scene6 唯一の理解者 ― ヴィオレッタの立ち位置
魔力中枢。
渦巻く光の中で、魔王は再び――
ヴィオレッタだけを見ていた。
騎士団も、レオンも、その視線の意味に気づかない。
だが、ヴィオレッタは理解してしまう。
(……逃げ場、ないな)
魔王が、静かに言う。
「お前は、知っているな」
低い声。
問いではなく、確認だった。
「この世界が――
“物語”だったことを」
一瞬。
空気が、完全に凍りついた。
レオンが息を呑む音。
誰かが「……何を?」と呟く声。
だが、ヴィオレッタの耳には、もう何も入らない。
(……バレてる)
(やっぱり)
彼女は、内心で苦く笑った。
(隠しルートのボスってさ……)
(プレイヤーが“知ってる前提”で喋るんだよね)
ゲーム内でも、この台詞は異質だった。
主人公が何も言わなくても、
魔王だけが一方的に理解を示す。
魔王は続ける。
「お前は、外からこの世界を見た」
「結末も、分岐も、失敗も」
「そして――
私が、何であるかも」
ヴィオレッタの指先が、わずかに強張る。
(……ここまで)
(ここまで、踏み込んでくるか)
レオンが一歩前に出かけ、
だがヴィオレッタは、静かに手を上げて制した。
「……待ってください」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
騎士たちが戸惑う。
「ヴィオレッタ?」
彼女は、魔王から視線を逸らさない。
(ここで誤魔化しても、意味がない)
(この存在は――
“知っている者”にしか、話さない)
魔王は、わずかに満足そうに目を細めた。
「理解が早い」
「そうだ。私は、歪みから生まれた」
「だが同時に――
“想定された存在”でもある」
ヴィオレッタの胸に、確信が落ちる。
(やっぱり)
(こいつ……)
(転生者の存在すら、計算に入ってる)
魔王は、淡々と告げる。
「世界は、観測されることで固定される」
「だが、外から来た意識は違う」
「物語を“知っている”者は、
世界にとって最大の例外だ」
その言葉は、
ヴィオレッタの存在そのものを言い当てていた。
(……つまり)
(私は、バグであり)
(同時に、修正パッチ候補ってわけだ)
背後で、レオンが低く言う。
「……ヴィオレッタ」
「どういうことだ」
彼女は、少しだけ振り返る。
言えることは、少ない。
だが――隠すべきではないことも、ある。
「全部は、説明できません」
正直な答えだった。
「でも一つだけ」
彼女は、再び魔王を見る。
「この存在は、
ただ倒せば終わる敵じゃない」
騎士団に、緊張が走る。
魔王は、静かに頷いた。
「その通りだ」
「だからこそ――」
その視線が、再びヴィオレッタに戻る。
「お前が、ここにいる」
世界の歪み。
転生者。
隠しルート。
すべてが、この一点に収束していく。
ヴィオレッタは、理解した。
(……私は)
(“討伐隊の一員”なんかじゃない)
(この世界にとっての――)
彼女は、魔導銃を下ろさずに、静かに息を吐いた。
(調停者か)
(それとも――
物語破壊者か)
魔王は、最後にこう言った。
「選べ、ヴィオレッタ・アルマリク」
「この世界を、
“予定通り”終わらせるか」
「それとも――
書き換えるか」
その問いは、
剣でも魔法でもない。
物語そのものを賭けた選択だった。
ヴィオレッタは、ゆっくりと笑った。
(……ああ)
(やっぱり)
(一番難易度の高いルートに、入っちゃったな)




