12.ミミレちゃんの料理
さくさくっとイシイオ草の採取を終えて、ディープルの森を出た。
もう日が沈む時間だ。急いで街まで帰ろう!
ミミレちゃん、喜んでくれるかな。
これで食堂も元通り繁盛するといいね!
街に着いて私はすぐに、ミミレちゃんの食堂へ向かった。
あれっ? 店の前に誰かいるよ? 窓から中を覗いたり、入口の前でウロウロしてる、男の人。
怪しいなあ……。この店は親父さんがいなくなって、住んでるのはミミレちゃんとお母さんの、女性二人だけだ。
むむむ……。思い切って声をかけたよ。
「ちょいと、オジサン。ミミレちゃんの店の前で何してるのさ?」
突然声をかけられた怪しいオジサンは、ものすごく驚いて言い訳を始めた。
「ち、違うんだ……! 私は怪しい者じゃな、くって、な!」
ほおー。怪しい者じゃないんだー。って、誰が信じるか! 衛兵さーん!
誰か人を呼びに行こうとしたら、食堂の入口がガラッと開いた。出てきたのはミミレちゃんだ。
「どうしたの? なんだか騒がしいけど……ユリシィちゃん。おかえりなさい! それと……あっ」
ミミレちゃんがオジサンに気づくと、オジサンは気まずそうに頭を掻きながら照れ笑いした。
「や、やあミミレちゃん。いやあ、たまたま通りがかっただけなんだが、ね」
おや? お知り合いの方かな。それにしてはたまたま通りがかった、なんて嘘くさい言い訳してるけど。
大きい体にヒゲ面。ニッカポッカをはいてる、仕事帰りの大工さんといった風体だ。
「とにかく二人ともお店に入って。近所の人がこっち見てるよ」
おっと、下手に騒ぎになる前に早く店に入ろう!
お店の中でミミレちゃんに聞いたら、オジサンは元常連のお客さんだったんだって。料理人がミミレちゃんに代わってから、足が遠のいた人らしい。それで店に入りづらそうにしてたんだね。
私は一応オジサンにごめんなさいしておいた。でもホントにオジサンの挙動が怪しかったんだもん!
店に入ったんだからと、オジサンは渋々注文をしたんだけど、無難なパンと野菜スープだった。
オジサンそんな大柄な体して足りるわけないでしょ! だから私は言ってやった。
「オジサン! この店はボアの香草焼きがオススメだよ!」
まあ、元常連だからそれくらい知ってるだろうけどね。でもそう言った瞬間、オジサンとミミレちゃんの間に、緊張が走った。
「いや、その料理はいらん。注文通りにしてくれ」
さっきまできょどきょどしてたオジサンなのに、今度ははっきりと拒絶したんだ。
ミミレちゃんは一瞬ちらっと私を見た。
私はグッと親指を立てた。イシイオ草はしっかり採ってきたよ!
それを見たミミレちゃんは意を決して、オジサンに頭を下げた。
「お願いします! もう一度だけ、ボアの香草焼き、注文してもらえませんか?」
ミミレちゃんのお母さんも一緒になって頭を下げた。私も含めた三人からじっと見られて、オジサンはとうとう観念したよ。
「ああもう、まいったな。だが、一つ聞かせてくれ。また料理が不味かったら、タダにしてくれるのかい?」
「いいえ、お代はキッチリ頂きます!」
オジサンは推し測るようにミミレちゃんをじっと見た。
「そうかい。じゃあ、ボアの香草焼きをくれ」
***
私からイシイオ草を受け取ったミミレちゃんは、厨房へと向かった。緊張してたけど、イシイオ草を渡したらもう私にできることはない。大人しく待つことにした。ちなみに私は野菜スープを注文した。だって手持ちが足りなかったんだよ! 先にギルドに行けばよかったかな?
料理を待つ間、ぽけーっとしてたら、オジサンが話しかけてきた。
「お、おい嬢ちゃん。さっきから気になってたんだけどよ。嬢ちゃんがその、大事そうに抱えてる布の包み。ちらっと見えてるのは……」
「ああ、これ?」
オジサンが布が気になってるみたいだから、開いて見せてあげた。
「おいおい、まさか……これって、もりもりディアーのツノじゃねえか! 嬢ちゃん、もしかして冒険者、か?」
ふふん。へへ。
すごいでしょー。私が狩ってきたんだよ! ん? でも、このオジサン、もりもりディアーを知ってるなんて、ただの大工さんじゃないね?
そばで聞いていたミミレちゃんのお母さんが教えてくれた。
「この人は、ウチの旦那が冒険者やってた時のパーティ仲間だったんですよ」
ミミレちゃんのお父さんの冒険者仲間……! っていうことは。あっ、じゃあ、この人、イシイオ草のこと知ってたんじゃ?
「嬢ちゃんがさっきミミレちゃんに渡してた、あの草は……そうか。そうか」
オジサンは、ずっとミミレちゃんにイシイオ草のことを教えるかどうか迷っていたらしい。でも親父さんの、黙っていた意思を尊重したんだって。それに、前回の料理で代金を取らなかったことから、まだまだ料理人としての覚悟が足りないと判断したそうだ。
「ミミレちゃんも成長してるようだし、こんな大物狩ってくる冒険者が知り合いにいるんじゃあ、悩む必要もなかったようだなあ」
憑き物が落ちたようにほっとしたオジサンの前に、ミミレちゃんが作りたての料理を運んできた。私のところにも、お母さんが野菜スープを持ってきたよ。いただきまーす。
私とオジサンは、もぐもぐと料理を食べた。
ミミレちゃんとお母さんは、緊張の面持ちで様子をうかがっている。
うん。しっかりイシイオ草を活かした味が出てる。美味しい……でも。
「ごっそさん」
オジサンは、残さず最後まで食べ、目を閉じて余韻を楽しんでる。
「まあ、悪かなかったよ。でも、親父さんの域にはまだまだだなあ」
まあ、そうだよね。
何十年も料理を作ってきた親父さんと、習って数年のミミレちゃの料理が同じなわけがない。
でも最後まで食べてくれたことが嬉しくて、ミミレちゃんの目元には涙が滲んでた。
「ミミレちゃんは料理の素質があるんだろう。でもあいつの素質は、料理じゃなくて狩人だったんだよ」
へえ! そうなんだ。あんなに美味しい料理を作ってたのに。
「まあ、精進だな。いずれはあいつを超えるんだろうさ。また明日も来るよ」
オジサンは料理の代金をお母さんに渡して、満足げに店を出ていった。
その後、お店にはぽつぽつとお客さんが戻ってくるようになったんだって。前みたいな繁盛ってほどじゃなくても、何とかやっていけるくらいにはなったみたい。
二人からたっぷり感謝されたし、よかったかな。




