scene3 古代神殿の再起動
王都・王城内。
幾重もの結界に守られた、最奥の会議室。
長い楕円形の卓を囲むのは、
王族、騎士団上層部、魔導院の長老たち。
誰一人として、軽い表情の者はいない。
壁面に展開された魔導スクリーンが、
辺境地図を映し出している。
赤く点滅する一点。
「報告します」
魔導院の使者が一歩前に出た。
「辺境地域、旧アル=レギウス領」
「そこに存在する封印神殿にて、異常発光を確認」
ざわ、と低いざわめきが走る。
「封印神殿だと……?」
「まだ、機能していたのか」
使者は続ける。
「発光は段階的に増幅」
「封印機構の一部が、自律的に再起動しています」
騎士団長が、眉をひそめる。
「再起動……?
破壊ではなく?」
「はい。破壊ではありません」
「封印そのものが、内部からの圧力に反応している」
魔導スクリーンが切り替わる。
映し出されたのは、神殿内部を模した魔力断面図。
中心部に、異様な反応が渦巻いている。
「内部から、強大な魔力反応を検知」
「出力は……既存の魔導兵器を、遥かに上回ります」
誰かが、唾を飲み込む音がした。
王族席に座る老王が、静かに口を開く。
「……つまり」
「封印されていたものが、動き始めたと?」
魔導院長が、ゆっくりと頷いた。
「はい」
一瞬の沈黙。
その沈黙を破るように、
魔導院長は、はっきりと告げる。
「結論を申し上げます」
会議室の視線が、一点に集まる。
「魔王復活の兆候――ほぼ確定です」
言葉が落ちた瞬間、
空気が重く沈んだ。
否定の声は、上がらない。
代わりに、確認するような問いが出る。
「……“ほぼ”、ということは?」
魔導院長は、即答する。
「完全復活には至っていません」
「現在は、封印と覚醒の中間段階」
「力の一部が、外界へ漏れ出している状態です」
騎士団長が、低く唸る。
「まだ、止められる……?」
魔導院長は、視線を伏せた。
「“今なら”です」
そして、言葉を選ぶ余地なく続ける。
「ただし」
「この段階を越えれば、封印は不可逆的に崩壊します」
「再封印は不可能」
「討伐以外の選択肢は、失われるでしょう」
会議室に、重苦しい沈黙が広がる。
老王は、目を閉じ、深く息を吐いた。
「……時間は、どれほど残されている」
魔導院長は、わずかに首を振る。
「正確には測れません」
「ですが――」
「猶予は、長くありません」
その言葉が、
この会議のすべてを決定づけた。
魔王は、まだ完全には復活していない。
だが、確実に――目を覚ましつつある。
放置は、許されない。
王都の静けさの裏で、
世界は、次の局面へと踏み出そうとしていた。




