scene6 ヴィオレッタへの視線
王城内・非公式会議室。
公式の謁見が終わった後、
重臣や騎士団上層部だけが残る、小さな円卓。
豪奢な装飾はなく、
ここでは立場よりも“結論”が優先される。
重い扉が閉じられ、
結界魔法が静かに展開された。
騎士団長が、机の上に数枚の魔導記録を広げる。
そこに映し出されているのは――
王立魔導戦技大会、決勝戦の一場面。
瓦礫の舞う中、
的確に指示を飛ばし、
最短手で戦場を制圧していく少女の姿。
「ヴィオレッタ・アルマリク」
低い声が、名前を告げる。
「一年生。貴族令嬢。戦技大会優勝者」
別の騎士が続ける。
「注目すべきは、撃破数ではありません」
映像が切り替わる。
部隊配置図。
射線の可視化。
敵味方の動線予測。
「指揮能力が異常に高い」
「状況判断が早すぎる」
「迷いがない。――まるで実戦慣れしている」
一人が、ぽつりと言う。
「学園の戦技とは思えん」
別の者が頷く。
「いや……」
「学園だからこそ、あの動きは異質だ」
騎士団長が腕を組む。
「サバゲー的、と言えばそれまでだが――」
「この国では、それはそのまま実戦能力だ」
沈黙。
誰も反論しない。
「撃ち合いを避け、陣地を取り」
「無駄な被害を出さず」
「勝利条件だけを確実に踏み抜く」
資料を閉じる音が、静かに響く。
結論は、もう出ていた。
「彼女は――」
一拍。
「使える」
それは称賛ではない。
期待でもない。
判断だ。
戦力として、計算に入るかどうか。
その瞬間、
ヴィオレッタ・アルマリクは、
“学園の優勝者”から
“王国の候補”へと、無言で格上げされた。
―――――
同じ頃。
王城の中庭を歩く、ヴィオレッタ。
城に呼ばれた理由は、まだ正式には告げられていない。
ただ、
通路ですれ違う騎士たちの視線が、
明らかに変わっていることに気づいていた。
(……あ)
背筋を撫でる、冷たい感覚。
学園で浴びてきた視線とは、質が違う。
尊敬でも、好奇心でもない。
値踏み。
計測。
選別。
ヴィオレッタ(心)
(これは……)
(“選手”を見る目じゃない)
足を止めずに、思考だけが走る。
(討伐隊)
(魔王)
(王国規模の動き)
点と点が、静かに線になる。
彼女は、小さく息を吐いた。
(……なるほど)
(物語が、本気で俺を使いに来たか)
だが、恐怖はなかった。
むしろ――
(まあ、いいや)
(使えるなら、使われてみるか)
その瞳には、
覚悟でも諦めでもない、
戦場を前にした、プレイヤーの静かな高揚が宿っていた。
この瞬間から、
ヴィオレッタ・アルマリクは
学園の枠を、完全に越え始めていた。




