scene4 仲間とのズレ ― 誰にも言えない真実
神殿内部を進む騎士団の列は、静かだった。
だがその静けさは、覚悟から来るものだ。
彼らは理解している。
――強大な魔王が復活した。
それを討ち、封印する。
明確で、分かりやすい目的。
前方を歩くレオンの背中は、迷いなく伸びている。
王子として、総指揮官として、
彼はすでに「戦う覚悟」を完了させていた。
(みんな……)
(同じ前提で、進んでる)
ヴィオレッタは、その一歩後ろで歩きながら、胸の奥に重いものを抱えていた。
彼らの理解は、間違っていない。
だが――足りていない。
(魔王は、倒せば終わりじゃない)
それが、彼女だけが知っている事実。
魔王は存在ではない。
現象だ。
世界の魔力が歪み続ける限り、
どれだけ討伐しようと、
形を変えて何度でも現れる。
(復活条件が、残ってる)
そして今、それは確実に満たされている。
ヴィオレッタは、視線を伏せる。
(言えるわけがない)
「これは乙女ゲームの隠しルートで」
「魔王は世界システムの例外処理で」
「条件を満たすと何度でも再出現して――」
そんな説明をして、
誰が信じる?
信じたとしても、
混乱が先に立つ。
戦場で最も危険なのは、
敵ではなく、判断の迷いだ。
(今それを投げるのは……)
(指揮官として、最悪)
だが。
黙っているという選択肢も、
同じくらい重い。
(このまま進めば)
(“倒した”つもりで、また同じ地獄が来る)
彼女は、拳をぎゅっと握る。
(私は、知ってる)
(知ってしまった以上)
(……知らないふりは、できない)
ヴィオレッタは、戦術顧問としてここにいる。
現場判断を任された立場だ。
撃ち合いの最中に、
致命的な情報を伏せることが、
許されるはずがない。
(でも、全部は言えない)
なら、どうする。
彼女は、ゆっくりと視線を上げる。
レオンが、振り返った。
「どうした?」
その一言に、
喉がわずかに詰まる。
(今、全部を話すべきじゃない)
(でも――)
(“魔王を倒せば終わり”という前提だけは)
(崩さなきゃいけない)
ヴィオレッタは、言葉を選ぶ。
世界の裏設定も、転生の記憶も、
口にしない。
ただ、結果だけを伝える。
「……レオン」
「一つだけ、共有しておきたいことがあります」
騎士団の足音が止まり、
数人がこちらを見る。
ヴィオレッタは、静かに続けた。
「今回の作戦」
「魔王を“倒す”ことだけを、勝利条件にしないでください」
空気が、わずかに張りつめる。
レオンの眉が動いた。
「どういう意味だ?」
ヴィオレッタは、正面から彼を見る。
「原因を断たなければ、終わりません」
「再発します」
それ以上は、言わなかった。
言えなかった。
だが、その一言には、
彼女が背負っている“知識の重さ”が、すべて込められていた。
(これでいい)
(今は、これで)
信じるかどうかは、彼ら次第だ。
だが――
(私は、警告した)
ヴィオレッタは、再び前を向く。
誰にも言えない真実を胸に抱えたまま、
彼女は戦場を進む。
この戦いは、
魔王討伐では終わらない。
そのことを知っているのは、
今のところ――
彼女一人だけだった。




