scene8 王子レオンとの初対面(ズレの始まり)
学園の中庭。
初登校の生徒たちが集められ、
王族・名家の子息が順に挨拶をする――
乙女ゲームで最初の“王子との出会いイベント”。
本来なら、ここで悪役令嬢ヴィオレッタが
「レオン様、こんな雑多な場に立つ必要はありませんわ」
と上から目線で噛みつく、お決まりのシーンだった。
だが――
(そんなイベント、俺は知らん!)
蓮は静かに列の端で待っていた。
◆ 王子の登場
周囲の生徒たちがざわつき始める。
「レオン殿下だ……!」
「今日も負けヒロイン泣かせの美貌……」
「しかも今年はサバゲー大会に本気って噂……」
現れたのは金髪碧眼、
凛とした雰囲気を纏った青年――王子レオン。
王族特有の魔力がひと目でわかるほどの威圧感。
強く、美しく、そしてゲーム内でも圧倒的人気のキャラだ。
(うわ……本物のレオン様、イケメンすぎるだろ……
ていうかオーラの暴力……)
蓮が感心していると、
王子の視線がふっと自分の方へ向けられた。
◆ 予定されていた“悪役ムーブ”は起きない
レオンはゆっくりと近づいてくる。
そして立ち止まり――
「……ヴィオレッタ、今日はずいぶん静かだな」
本来なら
「レオン様? わたくしの態度に何か不満でも?」
と冷笑を浮かべて返すところ。
しかし蓮は自然体で、首を傾げた。
「え? いや……普通ですけど?」
レオンは、瞬きを忘れたように固まった。
「……普通?」
「はい。
あ……その、挨拶の間に割り込むのも失礼ですし」
淡々とした、どこにでもいる“常識人”の返答。
周囲の生徒たちまでざわっとする。
「えっ……ヴィオレッタ様が、普通……?」
「毒の入ってない声だ……!」
「殿下に噛みつかない……嘘だろ……?」
◆ レオンの違和感
王子は、黙ってヴィオレッタを見つめた。
そのまなざしには、
明らかに“何か決定的に違う”という警戒が混じっている。
(あ、これ絶対『性格変わった』疑われてるやつだ……!)
蓮は内心冷や汗をかきながら、軽く頭を下げる。
「では、私は持ち場に戻りますね。
レオン様も、ご挨拶がんばってください」
にこ、と穏やかに笑ってその場を離れた。
――その瞬間。
王子レオンは動揺をごまかすように、横顔を伏せた。
「……笑った……だと?
ヴィオレッタが……?」
小さく呟く声は、誰にも届かない。
だがここで、
“王子のルートが少しだけ軌道を外れ始めた”。
彼はこの日を境に、
悪役令嬢ヴィオレッタに対して“観察”を始めることになる。




