10.ディープルの森
ふう。お姉さんの察知能力を甘く見てたよ……。噂話は気をつけようね。
さて。ミミレちゃんにはお店で待っていてもらって、ディープルの森に行こう!
西門から街を出て、街道沿いにてくてく歩く。
40分くらい進むと、左手側、遠くに背の高い木々が増えてきた。あれがディープルの森だね。
街道を南に逸れる獣道を見つけた。森へ向かう冒険者たちがよく通るのだろう、道は踏み固められて歩きやすいよ。
この道をまた40分ほど歩いて、ようやくディープルの森だ。
森に一歩踏み入れると、まだ暑い季節なのに肌がひんやりとしてくる。うす暗くて、森の匂い。
薬師にとってはホームグラウンドだ!
まだここは第一区画。木々の密度も緩くて木漏れ日もあるので、見通しは悪くない。
脅威度の低い魔物しかいなくて安全だけど、大したものは収穫できない。
目当てのイシイオ草は第ニ区画にある。ここはとっとと通り過ぎよう。
森を進んでいくと、少しずつ木漏れ日も少なくなっていき、一瞬ふと、一段階空気が変わった感覚がした。区画を跨いだな。
ここはもう薄暗い森の奥。危険な空気に身が引き締まる。第ニ区画だ。
少し、戦いに慣れておこうかな。
あのすごい短剣を取り出して、気配を探る。……いた。この気配は――蹴りうさぎだ。
蹴りうさぎは森の第ニ区画の中ではけっこう厄介な魔物だ。敏捷な動きと力強いキックを得意としてる。出会い頭にいきなり飛び蹴りしてくるような、好戦的なやつだ。
蹴られても死ぬほどじゃないけれど、めちゃくちゃ痛いらしいよ。……うん、あいつはやめておこう。
そもそも素早いやつは専門外なんだ。泥モグラとか、なめくじとかみたいな、あんまり速くないやつでないと短剣が当たらないんだよ。
蹴りうさぎのいるところとは、逆方向に向かう。
姿勢を低くして進んでいくと、次に捉えた気配は角ムカデだ。
たくさんの脚で縦横無尽に移動して、角で攻撃してくる。硬い殻に守られていて防御力も高いよ。でも速さはそれほどでもないし、この短剣なら攻撃は通るかも!
いつもは見かけたら逃げてたやつだけど、今回は戦うよ。これでもウッドランク冒険者だからね!
目視できるところまで近づいた。おっと、離れたところにもう一匹いるよ。
二匹相手だけど、しょせんは虫だ。連携とかはしてこないから、落ち着いて一匹ずつ倒そう。
だいじょうぶ。デスなめくじより怖くはない。ふーはー。
むこうの角ムカデに気づかれないように位置を調整して、手前のヤツに、えいっ。地面の土を掴んで投げつけた。
こちらに気付いた手前の角ムカデが、怒って突っ込んでくる。わっ、怖い!
体長は80センチくらい。その額に付いてる角はさらに30センチくらいあって、こちらに向かってくる。でもかわすのは難しくなさそうだ。高さが無いからね。
問題は、短剣が通るかどうかだけど……トウ! かわしざまに短剣を突き立てる!
すごい、全く手応えがない。短剣はスルッとムカデを通り越して地面に突き刺さる。ムカデは進んでいた勢いで縦に真っ二つに裂けたよ……。
けっこうな音がしたから、もう一匹の角ムカデも気付いて襲ってきた。とにかく当てれば勝てるんだ。ていっ。
二匹目も軽々と真っ二つに。あの硬いムカデをこうも簡単に倒せるとか、すごすぎない!?
試しに近くの太い木に、この短剣で斬りかかってみた。トゥイ! アイタッ!
あれっ? 木を斬ろうとしたけど、普通の短剣を当てたみたいにかすり傷がついただけだったよ?
追加ダメージは魔物と戦うときでないと発現しないのかなあ……。
まあいいや。この短剣が強いのは確かなんだ。活動の幅が広がるぞ!
冒険者としてももっとランクがあがるかも。でも、あくまでメインは薬師だよ。いずれは中級ポーションにも挑戦したい。そのための素材も、この短剣を持って取りに行こう!
まあ、今はまず今夜の宿代を稼がなきゃなんだけど。
角ムカデのツノは、一本200ペネ。4体倒したら宿に泊まれるぞ。まずは二本。でもやっぱり、ツノの剥ぎ取りに短剣の追加ダメージは発生しなかった。硬いツノをナイフで無理やりひっぺがしたよ。
ツノの剥ぎ取りに集中してたから、気づけなかった。
獰猛な二つの瞳が、私を捉えていたことに。




