scene2 大陸規模の魔力異常
王立エルディナ学園・中央塔。
その最上階にある緊急観測室は、常に静謐を保つ場所だ。
――本来なら。
今は違う。
魔導計測盤が複数起動し、
淡い光の魔法陣が床と空中に幾重にも展開されている。
水晶式の観測器が低く唸り、
数値を書き換えるたび、空気が軋むような音を立てた。
教師、研究者、魔導技師。
学園でも指折りの専門家たちが集められている。
誰も、雑談しない。
一人の研究者が、震える指で報告書をめくった。
「……北部山岳地帯、魔力濃度、急上昇」
「通常値の……三倍です」
別の声が重なる。
「南方沿岸でも同様の反応確認」
「こちらは、流れが逆転しています」
「逆転……?」
誰かが言葉を失った。
魔力は、自然界では一定の循環を保つ。
湧き、流れ、拡散する。
それが“逆流”するというのは――
ありえない。
観測室中央の巨大な魔導スクリーンに、
大陸全図が投影される。
無数の光点が、同時に明滅していた。
「東西中央……ほぼ、全域です」
「発生時刻、誤差一分以内」
ざわり、と空気が揺れた。
「同時多発……?」
「自然現象で、そんな同期が……」
一人の老教師が、喉を鳴らす。
「ない。断言できる」
スクリーンに、次のデータが重ねて表示される。
魔力波形――歪みのパターン。
その瞬間、
何人かの研究者が、同時に息を呑んだ。
「……似てる」
「いや、これは……」
視線が、一人の女性に集まる。
教師エレナは、黙ってスクリーンを見つめていた。
指先が、わずかに震えている。
彼女は、学園でも数少ない
古代魔導式に精通した研究者だ。
エレナは、ゆっくりと口を開いた。
「魔力濃度の急上昇」
「逆流」
「波形の周期性」
一つ一つ、確認するように言葉を並べる。
「……古代魔導式と、酷似しています」
誰かが、かすれた声で問う。
「儀式……ですか?」
エレナは、否定しなかった。
静かに、しかしはっきりと告げる。
「……儀式型です」
その一言で、
観測室の空気が、完全に凍りついた。
儀式型魔導。
個人や一部隊では不可能な、
大陸規模の魔力操作。
伝承でしか語られないはずの――
“世界を動かす魔法”。
誰もが、同じ結論に辿り着いていた。
これは、異常ではない。
事故でも、暴走でもない。
――誰かが、意図してやっている。
スクリーンに映る光点は、
なおも脈打つように明滅していた。
まるで、
眠っていた何かが、目覚めつつあるかのように。




