scene4 王国の混乱
王都に、鐘の音が鳴り響いた。
低く、重く、連続して――
祝祭の終わりを告げる音ではない。
緊急鐘だ。
「――何事だ?」
通りに出ていた市民たちが、足を止める。
昨日まで、勝者を称える歓声で満ちていた石畳が、
一瞬で不安に染まった。
鐘は止まらない。
それは、国そのものが揺れていることを告げていた。
王城から放たれた魔導伝令が、街中に響く。
「王国令、発布!」
「王都全域において、外出制限を実施する!」
「不要不急の移動を禁ず!」
ざわめきが、恐怖へと変わる。
露店は急ぎ畳まれ、
店主たちは扉を閉め、結界を展開する。
空には、騎士団の飛行魔導具が次々と浮かび上がった。
銀色の隊列。
迷いのない編成。
即時動員。
それが意味するものを、
市民たちは嫌というほど理解していた。
「……本当に、何かあったんだ」
「戦争……なのか?」
王都の門が閉ざされる。
重い鉄の音が、
昨日までの平穏を完全に切り離した。
同時刻。
王国中へ、動員要請が飛ぶ。
各地の貴族領へ。
「騎士団の即応部隊を提出せよ」
「魔導戦力の登録と集結を命ず」
「拒否は、許されない」
それは、訓練でも演習でもない。
実戦要請だった。
学園。
王立エルディナ学園の空気も、一変していた。
掲示板に貼られた新たな通達。
「学園行事、当面すべて中止」
「上級生の一部、王国指揮下へ編入」
「魔導戦技大会、正式終了」
昨日まで、
“娯楽”として語られていた戦技大会。
勝敗に歓声を上げ、
戦術を褒め合っていたあの時間。
それが、一夜にして――
「戦争の予行演習」だったと突きつけられる。
ヴィオレッタは、学園の中庭に立ち、
遠くに聞こえる鐘の余韻を感じていた。
風が、冷たい。
昨日と同じ空なのに、
まるで色が違って見える。
ヴィオレッタ(心)
(ああ……)
胸の奥で、何かが静かに噛み合う。
(来たな)
(物語の“本編”が)
サバゲーとして楽しんできた戦場。
勝つことを目的に、考え抜いた戦術。
それらすべてが――
「実際に人が死ぬ場所」へと、繋がっていく。
彼女は、ゆっくりと拳を握った。
恐怖は、ない。
あるのは、理解だ。
この世界は、
もう“大会編”では終わらない。
そして彼女自身も、
観客でいることを許されない場所へと、
足を踏み入れようとしていた。




