第10章:魔王軍との実戦 scene1 討伐遠征開始 ― 本物の戦場
荒野と廃村が混じり合う前線地帯は、息をしていなかった。
風は吹いているはずなのに、空気は重く、喉の奥にまとわりつく。魔力が澱んでいる――そう表現するしかない不快な圧が、地面からじわじわと立ち上っていた。
封印神殿へ向かう討伐遠征軍は、村外れで足を止めていた。
崩れた家屋、半ば地面に沈んだ石壁、焼け焦げた井戸。かつて人が暮らしていた痕跡が、すべて「途中で途切れている」。
前方を警戒していた斥候が、短く報告する。
「魔獣、複数。下級魔族も混じっています。距離、近い」
その言葉だけで、周囲の空気が一段引き締まった。
遠くの瓦礫の影で、歪んだ影が蠢くのが見える。魔王軍の斥候だ。数は多くないが、確実にこちらを“見ている”。
学園大会とは、まるで違う。
あの時は、被弾すれば退場だった。
ここでは――撃破は、死を意味する。
騎士たちは歯を食いしばり、盾や魔導武器を握り直している。長年戦場に立ってきた者ほど、余計な言葉を発さない。
一方で、学園出身の者たちの中には、視線を泳がせる者もいた。呼吸が浅く、指先が震えている。
「……これが、本物かよ」
誰かが小さく呟いた声は、すぐに沈黙に飲み込まれた。
その中で、ヴィオレッタは静かだった。
魔導銃を構えながら、地形と敵影、味方の配置を淡々と視界に収めていく。
(ルールは同じ)
頭の中で、自然にそう整理していた。
(負けたら終わり)
それは恐怖でも、悲壮な覚悟でもない。
ただの事実確認だ。
(それだけ)
彼女の視線は、すでに次の一手を探していた。
ここは“本物の戦場”だが――
彼女にとっては、条件が厳しくなっただけのフィールドに過ぎなかった。




