scene2 違和感の正体 ― ゲーム知識との一致
神殿の通路を進む中、ヴィオレッタの視線が、ふと壁面に吸い寄せられた。
石壁に刻まれた、複雑な魔導文様。
円環と直線が幾重にも重なり、意味を持たない装飾に見せかけて――どこか、意図的だ。
その瞬間。
頭の奥で、何かが弾けた。
(……これ)
心臓が、一拍だけ強く打つ。
(イベントCGで見たやつだ)
色も、配置も、完全に一致しているわけではない。
だが、構造が同じだ。
円の重なり方。
線の“逃がし方”。
中心をわずかに外した焦点。
――間違えようがない。
ヴィオレッタは足を止め、壁に刻まれた文様をじっと見つめる。
(まさか……)
脳裏に、転生前の記憶が鮮明に蘇る。
乙女ゲームの世界。
学園を舞台にした、恋愛と成長の物語。
表向きのシナリオでは――
学園で出会い、絆を深め、
最終的に魔王を討伐して世界は救われる。
王子とヒロインの、王道ルート。
だが。
その裏側には、誰にも気づかれない“もう一つ”があった。
(隠しルート……)
特定条件を満たし、
特定の選択をし、
そして――違和感を見逃さなかった場合のみ開くルート。
そこに登場する魔王は、
単なる「強敵」ではなかった。
(世界そのものが歪んだ結果、生まれた存在)
(バグを突いて、復活した存在)
ヴィオレッタは、無意識に歯を噛みしめる。
この文様。
隠しルート限定で登場する、
「魔力偏向陣」。
世界に流れる魔力の方向性を、
少しずつ、だが確実に書き換えるための装置。
魔王は、それを利用して――
いや、正確には。
(“力”で復活したんじゃない)
(“仕様の穴”を使ったんだ)
だから、ここまで不自然なのに、
世界がまだ崩壊していない。
だから、魔力は暴走せず、
「違和感」として現れているだけ。
ヴィオレッタは、ゆっくりと息を吐いた。
(……最悪だ)
この魔王は、倒せば終わりの存在じゃない。
一体のボスを撃破する、
そんな単純な話ではない。
(世界が、すでに――)
(侵食され始めてる)
騎士たちの会話が、遠くに聞こえる。
「魔力が安定しないな……」
「神殿特有の現象か?」
誰も、まだ気づいていない。
この神殿が、
“原因”そのものだということに。
ヴィオレッタは、静かに視線を伏せる。
(私だけが、知ってるルートか)
(……厄介だな)
乙女ゲームの隠しルート。
プレイヤーにすら、覚悟を要求した最難関シナリオ。
そして今、それが――
現実として、目の前に立ち上がっていた。
彼女は、魔導銃を軽く叩き、気持ちを切り替える。
(でも)
(知ってるってことは――)
(勝ち筋も、ある)
理解してしまった者として、
ヴィオレッタ・アルマリクは、すでに次の段階を見据えていた。
魔王の正体は、
“敵”ではない。
――世界の歪み、そのものなのだから。




