供させていただきます。鉱山の毒の件ですよね。実はギルドでも問題になっていたんです。――どうか、冒険者たちをよろしくお願いします」
お姉さんが私にペコリと頭を下げた。うう、お姉さんにされると居心地わるいな……。
「ですが――ダンジョン内へは、決して一人では入らないで下さいね」
最後にはさすがににこやかなお姉さんの、いつもの顔だったよ……。
さあ行こうか、デンジー廃鉱山ダンジョンへ!




