scene7 レオンとヴィオレッタの対話
王城・回廊。
夜。
高い天井に並ぶ魔導灯が、静かな青白い光を落としている。
昼間の喧騒が嘘のように、人影はない。
石畳を踏む足音が、二人分だけ響く。
先に歩いていたレオンが、足を止めた。
振り返らずに、低く言う。
「討伐遠征が決まった」
夜気に、言葉が溶けていく。
「王子として……行く」
それは報告であり、
同時に覚悟の表明だった。
一拍。
ヴィオレッタは、驚いた様子もなく答える。
「……でしょうね」
短い言葉。
だが、そこに軽さはなかった。
レオンが、わずかに眉を動かす。
「止めないのか」
ヴィオレッタは、歩みを止め、彼の横に並ぶ。
「止める理由がありません」
「あなたは王子で、総指揮官で……」
「それに」
一瞬だけ、視線を上げる。
「逃げる人じゃない」
沈黙。
魔導灯の光が、二人の影を床に落とす。
影は、ほぼ同じ長さだった。
レオンは、ゆっくりと彼女を見る。
学園で見ていた婚約者でも、
守るべき令嬢でもない。
大会で戦った指揮官。
戦場を読んだ“同類”。
その認識が、今、完全に切り替わる。
「……危険だ」
それでも、口に出たのはその言葉だった。
ヴィオレッタは、小さく笑う。
「今さらですね」
「学園大会だって、十分危険でした」
「それに――」
一歩、前に出る。
「前線に立つなら、後ろに置かれる方が困ります」
その言葉に、レオンは息を詰めた。
彼女は、守られる位置を拒んだ。
当然のように。
レオン(心)
(この人は――)
(もう、後ろに置いておく存在じゃない)
王子としての理性が、
一人の男としての感情が、
静かに噛み合っていく。
「……もし、君が選ばれたら」
言葉を選ぶように、続ける。
「同じ戦場に立つことになる」
ヴィオレッタは、迷いなく頷いた。
「そのつもりです」
夜風が、二人の間を抜ける。
距離は、近くも遠くもない。
上下でも、主従でもない。
並び立つ者同士の距離。
レオンは、回廊の先――
闇に沈む城門の方向を見る。
「王子として、命じることはしない」
「……一人の指揮官として、頼むかもしれない」
ヴィオレッタは、ほんの一瞬だけ目を細めた。
「それなら、受けます」
魔導灯の下で、
二人の影が、完全に重なる。
この夜、
彼らの関係は静かに変わった。
守る者と守られる者ではなく――
同じ前線に立つ者同士として。
物語は、次の段階へ進み始めていた。




